分散型技術により可能になるWeb3.0
ブロックチェーンをはじめとする分散型ネットワークの台頭によってこれからの時代が大きく変わっていく。そのような次世代の世界観を表す文脈で語られることの多い概念のひとつに「Web3.0」があります。
Web3.0とは、Web1.0およびWeb2.0に続く、ウェブサイトおよびインターネットの潮流、特徴および構造を表している概念です。「Web」とついていますが、必ずしもウェブの発展のみを指しているわけではなく、広義でインターネット全般の変遷を表しています。
Web1.0、2.0および3.0の定義については諸説あり、明確に規定されてはいません。大まかには、「ウェブの父」として知られるティム・バーナーズ=リーが、1989年にワールドワイドウェブ(WWW; World Wide Web)を発明して以降の初期インターネットがWeb1.0、GoogleやAmazon、FacebookなどのSNSに代表される、私たちが現在最も馴染みのあるインターネット構造がWeb2.0、そしてブロックチェーンおよび分散型台帳技術により可能になる、ユーザー主権かつ分散型のインターネット構造がWeb3.0と呼ばれています。
今回の記事ではインターネットの歴史を「Web1.0」から順に紐解きながら次世代インターネット空間を考える際に重要なキーワードとなる「Web3.0」について解説していきます。
Web1.0とは?ー初期インターネット
ワールドワイドウェブは、1989年にティム・バーナーズ=リーによって考案されました。彼は初期のウェブコミュニティを「分散型(Decentralisation)」、「無差別(Non-discrimination)」、「ボトムアップ設計(Bottom-up design)」および「普遍性(Universality)」などと形容しており、「ウェブ上の投稿にはいかなる中央組織の許可も要らず、(中略)見境のない検閲および監視からの開放を意味している」と述べています。
その後、1999年刊行の雑誌『Fragmented Future』でウェブデザイナーのダルシー・ディヌッチ氏が近代のインターネット空間のあり方を「Web2.0」と定義したことから、相対的にWeb1.0の概念が生まれました。一般的にはワールドワイドウェブが始まった1989年から2000年代初期までの、インターネット黎明期におけるウェブ構造をWeb1.0と呼んでいます。
1990年代の多くのウェブサイトは静的なHTMLページやHTMLマークアップのシンプルなページが主流で、その多くは一方的な情報発信と受信に限られるものでした。インターネットの速度も低速かつ不安定であり、インターネットの利用が生活と深く結びついている層は現在と比べると非常に限定的な層に限られていました。
現在のように人々がスマートフォンを持ち常時インターネットに接続されている状態と比べれば、Web1.0の時代はダイアルアップという電話回線で必要な時のみデスクトップからインターネットに接続をし、静的なWebページを閲覧したり、簡単なチャットをするに留まっていたため、この段階ではインターネットが人々の生活や行動様式にどのような変化をもたらすのか、一部のヘビーユーザーを除き世間一般に広く認識されている段階ではありませんでした。
Web2.0とは?ービッグテック覇権
Web2.0とは端的にいえば、GoogleやAmazon、Facebookなどのテクノロジー企業が大きな影響力を持つ現在のインターネットのあり方を示したものです。このような企業は、「ビッグテック」や「テックジャイアント」と総括され、彼らが台頭してきた2000年代半ばが、概してWeb2.0の始まりだと言われています。
Web2.0の時期になると、インターネットはADSLや光回線などの普及により速度や安定性が上がっただけではなく、日本では2008年にiPhoneが上陸したことによりスマートフォンの普及が加速度的に増加し、常時インターネットに接続することが主流になりました。
これに伴うソーシャルメディアの普及により、SNS上で誰でも発信ができ、誰もが広範囲で人と繋がることができるようになりました。Webが「双方向」で「参加型」になったことにより、インターネットはWeb1.0時代のような一部のパワーユーザーのためのものだけではなく、広く人々の生活に普及していくことになります。
