不確実な部分が多いNFTプラットフォーム規制
NFT(Non-Fungible Token;非代替性トークン)の人気が高まっています。ビットコインやイーサリアムのように細かく分割できる代替性トークンと比べて、非代替性トークンはそれぞれが不可分であり、独自の価値を持っています。
NFTは、ビデオ、オーディオレコーディング、トレーディングカード、デジタルアート、アニメーションなど、さまざまなデジタルアイテムに付けることができます。NFTは、ブロックチェーンと呼ばれるデジタル台帳に取引の詳細を記録することで、それぞれのデジタルアイテムの所有権が確認できます。この台帳は、インターネットに接続された多数のコンピューター上に分散して公開されているため、破壊や改ざんができないのが特徴です。
過剰なまでに注目するメディアと高まる投資家の関心のおかげで、NFT価格は暴騰することがあります。例えば、2021年3月には、デジタルアート作品に関連するNFTがクリスティーズのオークションにおいて6900万ドルで落札されたとBBCが報じました。NFTの価値が上昇していることを考慮して、起業家は新しいNFTマーケットプレイスの立ち上げを検討するかもしれません。
しかし、NFTが導入されたのはごく最近であるため(最初のNFTは2014年に登場)、NFTプラットフォームの規制については、まだ法的に不確実な部分が多いのが実状です。
NFTマーケットプレイス立ち上げに関心がある投資家や起業家は、自らの法的責任と、今後整えられていくであろう各種規制の影響を考慮する必要があります。NFTマーケットプレイスを成功させ持続的に運営し、そこから利益を得るためには、法律上のリスクを検討することが不可欠です。この記事では、主な法的問題点について解説しています。
マーケットプレイスが念頭に置くべき法的観点
NFTマーケットプレイスは、運営者を法的問題から守るために、少なくとも2つの重要な文書を用意する必要があります。それは利用規約とプライバシーポリシーです。
利用規約
まず利用規約は、NFTマーケットプレイス運営者とその顧客との関係、及びプラットフォーム上で紹介されるNFTの買い手と売り手との関係を規定するものです。
契約、エンドユーザーライセンス契約、デジタル技術に精通した弁護士は、法的課題や精査に対抗できる規約を作成することができます。適切に作成された利用規約は、NFTマーケットプレイスとそのユーザーの間で生じるかもしれない紛争のリスクを減少させます。さらに規約は、買い手と売り手の間で紛争が発生した場合に、顧客の責任を最小化または排除することができます。
規約には、規約に起因または関連して生じた紛争の解決策ついての規定を含める必要があります。仲裁は、低コストの個別的紛争解決方法であり、公的訴訟により評判低下を招くリスクのない合意に達することができるかもしれません。顧客の状況に応じて、拘束力のある仲裁、ない仲裁を提供し、またその他のより有利な紛争解決方法を提案する等、弁護士は適切なアドバイスすることができます。
プライバシーポリシー
NFTマーケットプレイスの運営者は、顧客が決済取引を行えるよう、顧客の個人情報を保管・処理することになるでしょう。そのデータを安全かつ確実に保存することは、重要な課題です。多くの法域では 個人データの処理者に対して、プライバシーポリシーでその業務内容を明確に開示することを求めています。
プライバシー侵害に対する罰金額は、企業にとって壊滅的ダメージになる可能性もあります。2019年、米国連邦取引委員会(FTC)は、消費者のプライバシーを侵害したFacebookに50億ドルのペナルティを課しました。EUの一般データ保護規則(GDPR)に違反した場合は、2,000万ユーロ、または、侵害者が全世界で生み出した年間売上高の4%の、いずれか高い方の罰金が課せられる可能性があります。
ユーザー作成のコンテンツを表示または販売するNFTマーケットプレイスは、規約やプライバシーポリシーに加え、コミュニティガイドラインという形で更なる保護を加えることができます。これらのガイドラインは、NFTマーケットプレイスの価値をユーザーの心に刻み込むことができ、人種差別、性差別、同性愛嫌悪、またはその他の否定的なコンテンツを投稿する価値感に違反するユーザーを特定し、アカウントを停止する根拠として使用することができます。
