
ステーブルコインと米ドル
暗号資産(仮想通貨)銀行Sygnum(シグナム)は10日、米ドルの今後を展望するレポートを発表した。ステーブルコインについても言及し、長期的・中期的見通しを予測している。
発展途上国では、現地通貨の弱体化や下落、あるいは高インフレを背景に、米ドルに対するリテールの需要が高まっていることに言及している。
その上で、米国政府は、ドル建てステーブルコインがこうした需要に応え、ドルの国際的な準備通貨としての地位低下を食い止めることができると考えていると指摘した。
政府はドル建てステーブルコイン市場の拡大を積極的に推進し、ステーブルコイン関連法の迅速な成立を促していると続けている。
米ドル建てステーブルコインの多くは、裏付け資産として米国債を保有している。スコット・ベセント米財務長官もこのことを指摘し、ステーブルコインはドル覇権を強化するものだと発言していたところだ。
米国上院は、6月にステーブルコイン規制法案「GENIUS法」を可決。ドナルド・トランプ大統領は、下院もステーブルコイン法案を速やかに可決するよう求めている。
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ステーブルコインとは
価格が常に安定している(stable)仮想通貨を指す。ステーブルコインは暗号資産の一種で、BTCやETH、XRPなど変動性のある資産とは異なり、米ドルなどに裏付けられその価値を保つことが目的だ。米ドルの裏付けによるステーブルコイン(USDT・USDC)のほか、アルゴリズムを利用するステーブルコインもある。
脱ドル化が長期的トレンドと予想
シグナムは、脱ドル化は米国の世界的な優位性の低下と並行して、今後も続くであろう長期的なトレンドだとの見解を示した。
世界の準備金における米ドルのシェアは着実に減少しており、2000年代初頭の70~75%から、現在では約55%にまで低下していると指摘する。中国の人民元や、オーストラリアドル、カナダドル、韓国ウォン、シンガポールドルといった準備通貨の台頭を背景に挙げた。
また、BRICS諸国が「多極的」な世界秩序を支持するような多通貨による新たな貿易・決済システムの構築に重点を置いており、貿易における仮想通貨の使用も一部で増えていると述べた。
米国が、自国通貨米ドルを経済制裁やドル準備の差し押さえなど政策手段として活用していることも、他国が米ドルに代わる通貨を探す強い動機となっていると論じる。
具体例としては、ロシアの銀行や企業が、米国の制裁を回避することを目的の一つとして仮想通貨による取引を拡大していることがある。
ロシアの大手国営防衛コングロマリット「ロステック」は、今年中に仮想通貨トロン(TRX)ベースのルーブル建てステーブルコイン「RUBx」を発行する見込みだ。
また、ロシア農業銀行も6月、仮想通貨は制裁回避手段になるとして、穀物輸出取引における仮想通貨ベースの決済ソリューションを、ロシア中央銀行と協力して検討すると発表している。
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シグナムは、米ドル優位性は長期的に低下すると予測しつつ、中期的な米ドルの見通しは強気であると分析した。
巨額のドル建て債務に起因する依然として高いドル需要と、貿易および決済における継続的なドル使用、米国の金利が他の西側諸国よりも高い水準を維持するという見通し、米国のGDP成長率が他国と比較して高いと予想されていることなどを要因として挙げている。
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