また、インターネット上に普及したサービスはクラウドデータベースを活用したものが主流となり、ユーザーがさまざまなサービスを無料で利用できるようになりました。
その一方で、利便性や無料サービスの代償として、権力が一箇所に集中することによる弊害も生じています。
Web2.0の問題点を大きく分けて3つ紹介します。
- 個人情報・プライバシー問題
- ハッキング・単一障害点
- ネット検閲
個人情報が特定の企業に一極集中し、ユーザーの知らないところで、企業側がビッグデータとして個人データを売買したり、マーケティングに利用することで莫大な利益を得ていることが問題視されています。
オンラインショッピング時のカード情報やSNS投稿時の位置情報など、ユーザーに関する様々な情報を、企業が収集、分析および売買しています。しかし、どのような情報がいつ、誰に売買されているか、ユーザーは知る由もありません。つまり、個人情報や個人データの管理権が、ユーザー自身ではなく、企業の元に存在しています。
誰もがオンライン上で活動をする時代における「個人データ」は単なる電子データではなく「個人そのもの」と同等の価値を持つものです。元CIA諜報員でありハッカーのエドワード・スノーデン氏は「個人情報が交換されるということは人間そのものが交換されることと一緒だ」と警鐘を鳴らしています。
ビッグテックなどの企業を中心とした、中央集権型のWeb2.0構造には、集権的な単一障害点(そこが崩れてしまうとシステム全体が崩壊してしまうような箇所)が存在しています。
個人情報がビッグデータとして価値を持つ時代、大量のデータを特定の企業がサーバーで一極体制で管理していることは悪意のあるハッカーにとって格好の攻撃対象となります。システムの単一障害点さえ突破すれば多額で売買が可能な個人情報を得られるということは、ハッカーにとってコストパフォーマンスの良いハイリターンなビジネスです。
インターネットが中央集権的で、一部の組織によって管理されているということは、その中央組織の承認がなければ、インターネット上での活動に制限が生まれてしまうということを意味しています。例えば、あるSNS運営企業が、自社プラットフォームに書き込める内容に制限を設けた場合や、国や政府が閲覧できるウェブサイトを限定した場合、それは表現の自由に抵触する可能性もあります。
実際21年1月にトランプ元大統領のTwitterアカウントが永久凍結された際には、これはTwitter社による人権侵害であるという主張と、特に元大統領の発言を危険とみなした場合、Twitter社が利益追求のために元大統領のアカウントを永久停止するのは当然の権利だという主張が対立し、議論が巻き起こっています。
Web3.0とは?ー分散型ウェブ
こうしたWeb2.0の課題を受けて注目されているのが、パブリックブロックチェーンをはじめとする分散型ネットワークを活用した、非中央集権型のWeb3.0と呼ばれる新しい次世代のWebのあり方です。一部の中央集権組織によるインターネット支配からの解放を求めるWeb3.0の概念は、Web1.0で紹介した、ティム・バーナーズ=リーが考える初期ウェブコミュニティがあるべき姿と類似しています。
Web1.0から2.0への変遷では、ユーザー層やインターネット上でのユーザーの行動に変化があった一方、Web2.0からWeb3.0では、分散型台帳技術の登場により、ネットワークを支えるインフラに大きな変化がありました。
ブロックチェーン技術および分散型台帳技術では、暗号学およびハッシュ関数を活用することにより、ビッグテックのような中央組織ではなく、ネットワーク参加者が、ネットワークおよびネットワーク上のデータを管理しています。管理権が一箇所に集中していないことから、この構造は「分散型」や「非中央集権型」と描写されます。
分散型台帳技術
分散型台帳技術はDLTとも呼ばれ、英語の(Decentralized Ledger Technology) の省略で、日本語訳したのが分散型台帳技術である。「De-centralized = 中央集権でない(つまり非中央集権)」な台帳技術(Ledger Technology)のことである。
Web3.0で変わること
