米IRSの指示が不明瞭と指摘する声も
米内国歳入庁(IRS)の個人所得税申告書様式に新たに追加された暗号資産(仮想通貨)に関する質問が混乱を招いているようだ。
この所得税申告様式「1040」には「2020年中に、受信、売却、送信、取引、またはその他の方法で仮想通貨による金銭的利益を得たか?」という質問が設けられており、「はい」か「いいえ」にチェックする形だ。
一部の納税者は、米ドルを使用してビットコイン(BTC)などの仮想通貨を購入したのみの場合でも「はい」と回答していた。しかし、IRSが追加したFAQ(よくある質問と回答)によれば、その場合「はい」と答える必要はない。該当箇所は次の通りだ。
質問:2020年に、私は法定通貨で仮想通貨を購入したが、他に仮想通貨の取引はなかった。様式1040の質問に「はい」と答える必要があるか?
回答:いいえ。2020年の仮想通貨に関する唯一の取引が、法定通貨による仮想通貨の購入であった場合、様式1040の質問に「はい」と答える必要はない。
仮想通貨の税務コンプライアンスをサポートする企業CoinTrackerの税務戦略責任者、Shehan Chandrasekera氏は、IRSの本来の指示は曖昧なものであったため多くの人々が混乱したと述べる。
CoinTrackerはホームページで、IRSがFAQで新たに説明したことで明確性が高まったとコメント。プライバシーを重視する人々にとっても、仮想通貨購入について不必要にIRSに開示する必要がないことは歓迎できるだろうという。
2019年分の申告書についても仮想通貨に関する質問は設けられていたが、すべての人が回答する必要はなかった。今回は、納税者の名前と住所のすぐ下という非常に目立つ場所に、この質問が挿入されており、回答は必須となっている。
関連:米IRS、2020年度確定申告で仮想通貨取引への回答が必須に
「はい」と回答する方が無難とする意見
IRSの示した追加回答を参照し、法定通貨で仮想通貨を購入しただけの場合には「はい」と答えることは不要であるという意見が多い。しかし、これには異論も挙がっている。
税務に関してIRSと顧客が争う裁判を担当するGuinevere Moore弁護士は、Forbesの記事に納税者は慎重になる必要があると書いた。
問題が発生し得るのは、2020年度には申告対象となる額がなくても、2021年度に課税対象となる利益が発生し、納税者がそれを申告しなかった場合だ。
その場合は、2020年度に「いいえ」と回答したことが、「仮想通貨を隠匿しようとする意志の証拠」だとされ、その後の手続きで不利に働く場合も考えられるという。
このためMoore弁護士は、仮想通貨の購入のみで売却しなかった顧客にも、やむを得ない理由がない限りは「はい」と答えるようアドバイスするだろうと述べた。
仮想通貨に関する税務手続きは比較的新しいもので、米国においてもまだ完全な明確さが得られているわけではないようだ。