オープンで相互運用可能なネットワークの確立
シンガポールの中央銀行にあたるシンガポール金融管理局(MAS)は26日、トークン化されたデジタル資産取引を推進するためのネットワークの設計方法を提案する報告書を発表した。
この報告書は、MASが2022年5月に設立したデジタル資産に関する官民連携イニシアチブ「Project Guardian」の一環として、国際決済銀行(BIS)の決済・市場インフラ委員会(CPMI)と共同で作成され、DBS銀行、JPモルガン、HSBC、SBIデジタルアセットホールディングス、スタンダードチャータード、UOBからの寄稿が含まれている。
Project Guardianは、デジタル資産と分散型プロトコルの普及に伴う市場の分断を防ぐため、業界におけるベストプラクティスと技術標準を推進することを目的としており、同時に規制当局の役割も探求する。
「オープンで相互運用可能なネットワークを可能にする」と題した報告書では、トークン化された実体経済資産と金融資産を基盤として、オープンで相互運用可能なデジタル資産ネットワークを設計するためのフレームワークを紹介。また、当該ネットワークの概念を説明するため、実際のケーススタディとソリューションの例を示した。
その一つが、東南アジア最大手のDBS銀行と日本のSBIデジタル・アセット・ホールディングスが行った店頭外国為替取引で、トークン化された資産と流動性プール・プロトコルの有用性を検証したものだった。その他にも貿易金融における資産担保証券のトークン化や、店頭取引される仕組み債のトークン化についての実例が提示された。
MASは、デジタル資産エコシステムにおける真の価値は、実体経済と金融資産をトークン化によってデジタルで表現し、効率的で利用しやすく、かつ安価な金融サービスの提供を促進することだと主張している。
資産のトークン化は、経済成長の原動力となる流動性を解き放つとともに、投資へのアクセスを改善し、投資の選択肢を広げる可能性がある。
プロジェクトの拡大
MASは同日、より多くの金融資産クラスにおける資産のトークン化の可能性を探るため、Project Guardianの拡大を発表。この取り組みを支援するために、11の金融機関で構成されるProject Guardian産業グループを設立し、資産管理、債券、外国為替における業界の試験運用を主導するという。
試験プログラムには以下のようなプロジェクトが含まれる。
- デジタル仕組み債やトークン化された投資商品
- デジタルネイティブなVCC(可変資本会社)ファンドの発行
- トークン化資産担保証券、トークン化債券、トークン化された銀行債務
- デジタル債券を用いたレポ取引
- デジタル資産取引の価格決定と執行のテスト
資産のトークン化推進に積極的に取り組んでいるMASは先週、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、トークン化された銀行預金、ステーブルコインなどで使用できる共通プロトコルのホワイトペーパーも発表したばかりだ。
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金融庁も参加
MASはまた、日本の金融庁が海外の金融規制当局として初めて、Project Guardianに参加することを歓迎すると発表した。
MASの市場開発担当のLeong Sing Chiong副専務理事は、暗号資産(仮想通貨)の投機については否定的だが、そのエコシステムには「価値創造と効率化の可能性」を見出しているため、「責任ある革新的なデジタル資産エコシステムを育成するため、業界と積極的に協力している」という。
また、同プロジェクトが新たな段階に入ったため、エコシステムのグローバルな取り組みを支援するため、金融庁とともに、官民の垣根をこえた協働ができることを楽しみにしていると述べた。
金融庁は26日、オブザーバーとしてProject Guardianに参加すると発表。プロジェクトの目的を「金融安定や公正性に係るリスクを管理しつつ、アセット・トークナイゼーション等のデジタル技術の活用可能性について、パイロット実験を通じて検証を行うこと」と説明している。
金融庁の柳瀬護・総合政策局参事官は、プロジェクト参加にあたり、以下のようにコメントした。
分散型金融システムは複雑に発展を続けており、リスクへの対応が重要である一方で、ブロックチェーン技術がWeb3.0を含め中長期的にイノベーションの源泉となっていく可能性もある。MASや金融機関との協働を通じて、本領域における知見を更に高めていければと思う。