このような分散型技術を土台としたWeb3.0には、以下のような利点および特徴があります。
- ユーザー自身がデータ所有権を掌握
- ピアツーピア取引による仲介組織の排除
- 単一障害点の排除
- 検閲耐性
単一の中央管理者が存在していないため、ユーザーが自身のデータ管理権を掌握でき、データがユーザーの許可なく利用されることはありません。この前提の下、ユーザーが許可した場合のみ、そのデータが共有されるため、現在のように、ユーザーの知らないところでデータが売買されるなどの状況が改善されます。
Web3.0はピアツーピア・インターネットとも呼ばれるように、中央組織のサーバーを介してではなく、ユーザー同士が直接繋がることができます。この好例の一つが、下記に説明されているIPFSと呼ばれるファイル共有システムです。
分散的な方法でネットワークが構成されていることにより、Web2.0で問題視されていた単一障害点がなくなり、技術的により堅牢なシステムが構築されています。
中央集権組織が存在しない分散型ネットワークには、いかなる組織および機関の承認なしに、誰でも参加できます。SNSコンテンツや入手できる情報を、検閲および制限する組織も存在していないため、地理的条件や思想などにより差別されることなく、誰でも利用可能です。
Web3.0プロジェクト・組織
Web3.0という概念はここ数年の間に台頭してきたものですが、既にWeb3.0の実現に向けて、本格的に取り組んでいるプロジェクトがいくつか存在しています。
Web3.0では現在のクラウド型からブロックチェーンなどの分散型フレームワークを基盤としたアプリに移行していくと言われています。こうした自律分散型アプリケーションの総称は「DApps(Decentralized Application)」と呼ばれ、 現在数多くの分野でDAppsの開発が進んでいます。
Web3 FoundationーWeb3.0促進組織
Web3 Foundationとは、分散型ウェブ用アプリケーション開発を促進する組織であり、イーサリアムの共同創設者兼元CTOのGavin Wood博士を中心に設立されました。Web3 Foundationは、「企業ではなくユーザーがデータ管理」、「安全かつグローバルなデジタルトランザクション」「分散型の情報および価値交換」を信条に運営されています。
Web3.0発展を目的として、Web3 Foundationは、分散型ソフトウェアプロトコル分野のプロジェクトおよびリサーチ機関を対象に、助成金プログラムを実施しています。これまでに50以上の国で、200を超える多種多様なプロジェクトが助成金を受け取ってきました。
これまでに助成金を受け取ったプロジェクトには、Polkadotテストネットに世界で初めて接続した、日本発のパブリックブロックチェーン「Plasm」を開発する「Stake Technologies」や、代替不可能な現物資産のトークン化を可能にするサービス「Tinlake」開発を行う「Centrifuge」などが含まれています。
Polkadot
Polkadot(ポルカドット)とは、Web3 Foundationが主導で開発を行う、相互運用性強化に特化したネットワークです。ブロックチェーンを初めとした分散型台帳技術の発展により、Web3.0の実現可能性が高まっている一方で、現在のブロックチェーン技術では、特に異なるチェーン同士の相互運用性、およびスケーラビリティ(拡張性)に限界があります。
Polkadotは、ネットワークの中核を担う「リレーチェーン」、およびリレーチェーンに並行に接続する「パラチェーン」という独自のネットワーク構造を有することにより、このようなボトルネック解消に取り組んでいます。
この他にもまた、フォーク無しでアップグレードが可能な点、セキュリティがプールされている点、およびオンチェーンガバナンスが実装されている点など、他のブロックチェーンプロジェクトとは一線を画す特徴を持ち合わせています。
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イーサリアムーWeb3.0アプリ構築プラットフォーム
