Pyth Networkとは
Pyth Networkはソラナ・ブロックチェーン上で機能する分散型のクロスチェーン型データオラクルです。開発者などにより正確な市場データの提供を目指しています。
名称はギリシャ神話のデルファイ(Delphi)とDeFi(分散型金融)をかけて、神託所で女神官(オラクル)として仕えたピューティアー(Pythia)にちなんだものとされています。
プロジェクト自体は21年8月にソラナのメインネットで実装したばかりですが、独自のネイティブ・ガバナンストークンである暗号資産(仮想通貨)ピス(PYTH)はまだローンチ前であるなど、新たなプロジェクトとして台頭しています。
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プロジェクト概要
2020年夏に急速に注目を集めたDeFiプラットフォームが機能するためには、高品質なデータがリアルタイムにデータ元からレイヤー1ブロックチェーン上に提供される必要性があります。金融業界でもマーケットデータは重要視される反面、一般的には一部の金融機関やユーザーのみがアクセスできるものでした。
ただ、最新の価格データや過去の価格フィードに関するデータは厳重に管理される必要があるため、結果的に最新でもっとも価値のある正確な情報は一部のユーザーしか知らされていない状況があります。
このような状況がDeFiで発生しないために開発されたのがPyth Networkです。分散型かつ次世代のオラクルとして、有益な市場データを一般向けに提供するプロジェクトとして発足しています。
オラクルとは
ブロックチェーン外のデータを、スマートコントラクトなどブロックチェーン上に取り込む役割を果たすサービスの総称。代表例ではChainlinkやBand Protocolなどが挙げられる。
▶️仮想通貨用語集
Pyth Network上でアグリゲート(統合)された価格データはブロックチェーン上に匿名かつ1秒足らず(400ミリ秒)で発行され、他のブロックチェーン・プロジェクト、またはオフチェーンでも利用可能です。現時点では価格データを提供する50あまりのパブリッシャーとデータを利用する45以上のコンシューマーがあります。
取引所やマーケットメイカーや取引企業などがパブリッシャー(発行者)としてPyth Networkに価格情報を提供しています。
Pyth Networkへの参加企業
ソラナ基盤のプロジェクトとして、Pyth Networkは自己勘定取引企業Jump Tradingのインキュベーションを受けたほか、既に多数の金融企業や仮想通貨取引所と連携しています。以下の企業がPythのパブリッシャーとして参画しています。(アルファベット順)
- Alameda Research
- Amber Group
- Bitso
- Bitstamp
- CMS
- CoinShares
- FTX
- Galaxy Digital
- Genesis Global Trading
- GMO
- Raydium
- Serum
- Three Arrows Capital
- 0x
お互いに競合にもなりうるマーケットメイカーや取引所、取引企業が同じDeFiプロジェクトでコラボレーションする珍しい事例だと言えるでしょう。
Pyth Networkの特徴
Pyth Networkの主な特徴として以下の5点があります。
- 最新かつ高品質のデータを無料で提供
- 透明性
- 低コスト・高速なネットワーク
- 正確なデータインセンティブ
- 価格アグリゲーター
Pyth NetworkにはFTXやCoinSharesなど、金融システムで最も著名で定評のある企業がパブリッシャ―として参加しています。これらの企業は独自の市場データを有している反面、一般的にはデータを販売する事業は行っていません。
これらのデータは大手機関のデータとして従来はオープンAPIで提供されていませんが、Pythを活用することで開発者が利用できるデータとなります。
このように、Pythは仮想通貨やFXなどに関する機関投資家レベルの高品質な市場データを無料で提供しています。DeFi市場などにおける新たな事業モデルでも利用可能です。
金融マーケット最大のトレーダーであるJump TradingやDRW Cumberland、Jane Street、GTS、Hudson River TradingやTwo Sigmaも参画しているほか、仮想通貨市場からもFTXやGenesis、DV Chainなどの大手トレーダーが価格データを提供します。
当初はこうした、既存企業の信頼に頼っている形ですが、Pythは長期的には完全な分散化を目標としており、分散型のオラクルネットワークになることを目指しています。
また、Pythのデータは全てオンチェーン上で管理されているため、完全にトラストレスな格好でデータ提供できます。Pythは独立したパブリッシャーからインプットされたオンチェーンデータを一体化した価格フィードへと統合します。
従来のオラクルとは違い、Pythのデザインは全ての過程が承認可能でオンチェーン上であるため、全てのデータを検証できます。
また、オフチェーンの機能は含まれていないため、ネットワークの堅牢性向上につながります。一例として、チェーンリンクではオフチェーンでの統合が行われていますが、Pythではそのような攻撃機会がありません。さらに、オンチェーン上で全ての処理が行われるため、誰でもデータを確認できます。
価格統合(アグリゲーション)はトラストレスに進行しているため、価格操作を防ぐことが可能となります。データのパブリッシャーは既に有している価格データを提供しており、最終的な価格情報の結果を予測することはできません。