知的財産権の保護
NFTマーケットプレイスが円滑に運営されるためには、NFT取引の各ステップにおいて、各参加者の適切な知的財産権を確認し、保護する必要があります。
例えば、デジタルコンテンツの所有者は、NFTマーケットプレイスの運営者に対して、デジタルコンテンツをデジタルギャラリー、カタログ、作品集、その他のプロモーションに掲載する権利を提供する必要があります。このような権利がなければ、NFTマーケットプレイスは、買い手と売り手が必要とするサービスを提供できない可能性があるのです。
その一方で、NFTマーケットプレイスが、NFTクリエイターやオーナーに対して、NFTマーケットプレイスや他の第三者にコンテンツに対する過度に有利な権利を譲るよう要求するケースも起こりえます。この場合、IPオーナーはNFTマーケットプレイスの利用に消極的になり、運営者の有効性が制限される可能性があります。デジタル技術分野での経験を持つIPおよびライセンス契約専門弁護士は、知的財産権の公正な配分を確保することができます。
証券法と規制
米国をはじめとする各国では、NFT取引をどのように規制すべきかが検討されています。美術品や高級ワインなどのコレクターズアイテムと同様に、多くの NFTは金銭的価値だけでなく芸術的価値も有しており、一部の国では株式や債券、オプションなどと同様に有価証券として扱うかどうかの判断に苦慮しています。
多くの場合、非金融商品は証券には該当しませんが、ある種のNFTは証券法の適用範囲に入る可能性があります。NFT マーケットプレイスが有価証券を取り扱う必要がある場合、有価証券のブローカー・ディーラーとして登録し、米国証券取引委員会(SEC)および関連する自主規制機関を含む、適用されるすべての有価証券関連要件を遵守することが求められる可能性があります。
しかしNFTマーケットプレイスは、NFTの再販性や価値上昇の可能性ではなく、NFTの芸術的品質や実用性に焦点を当てることで、SECの監視や罰則を回避する手段を講じることが可能です。NFTマーケットプレイスで取引されているNFTを厳密に法的分析することで、その運営者は、適用される証券規制違反による懲役刑を含む制裁を回避することができます。
消費者保護
ほとんどの主要法域では、商品やサービスを購入する消費者を保護するための法律が制定されています。
例えば米国では、連邦取引委員会法により、あらゆる媒体での欺瞞的又は不公正な広告が禁止されています。広告は、消費者に誤解を与え、製品やサービスの購入に関する意思決定、意見、行動に影響を与える場合、欺瞞的であると考えられます。広告は、それが実質的に、他の利益によって相殺されず、合理的に回避できない損害を引き起こす、または引き起こす可能性がある場合、不公正とみなされます。
NFTマーケットプレイスが、顧客が購入するものとそれに伴うリスクについて適切な情報を提供していない場合、連邦取引委員会法は、NFTマーケットプレイスの運営者が欺瞞的または不公正な広告に従事していると主張する可能性があります。その結果、多額の罰金が科せられる可能性があるのです。
課税
アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)は一般的に、NFTを「財産」とみなしています。つまり、NFT売買に携わる者は、売上税やキャピタルゲイン税の支払いを求められる可能性があるのです。したがって、NFTマーケットプレイスは、売上税を徴収・送金し、販売価格、手数料、その他の手数料を正確に記録するための仕組みを導入する必要があります。
現在のところ、NFTが売上税や使用税の対象となることを明確に認めている州の税務当局はありません。しかし、いくつかの州では、NFTが見たり(トレーディングカードやアートワークの場合)、聴いたり(オーディオファイルなど)できるものであれば、NFTも課税対象となりうるほどに十分に広い範囲の法的枠組みが構築されています。
まとめ
NFTは、マーケットプレイスのファシリテーターを含む幅広い参加者にエキサイティングな機会を提供します。他のビジネスの新興市場と同様に、デューデリジェンスを行い、潜在的な利益と市場機会、法的リスクを比較検討することが賢明です。