イーサリアム(ETH)ブロックチェーンは、多くのWeb3.0プロジェクトが基盤としているプラットフォームです。イーサリアム自体が、分散的かつ中央集権組織に頼らない方法で運営されている上に、あらゆる契約およびトランザクションを自動化できるスマートコントラクト機能が内在しているため、Web3.0アプリケーションの構築に適しています。
Web3.0アプリケーションはしばしば、dApp(Desentralized Application/分散型アプリケーション)とも呼ばれています。
イーサリアムdAppの中でも特に著名なものが、DeFi系dAppです。日本語では分散型金融と訳されるDeFi(Decentralized Finance)とは、銀行や交換業などの中央集権的仲介者を必要としない、新たな金融システムを指しています。
金融の非中央集権化を目指すDeFiは、Web3実現を目指す取り組みの一環であり、20年に起こったDeFiの活況は、Web3.0興隆の先駆け的動向であるという見方もあります。
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IPFS・FilecoinーWeb3.0ファイルストレージ
オープンソース技術開発および研究機関「Protocol Labs(プロトコルラボ)」は、単一障害点のない分散的な方法でファイルの保管を可能にするシステム、IPFS(InterPlanetary File System)およびFilecoin(FIL)の開発を行っています。これらにより、従来GoogleクラウドやAWS(Amazon Web Services/アマゾンウェブサービス)が提供してきたサービスを、ピアツーピアで行うことできます。
最近では、後述のBraveが、IPFSをネイティブにサポートすることを発表し、話題となりました。
IPFSとは、現在インターネットで一般的に利用されている「HTTP」プロトコルに代わる、ピアツーピアのプロトコルです。HTTPプロトコルは、サーバーに保管されているファイルの中から、クライアントが取得したいファイルの場所を指定する「ロケーション指向型」プロトコルであり、クライアントの要求にサーバーが応えるような形で機能しています。
このような仕組みから、サーバーに権力が集中する、中央集権的構造になっています。一方でIPSFは、ハッシュ値で表されたファイルのコンテンツを指定することによりファイルを取得する「コンテンツ指向型」プロトコルであるため、一つのサーバーに依存せずに、複数のネットワーク参加者が同じハッシュ値(=コンテンツ)を所有できます。これにより、分散的なファイル保管が可能になります。
Filecoinとは、ファイル保管を可能にしているピアツーピアのネットワークであり、IPFSに欠如している経済的インセンティブを補完しています。IPFSでは分散的な方法でファイル保管が可能ですが、他のユーザーのファイルを保管しておくためのインセンティブが内在していません。
そこで、Filecoinの仕組みをIPFS上に構築し、ファイル保管スペースを他のユーザーに貸し出したユーザーに対して、Filecoinで報酬を与えることにより、一種のファイル保管スペース市場、および経済的インセンティブが創出されています。
前述のPolkadotやイーサリアムでは、バックエンドの分散化のみ可能ですが、IPFSおよびFilecoinシステムを活用することにより、フロントエンドの分散化も可能になります。
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The Graph — Web3.0検索プロトコル
「The Graph」とは、イーサリアムやIPFSなどの分散型ネットワークにおいて、分散的な方法で、データのインデックスおよび検索を可能にしているプロトコルです。その機能から、「ブロックチェーンのGoogle」とも称されています。
パブリックブロックチェーン等の分散型かつオープンなネットワークでは、全てのデータが公開されており、その正当性の検証が可能です。Web3.0系プロジェクトが発展し、その数が増加していくにつれ、入手できるデータの数も増えていきます。
