- 国際通貨基(IMF)、デジタル通貨が現金や銀行預金を凌駕する可能性を指摘
- IMFは「デジタル通貨の台頭」と題した論文の中で、現在最も一般的な現金や銀行預金が、急速に普及しつつある電子マネーによって厳しい競争に晒され、凌駕される可能性も考えられると主張した。
国際通貨基(IMF)、デジタル通貨が現金や銀行預金を凌駕する可能性を指摘
国際通貨基金(IMF)は7月15日に発表された最新論文で、新しいデジタルマネーを分類し、そのリスクや影響を検討するとともに、現行の金融システムの要を成す銀行業界に与える影響や、中央銀行が検討すべき対応について提言した。
「デジタル通貨の台頭」と題した論文の中で、IMFは現在最も一般的な現金や銀行預金が、急速に普及しつつある電子マネーによって、厳しい競争に晒され、凌駕される可能性も考えられると主張している。
一方、支払いの利便性で勝る電子マネーの「安定性」に疑問を呈し、銀行が類似した製品やより魅力的なサービスを提供することで、銀行は生き残りを図れるだろうとも述べている。さらに決済分野へ新規参入する企業自体が、将来銀行となり信用取引を提供し始めることも予想されるため、銀行というビジネスモデルが消滅する可能性は低いという。
しかし、大手ハイテク企業や新興フィンテック企業が、現行の金融システムに益々大きな影響を与えるようになる中、銀行業界の混乱は避けられないと考えられるため、金融政策を立案する立場にある為政者は、その状況に備えることが重要であると説いている。 そして、銀行は時代に取り残されないために、「急いで進化する」必要があると警告した。
五つの異なる決済方法
IMFはこの論文の中で、次の五つの異なる決済方法について解説している。
(1)中央銀行発行通貨:法定通貨(中央銀行デジタル通貨の概念も含む)
(2)仮装通貨 :ブロックチェーン基盤で発行されるビットコインなど
(3)bマネー:現在銀行が発行 商業銀行預金等 政府による償還保証
(4)電子マネー(=eMoney)民間セクター提供者により提供
政府による償還保証はない。中国のAlipayやWeChat Pay等(5)i マネー:(=investment money 投資マネー)民間投資ファンド発行
株式のような商品。金に裏付けられた例として、Digital Swiss Gold(DSG)がある
「i マネー」は、民間投資ファンドの株式をトークン化することで、新しい支払いの方法としての可能性を持つが、その一例として、フェイスブックのリブラプロジェクトを取り上げている。 「銀行預金や短期国債のバスケット」によって裏付けられるリブラは、一般の電子マネーとは一線を画すとして、「i マネー」に分類された。
この論文では、特に電子マネーに焦点を当て考察を行っているが、その安定性に問題があるとしながらも、利便性の高さから急速に普及が進む可能性があると指摘している。
電子マネーのリスク
電子マネーのリスクとしては、次のようなものが挙げられている。
- サイバーセキュリティなどの運営リスク
- 流動性リスク: 電子マネー発行者が保有する資産の市場流動性に左右される
- 債務不履行リスク:電子マネー発行者の他の債権者からの差押等
- 市場リスク:電子マネー発行者が保有する資産から発生
- 為替リスク:通貨のバスケットに分類される資産の場合
しかし、電子マネーがbマネーや中央銀行発行の通貨のように安定した価値を持たないことは、その採用が始まらない理由としては十分でないとIMFは分析している。 その理由は、支払い手段として次のような魅力があるためだという。
- 利便性:デジタル生活に馴染んだユーザー中心志向の企業が発行主体
- 普遍性:国境をまたぐ決済でも使用可能
- 補完性:ブロックチェーンベースの電子マネーによる自動取引のシームレスな支払い、効率の良さ
- 取引コスト:低コストと迅速性
- 信頼性:普及が進む国々では、銀行よりも信頼を寄せるユーザーの存在
- ネットワーク効果:ソーシャルネットワークの口コミによる効果、WhatsAppがその好例
そして、世界のハイテク企業大手やファインテックの新興企業は、便利で魅力的、さらに低コストで信頼できるサービスを大規模な顧客ネットワークに提供することに長けており、支払いをシームレスに統合することも可能だと分析している。
しかし、銀行業界を脅かす急速な電子マネーの普及には、消費者保護や安定性以外にも幾多のリスクも存在する。 プライバシー、金融政策の伝搬、市場での競争力、財務の健全性、そして国際資本フローなどの貴重なデータが失われた場合の政策決定に及ぼすリスクが生じる可能性などが例として挙げられている。
そこで、IMFが一つの解決策として提案するのが、中央銀行の準備金へのアクセスを含む決済サービスを、中央銀行が電子マネー提供者に提供するという「合成中央銀行デジタル通貨=sCBDC」と呼ばれる官民協同のソリューションだ。
電子マネー提供者が中央銀行の準備金を保有できるようにすることで、イノベーションの促進、ブロックチェーンベースの資産取引、国境を越えた支払いの円滑化など、さまざまな利点が考えられるという。
中央銀行は、単に電子マネー提供者に中央銀行の準備金へのアクセスを含む決済サービスを提供するだけで、他のすべての機能は、顧客との対応に優れた民間電子マネー提供者が提供するという。
この論文は、sCBDCはより安価でリスクの少ないモデルであり、民間部門が「革新し、顧客と対話する」ことを可能すると同時に中央銀行は「信頼と効率」を実現することができると主張している。
技術革新の波は、中央銀行を含む現行の金融システムを大きく変えようとしている。