
ソラナでの新提案を専門家が解説
ブロックチェーン業界で新たな議論を呼んでいる「量子コンピューターの脅威」。この課題に対し、個人開発者のdeanmlittlesi氏が「Winternitz Vault」という解決策を提案し、GitHubで1月初めに公開した。
この技術の実効性についてCoinPostは、大学院で量子情報処理を研究し、現在Solana Superteam Japanのメンバーとして活動する松尾康弘氏に評価を依頼した。
Winternitz Vaultの技術評価と課題

既存の暗号技術が直面する課題
「現在の主要なブロックチェーンは、いずれも楕円曲線暗号を基盤としている」との指摘がある。ビットコイン、イーサリアム、ソラナなど、主要な暗号資産(仮想通貨)は、ほぼすべてこの技術に依存している。
1994年に提案されたShorのアルゴリズムにより、量子コンピューターでこれらの暗号が解読される可能性が示唆されている。計算量理論上では、現在解くのに莫大な時間を要する問題も、量子コンピューターによって現実的な時間で解ける時代が来るかもしれない。
量子耐性を持つ署名方式の提案
今回提案されたWinternitz One-Time Signature(以下、WOTS)は、1974年に既に提案されていた暗号技術だ。この方式は、量子コンピューターによる攻撃に強い耐性を持つ点が特徴であり、今回Solana上で動作可能な形で実装されたことに新しさがある。
また、Solanaのトランザクションサイズ制限を克服するため、技術的な最適化が施されており、セキュリティと効率性を両立した点が評価できる。
実用化への課題と対応
WOTSの大きな特徴は、「秘密鍵を1回しか使えない(使用すると秘密鍵の一部が露呈する)」という仕様にある。このため、量子耐性があるにもかかわらず、普及の壁となってきた背景がある。
Winternitz Vaultでは、この課題に対処するため、取引ごとに新しいVaultを生成する仕組みを導入。Solanaのスマートコントラクトとして設計され、「Vaultを開く」「資金を受け取る」「Vaultを閉じる」という基本的な操作が可能だ。また、プラットフォームで効率的に動作するよう最適化されている。
なお、提案者自身は「開発者としての経験はあるが、暗号学の専門家ではない」と述べており、この点を考慮する必要がある。
Solana Superteam Japan 松尾氏のコメント
量子コンピュータにより、暗号が解読されるということは長く言われ続けている。しかし、まだ暗号を解読するほど大規模な量子コンピュータの実現には至っていない。量子耐性がある暗号方式はいくつも提案されているが、利便性や実績から楕円曲線暗号が広く使われ続けている。
今回、量子暗号耐性があるWOTSがSolanaに実装されたことは、Solanaの安全性をより堅牢なものにするための1歩である。Solanaをより安全に利用するために、様々な暗号方式が実装され、多くのユーザーにより安全性が検証され、より堅牢なシステムにしていく必要がある。
今後の展望
量子コンピューターの実用化時期について、イーサリアム共同創設者のVitalik Buterin氏は「数十年かかる可能性がある」と見解を示している。それでも、ブロックチェーン業界では、すでにさまざまな対策研究が進められている。
例えば、ハッシュベースデジタル署名、コードベース暗号、格子ベース暗号、多変量公開鍵暗号などが挙げられる。Winternitz Vaultは、この中でもハッシュベースデジタル署名を活用した例として注目を集めている。