The Graphでは、インデックスおよびクエリ処理を行い、いわゆるノードの役割を果たすIndexer(インデクサー)、インデクサーにシグナルを出すCurator(キュレーター)、および特定のインデクサーを支持するDelegator(デリゲーター)から構成されるネットワーク内に構築されている、「subgraph(サブグラフ)」と呼ばれるオープンなAPIを介して、このようなデータを、高速かつ安全にクエリしています。
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Brave — Web3.0ブラウザ
Brave(ブレイブ)とは、プライバシーに配慮した分散型広告システムを搭載している、Web3.0系のブラウザです。
従来の広告モデルでは、広告主およびユーザーの間でリアルタイムの入札が行われることにより、ユーザーへ広告が表示されていました。このモデルでは、広告主およびパブリッシャー(広告を表示するプラットフォーム運営者)の利害が一致し、収益が最適化されている一方、ユーザーの同意なしに広告が表示されています。
そのため、ユーザーの許可なしで広告用の画像および動画がダウンロードされ、デバイスの負担が増加しているだけでなく、広告主を初めとして、ユーザーの管理が及ばないところで、ユーザーのデータが共有されています。
この状況を問題視しているBraveのブラウザ上では、従来の広告モデルではなく、プライバシー保護に特化した、独自の広告モデルが採用されています。Braveの広告モデルでは、ユーザーのデバイス上で、広告のマッチングが行われるため、ユーザーの情報がローカルデバイスから流出することはありません。
また、広告ブロック機能がデフォルトで搭載されているため、ユーザーの許可なしに広告が表示されることもありません。広告が表示される場合は、ユーザーの合意の下、ユーザーにとって負担にならないサイズの素材で表示されます。
Braveでは、この新たな広告モデルを稼働する経済的インセンティブとして、BATトークンを導入しています。
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Orchid — Web3.0VPNサービス
オーキッド(Orchid)とは、Web3.0で提供されている利点の一つ、デジタルプライバシー保護をミッションに掲げ、VPNサービスに特化した分散型プラットフォームを開発しているプロジェクトです。
オーキッドのVPNサービスでは、オーキッド自体が単一の帯域幅プロバイダーとして機能しているのではなく、他のプロバイダーと協業し、分散的なプロバイダーのネットワークを形成しています。VPN接続を希望するユーザーに対して、このネットワークの中から、ランダムにプロバイダーが選出されます。
このような仕組みにより、単一障害点が取り除かれるだけでなく、マルチホップVPN接続が可能になるため、より高度なプライバシーが維持できます。
またオーキッドでは、帯域幅プロバイダーへの経済的インセンティブとして、OXTと呼ばれるERC-20トークンを導入しています。
ERC-20トークンとは、イーサリアムで採用されているトークン規格です。規格を用いてトークン開発および発行を標準化することにより、管理および統合が容易化されます。
オーキッドのサービスを利用するユーザーは、プロバイダーに対して、OXTでサービス利用料を支払います。オーキッドでは、少額決済およびピアツーピアのトランザクションが可能であるというトークンの性質を応用した、「確率的ナノペイメント」と呼ばれる独自の決済システムが採用されています。
確率的ナノペイメントによりユーザーは、使用したサービス分だけを、プロバイダーへ直接OXTで支払うことができます。ブロックチェーン技術を活用したこの決済方法では、高い匿名性が維持され、仲介者も存在していないため、ユーザーは不要な個人情報を開示せずに、支払いを完了できます。
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有識者コメント
Fracton Ventures株式会社 Co-Founder、鈴木雄大氏
Fracton Venturesは、Web3.0の未来を支援者ではなく貢献者として共創していく専門家集団。Web3.0社会の実現に向け、Web3.0領域のリサーチや啓蒙活動、Web3.0プロダクトの日本展開などを行う。
Q:Web3.0のどのような点に将来性を見いだしていらっしゃいますか?
