- 中国の仮想通貨/ブロックチェーン施策に見る二面性
- 中国当局は最近、ブロックチェーン重視の施策を打ち出し始めている。ここ数年、仮想通貨とブロックチェーンという「二兎を追う」状況だったことからすれば大きな変化である。仮想通貨は禁止、ブロックチェーンには門戸開放という一見相反する施策の背景を考察した。
はじめに
ここ数年の中国当局は、仮想通貨資産とブロックチェーンという「二兎を追う」方法を模索するような動きを見せていました。
それが今日では「ビットコインではなくブロックチェーンを」という方針がより顕著になっています。
今回、その背景と今後の展望を考察してみました。
中国当局が2018年8月に行った主要施策の振り返り
まず、中国当局が先月2018年8月に行った、仮想通貨関連の主要施策を振り返ってみます。
またこの間、中国当局は仮想通貨資産に関連するあらゆる活動に、公然と攻撃的な姿勢をとってきました。
具体的には以下のようなものです。
いまや、中国国内で仮想通貨取引を行うにはVPNを使うしかありません。
ここで、次の2つの疑問が浮かびます。
2008年の米中対話の内容にヒントが?
先に結論を記せば、残念ながら直接的な答えはまだ見つかっていません。
しかし今から10年前、ブッシュ政権と中国共産党幹部の間で行われた米中関係に関する対話の内容が、現在の中国当局の考えを読み解くヒントになるかもしれません。
その対話では、アフガニスタン侵攻やテロの脅威といった今に続く、国際問題が話し合われました。
その際にブッシュ政権のある幹部は中国側に、
「夜通し考えていることは何か」
と尋ねました。
これに対し中国高官は、
「数字の8。どちらも国内の安定には不可欠な数字だ。GDP成長率であり、失業率の上限でもある。」
と答えたと伝えられます。
中国の為政者はその権力の安定性と正統性を何よりも重んじる――裏を返せばそれだけ危機を感じていることを思わず明らかにしたというわけです。
同時に、それら安定性と正統性には経済発展が不可欠という認識も示しました。
この意識はおそらく今でも変わっていないでしょう。
もしそうだとするならば、中国当局はその権力基盤を脅かす可能性のあるテクノロジー(言うまでもなく暗号通貨も該当します)を、決して野放しにはしません。
先端技術の「改変適用」は今回が初めての話ではない
中国は過去にも先端技術を国内向けに「改変適用」したことがあります。
それは「金盾(グレート・ファイアウォール)」です。
アリババやテンセントが時流に乗ったビジネスモデルを打ち立てて成功を収めた背景には、中国当局によるこの大掛かりな保護主義的技術施策がありました。
Facebook等の米国資本の大企業を当局が締め出す効果は大きなものでした。
結果、成功を収めたこれら国内企業は共産党幹部と蜜月の関係を築くことになります。
当局のネット検閲にも協力的であると伝えられます。
ブロックチェーン規制の現実味
しかし、ブロックチェーンを当局がこれまでと同様のアプローチでうまく操れるかというと疑問が残ります。
その最大の理由が、ブロックチェーン/P2Pが持つ「必然的に分散する性質」です。
これまでにも当局は、仮想通貨取引や仮想通貨資産を禁止または規制するために、結局のところ「インターネット全体をブロックする」やり方を取らざるを得ませんでした。
ブロックチェーンをどのようにして検出し、規制の網をかけるのか――そう考えれば、むしろ当局はビットコインを初めとする仮想通貨の広範な受容と、その延長にある経済発展を視野に入れるべきではないでしょうか。
中国共産党公式の「ブロックチェーン入門書」
出典: http://theory.people.com.cn/n1/2018/0813/c40531-30225582.html
単純な開放政策でよいか
その一方で、手放しで開放政策に向かえばいいかと言えば、それもまた疑問です。
仮に仮想通貨が国際間貿易の基軸媒体になった場合、歴史的に中国の輸出産業を支えてきた為替コントロールが効力を失うおそれがあります。
また、仮想通貨に特有の「揮発性(=消えてなくなるかもしれない性質)」があることは否定できません。
中国には現在、約14億の人口があるとされます。そのうちのごく一部の人であっても保有する仮想通貨を喪失したら、社会的な影響は甚大です。
開放政策と、システムの緊急停止のような備えを両睨みにする必要が出てきます。
まとめに代えて
中国は過去を重んじる国柄です。
将来の施策もまた過去の影響を受けるのは間違いないでしょう。
一方で、中国が仮想通貨分野での技術革新にとって、豊かな土壌であることも確かなことと思われます。
先に触れたように、中国では、権力の正統と安定の裏側には必ず経済発展があります。
仮想通貨やブロックチェーンのグローバルな発展を見て、現在の北京当局がどこまで柔軟な姿勢を示すことができるか、注目されます。