Pythではパブリッシャーが独自のデータを各々ノードで管理する形でオンチェーン上で発行するため、各自のデータを一次提供者として発行するよう設計されています。Pythの設計上、データコストやネットワークの渋滞が低く抑えられるほか、仲介コストがないため、低コストで高速なデータを提供できます。
さらに、データのパブリッシャーはPYTHトークンをステーキングしてからデータを提供します。仮に、誤ったデータを提供した場合には、担保したトークンが没収され、他ユーザーに配当されるため、正しい価格情報を提供する仕組みが保障されています。
他のオラクルデザインでは、全てのパブリッシャーが合意に至ることを促すよう設計されていますが、Pythでは各々が最善の価格情報を提供するように工夫されています。
また、多数のパブリッシャーが提供する価格データをPythはオンチェーン上で統合して、外れ値があった場合はそれを取り除きます。
下記図はPythの提供するBTC/USDチャートです。中央の紫色の線が価格を表しており、周囲の黄色い線が信頼区間を示しています。
信頼区間とは
統計学的に、真の価格(真値)が含まれる範囲を示す推測法。幅が狭いほど、信頼性が高い事を示す。幅が広い場合は偏差値が広がるため、価格の信頼性が低くなる。英語名のConfidence Intervalを略してCIとも呼ばれる。
価格統合を行うオラクルプラットフォームは他にも存在しますが、全てのプロセスがオンチェーン上で行われ、価格提供者(パブリッシャー)に対して価格と共に信頼区間の提供も義務付けているのはPyth Networkだけです。
ネットワーク参加者の種類
Pyth Networkに参加して、ステークホルダーになる手段は以下の通り。
パブリッシャーがデリゲーターも兼任できるなど、ユーザーが複数の役割をこなす場合もあります。
- パブリッシャー(発行者)
- コンシューマー(消費者)
- デレゲーター
パブリッシャーは価格フィードのデータを発行する報酬としてデータ手数料を受け取ります。一般的には、最新かつ正確な価格情報を有する市場参加者がパブリッシャーとなります。
パブリッシャーが提供する価格情報の量や正確さ、信頼区間データ、ステーキング量などに応じて、プロトコル側が報酬を渡す仕組みです。
一方、コンシューマーは価格情報を、スマートコントラクトやdApps(分散型アプリ)などオンチェーンプロトコルやオフチェーンで利用します。コンシューマーは任意にPYTHトークンなどでデータ手数料を支払えます。
コンシューマーはデータ手数料を支払うことで、オラクルが機能しなくなった場合にペイアウト(補償)を受け取ることができます。単純な価格チャートとしてオラクルを利用する場合は無料でもアクセス可能ですが、取引プラットフォームに紐づけている場合などは誤った価格に基づいて強制清算される投資家も現れるかもしれません。
ペイアウトはこうした有事の際、保険のようなものとして機能します。
また、デレゲーターは特定のプロダクト、またはパブリッシャーにトークンをステーキングします。これに応じて、データ手数料の一部を受け取ったり、オラクルが誤った情報を提供した際にはステーキング額を失う可能性があります。
参加者へのインセンティブ
Pyth Networkは各ユーザーがネットワークに参加するメリットとして、以下の項目がインセンティブであると説明しています。
- パブリッシャー:PYTHトークンをステーキングすることで、報酬を受け取ることができる。また、データ提供により、データ手数料の一部を受け取ることができる。(データ利用の増加に応じて増える見込み)誤ったデータを提供した場合、ステーキング額が失くなる可能性があるため、データの正確性を保証できる。
- コンシューマー:データ手数料を支払えば万が一の際に補償金を受け取ることができる。また、データ手数料は発行者の参入を促し、価格データの正確性向上につながる。
- デレゲーター:プロトコルに参加して、データ手数料の受け取るようインセンティブ化。
PYTHトークンとは
PYTHトークンはPyth Networkのネイティブトークンおよびガバナンストークンとして機能する仮想通貨です。ネットワーク上の担保資産や、手数料の支払いなどで利用されます。
発行総数は100億PYTHで、ホワイトペーパーでは総供給量が変更される計画はありません。
また、現在は流通していませんが、85%はロックアップされた状態で開始し、7年間をかけて毎月一定量をアンロックして、市場流通量を徐々に増加する体制となる予定です。
なお、Pythデータ協会は長期的には、プロトコルの全権限をトークン保有者に譲渡する体制を計画しています。なお、PYTHトークンの流通が開始していないため、PYTHを利用したステーキングは現段階ではまだ利用できていません。
ガバナンス
将来的には、オンチェーンガバナンスを通じて、以下の項目に関する決断も行う事を想定しています。
- データ手数料で利用できるトークンの種類
- Pythでリストされる商品やその参考データ(価格で表示される桁数、参考取引所など)
- データ手数料などをパブリッシャーやデレゲーターなどに配当する際の比率
- パブリッシャーの最低ステーキング数
- デレゲーターがステークする一つのPYTHトークンにつき支持できるプロダクト数
- 価格に対するクレームへの投票・可否判断
- パブリッシャーの価格フィード提供の承認
クレーム手続き
オラクルの提供する価格が誤っていた場合、誰でもオラクルに対してクレームを提起することができます。クレームに対してPYTHトークン保有者は、オンチェーン上の結果と実際の真実を見定めた上で賛否を投票します。このようなプロセスでオラクルの誤った価格提供を避けます。
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