Web3.0は個人のデータを本来の持ち主である、個人が管理できるようになる社会です。
Web2.0はプライバシーの問題よりも便利さを優先することで社会を大きく前に進めました。皆さんが普段ログインしているSNS, GAFAなどのサービスはいくつに上りますでしょうか。しかし一方でそれはプライバシー問題やサービス停止のリスクなど新たな課題を浮き彫りにしました。各事業者はさまざまに努力をしている中ではあるものの、ハッキングによる情報流出など先行きは不透明であることは否めず、これらの課題への対応に多額のコストをかけている事実があります。
インターネットの歴史を振り返ってみれば分かる通り、もともとインターネットはデータを管理するようにはデザインされておらず、あくまでやりとりを前提としていたものでした。データの管理はそこに接続しているコンピュータに依存しており、インターネットそのものでは管理ができないことがそもそもの元凶だったと言えます。
ここでのデータの管理とは具体的には「状態」の管理であり、それには検証できることが不可欠です。誰が何をどれくらい持っているのか、このような情報は提示されたり保存されたりしている情報が本当に正しいかを突き合わせて検証する必要があります。Satoshi NakamotoのBitcoinのホワイトペーパーに始まるブロックチェーンや分散型台帳の開発の流れは、データを検証(Verify)できるプロトコルをインターネットにインストールしようとする試みと言うこともできます。
つまり、Web3.0を端的にいうならば、「検証可能なインターネットとそれによって実現するコラボレーションの活性化」と言えます。
企業などの特定のプレイヤーが必要以上のデータを持たなくても誰でもデータを検証できるということは、誰か管理に依らない、よりパブリックなデータの利活用の道を拓きます。これは、オープンな金融システムや分散型なコミュニティ運営、知的財産権の転々流通などを可能にします。
Web3.0領域においては複数の要素の掛け合わせでビッグトレンドが生まれています。これを一つのPMF(プロダクト・マーケット・フィット)と捉えており、以下のようなものがあげられます。
- DeFi
- NFT
- SocialToken
- Metaverse
ブロックチェーンを活用し、中央管理者不在の状態で行われる金融サービス全般をDeFi(分散型金融)と呼びます。これまでは金融サービスを使う際には、銀行や証券会社などを使用する必要がありましたが、DeFiではこのような仲介企業を必要とすることなく、ローンやレンディングなどの金融サービスを利用できます。
例)Uniswap / Compound / MakerDAO
固有のデータが記録されたトークンのことで、アートやゲームのキャラクター・アイテムなどさまざまなものに応用されています。最近では、アーティストのコアなファン向けのデジタルアイテムとして数十億円単位で価格がつくNFTが生まれたり、多くの知財(IP)ホルダーがトレーディングカードゲーム化などを睨み、参入を始めており日本国内でも徐々に事例が増え始めています。
例)Cryptokitties / NBA Topshot
特定の個人やグループなどに紐づいているトークンのことで、個人であればパーソナルトークン、コミュニティであればコミュニティトークンと言われることもあります。特定のサービスへのアクセスをトークンを使ってコントロールしたりなど、特定の個人やグループと交流することへ重点を置いています。
例)Whale / Cherry / KarmaDAO
デジタル空間で作られた仮想空間のことです。主にEthereumブロックチェーンを利用することで、デジタル空間上の土地やアイテム、アバターなどさまざまなアセットを取得したり売買すること等ができるようになったことで更なる広がりが生まれています。
例)Decentraland / Cryptoboxels /SandBox
Q:Web3.0が真の意味で社会のインフラになったとき、どのような世の中になると想像していらっしゃいますか?
まず企業価値を超える、プロトコルが社会に当たり前に浸透し、出現することが上げられます。
それは今起きているAWSかGoogle Cloudか、Alibaba Cloudかのようなそういったプラットフォーム競争ではありません、複数の個人や企業が共創する1つのプロトコルが、ジャンルごとに複数出てくるでしょう。これを弊社ではパブリックプロトコルと呼んでいます。
DeFiはこのパブリックプロトコル化が実際に見える化された一例です。どうかブロックチェーン金融や、儲かる金融ライクなサービス等と捉えないでください。例えばCompoundというプロトコルにはCompound Labsという創業チームと発案会社がありますが、今のCompoundプロトコルは既にパブリックプロトコルへと成長しています。
現にガバナンス投票では、シリコンバレー最大手のVCのa16zや投票に参加している他、Galaxy DigitalなどがLP出資をしているDeFi特化の投資ファンドParafi Capitalなどが、Compoundプロトコルにおけるリスクパラメーターなどの設定可能な数値の最適化を行うべく、提案を次々に出し進んで議論に参加しています。
このようにパブリックプロトコルは社会を、より独占的なものから、共創の世の中へと進歩させることに繋がるでしょう。よりオープンでフェアとして、パブリックプロトコルが多くのサービスに組み込まれていく社会、それこそが弊社が考えるWeb3.0が実現する社会における大きな変化です。