コインチェック事業説明会
国内大手暗号資産(仮想通貨)取引所コインチェックの事業説明会が行われた。BTC(ビットコイン)相場など大幅に好転しつつある地合いと業績を背景に、今後、IEO事業やNFTマーケット開拓に本腰を入れていくことを明らかにした。
代表取締役の蓮尾氏は、本人口座数も堅調に推移したと言及。 「トップライン(売上高)も前年度比80%高と大幅に伸びている」と強調した。
コア事業である取引所・販売所関連が全体収益の大部分を占めることから、アルトコインなどの通貨数は今後も拡大していくことを目指すとし、コインチェックの強みであるUI/UXは引き続き改善を行うと抱負を述べた。
暗号資産関連でのロードマップとしては、ステーキングやレンディング(貸し仮想通貨)のサービス拡充に言及したほか、IEO事業についても提供していくと力を込めた。
周辺事業として親和性の高い「NFTプラットフォーム」の開拓、新型コロナ感染拡大の影響で需要増著しい「バーチャル株主事業」についても取り組みを開始している。
今後の戦略について蓮尾氏は、「昨今、新型コロナの感染拡大に伴う大規模金融緩和の影響で、法定通貨である米ドルや日本円の信任が揺らぎ始めている中で、中央銀行発行のデジタル通貨への関心の高まりがある。」と指摘し、海外を中心とするDeFi(分散型金融)などの盛り上がりにも言及。
今後も時代背景に合わせた新商品を拡大する一方で、顧客セグメントについて個人から法人の顧客に対し、安全性を担保しながら、さまざまなニーズをカバーする形を作りたいとした。
IEO事業について
IEO事業については、新規事業開発部長の野口氏が説明した。
コインチェックは今年8月、「日本初のIEO実現に向け共同プロジェクトを発足した」と発表している。
IEOの発行体は、ハッシュパレット(Hashpalette)。 合計1,000万MAUのマンガアプリ群を運営する東証一部上場企業のLink-Uと、ブロックチェーン技術を活用した事業コンサルティングを行うHashPortの合弁会社だ。
ハッシュパレットは21年3月までに、「パレットトークン(PaletteToken=PLT)」をコインチェックで発行し、上場する計画を発表している。
「IEO(Initial Exchange Offering)」は、トークン発行によるコミュニティの形成・強化や資金調達を暗号資産取引所が支援するもの。
企業やプロジェクト等の発行体がユーティリティ・トークンを電子的に発行することで資金調達を行う仕組みであるICO(Initial Coin Offering)の中でも、暗号資産取引所が主体となって発行体のトークンの販売を行うモデルを指している。
野口氏によれば、今回の事業説明会では、マンガ、アニメ、スポーツ、音楽などの日本の文化コンテンツの更なる発展を目指し、Link-UとHashPortが今年3月に共同で設立したHashpaletteにおいて、ユーティリティ性を有するトークン「パレットトークン(PaletteToken, PLT)」を発行。それをコインチェックで販売する予定であることを強調した。
販売されたトークンは、マンガ、アニメ、スポーツ、音楽を初めとするコンテンツのために開発されたブロックチェーンプラットフォーム「パレット(Palette)」で利用されるという。
IEO事業の仕組みについては、端的に話すと「暗号資産の受託販売を行うケース」だと説明。
- 価格や発行目的の妥当性
- 発行体の適格性
- 調達資金の管理
などの審査を行い、問題がなければ発行をサポートする。
調達資金は、プロジェクトの検討事業の推進に活かす。
これまでの資金調達と大きく異なるのは、トークンエコノミーの構築がある。 保有者や発行体の間で、擬似的な経済圏が生まれるためだ。
パレットトークンについては、事業として共同プロジェクトを立ち上げる。 プラットフォームを利用することで、ユニーク性を持つNFTの販売を行うことができる。 NFTの発行・記録については、複数の企業で運営されるパレットチェーンコンソーシアムが行う。
今回のIEOでは、このパレットトークンが対象となる。
目的
野口氏はその目的について、以下のように抱負を述べている。
今後ますます、いろいろなデジタルコンテンツが発達する。他方、アナログで発行されているので、二次流通市場に透明性や相互利用が可能になることが求められる。
コインチェックのNFTプラットフォームであれば、限定コンサートの参加券など、さまざまなベネフィットが用意できる。 コンテンツホルダーにも還元できる。そのような世界観を実現したい。
国内大手仮想通貨取引所コインチェックは19年9月、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)」と呼ばれる資金調達手段に意欲を示していた。
「資金決済法の規制の下で、暗号資産による資金調達の支援事業を行いたい。すでに10件ほどのプロジェクトから、資金調達の相談が寄せられている。」
トークンによる資金調達を仮想通貨取引所が支援する事業は、17年以降に急速に普及したICO(Initial Coin Offering)に替わる資金調達手段として注目を浴びている。
ICOは手軽な反面、規制面が不十分であったことから、多額の資金を集めて頓挫する実態のない悪質なプロジェクトが後を立たず、投資家保護の観点からも多くの批判を浴びた。
これを解消するのが、取引所側がプロジェクトの将来性を評価した上、マーケットへの上場を確約するIEOだ。
世界最大手のバイナンスが、独自トークンセールプラットフォーム「Launchpad(ローンチパッド)」を利用した限定セールを展開。人気が殺到し、独自トークン「BNB(バイナンスコイン)」価格を大きく押し上げた。
バイナンスは、IEOの審査基準として以下を挙げている。
- 完全なスタートアップでなく、ある程度「開発」の進捗が認められること
- ユースケースなど、大規模に応用される準備が整っていること
- 目標と意欲があり、しっかりと統制が取れたチームであること
- エコシステム(生態系・経済圏)の成長を促す可能性が見込めるプロジェクトであること
NFTマーケットプレイス事業について
執行役員 天羽氏が解説した。
NFTマーケットの動向については、
暗号資産の販売所・取引所の特徴を活かして、NFTと暗号資産の交換ができるサービスを提供したい。
ノンファンジブルは、唯一無二の非代替性トークン。 法的論点では、暗号資産は資金決済法の中でビジネスとなるが、消費者庁や警察庁の管轄となる。 一定のビジネスチャンスがある。
などと述べた。
NFT市場規模は、19年度は200億円、本年度は300億円と、現時点では、暗号資産(仮想通貨)市場全体の1/1000程度。 しかし今後は、著作権など”有力IP”を持つ大手事業者参入に従って、巨大な市場に拡大し得ると見込んでいる。
現在の課題点とコインチェックの強み
現状のNFT市場のボトルネックの1つに、暗号資産(仮想通貨)ウォレットを別に用意する必要がある点を指摘。
「現時点では、暗号資産(仮想通貨)取引所で日本円入金して、仮想通貨ウォレットに移す必要があるなど、かなり複雑なユーザーエクスペリエンスになっている。これを一元化するサービス提供することで大きな優位性がある。」とした。
「ウォレットについても、日本円と暗号資産を交換するだけでなく、コインチェックにはカストディ面のライセンスも効いてくるため、極めて安全なセキュリティレベルで、NFT及び暗号資産(仮想通貨)の運用サービスを提供できる」とした。
また、コンテンツプロバイダへのメリットとしては、コインチェックアプリのDL数300万以上、登録ユーザー数200万人以上いるほか、ETH(イーサリアム)の預かり資産は100億円以上あることから、NFT購入の動線にもつながりやすい。
NFTをもっと身近に感じてもらいつつ、ブロックチェーンゲームへの送客も可能となるなど、コンテンツプロバイダにとっても、普及に貢献できるという事業者向けのメリットがある。
ユーザーへのメリットとしては、暗号資産(仮想通貨)交換業者業者の知見を活かし、これまで自己責任となっていた仮想通貨ウォレットにおける「秘密鍵」、及び保有資産の紛失などのリスクを減らすことができる。
コインチェックサービス内における、NFT出品・購入時には、ETH(イーサリアム)が高騰して、NFT移転の際にネットワークが詰まった場合などコストの嵩みやすい「ガス代」がかからない設計にしてあるとしており、この点も普及に向けた大きな魅力と言えそうだ。
コインチェック社がミッションとして掲げる『新しい価値交換を、もっと身近に』。その実現に向けて、着実に歩を進めている。