押収可能な仮想通貨を追跡
ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chaynalysis)は16日、不正に取得された暗号資産(仮想通貨)を追跡し、100万ドル(約1億1,500万円)以上を保有する犯罪者(犯罪的クジラ)の保有状況や資金源を分析したレポートを公開した。このレポートは、同社が昨年の犯罪動向をまとめた「2022年仮想通貨犯罪報告書」の報告書の一部だ。
チェイナリシスは昨年、法執行機関による仮想通貨関連の犯罪捜査能力が高まったと評価。米国司法省(DOJ)や米内国歳入庁犯罪捜査部門(IRS-CS)、ロンドン警視庁が多額の仮想通貨の押収に成功した事例を紹介した。さらに今月、DOJが同省史上最高額となった、Bitfinexハッキング関連の36億ドル(4,150億円相当)の押収に成功したことに触れた。
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レポートでは、「理論上、法執行機関が押収し得る仮想通貨」として、犯罪行為に関連する追跡可能な残高の合計と、100万ドル以上の仮想通貨を保有する犯罪者の残高のデータを分析。4,068人の犯罪的クジラが、250億ドル相当(2.9兆円弱)を保有していることが判明した。
犯罪関連の総残高
まず、レポートは過去5年間の犯罪関連残高を、不正行為別にグラフで示した。犯罪関連残高とは、不正行為に起因するアドレスに保有されているとチェイナリシスが判断したものを指す。
このグラフから、前年比で2021年には犯罪関連残高が大幅に増加したこと(30億ドルから110億ドル)、そして資金の大半が窃盗行為によるものだということだ。2021年末時点の内訳は以下の通り。
- 窃盗:98億ドル (1兆1,316億円)犯罪関連残高の93%
- ダークネット:4億4,800万ドル(517億円)
- 詐欺:1億9,200万ドル(221億円)
- 不正会社:6,600万ドル(76億2,000万円)
- ランサムウェア:3,000万ドル(34億6,400万円)
しかし、この残高総額は1年を通して変動が激しいようだ。(66億ドルから148億ドルの幅)チェイナリシスは一つの要因として、ブロックチェーン上で追跡された犯罪資金が迅速に精算されることを挙げ、仮想通貨犯罪捜査におけるスピードの重要性を強調した。
ダークネット市場に関わる犯罪者は、資金を長く保有する傾向があるのに対し、盗難資金を保有するウォレットでは保有期間が最も短いことが判明。2021年には、過去の数値に比べ、全てのカテゴリーで75%保有期間が短縮された。
中でもランサムウェア(身代金要求の不正プログラム)を利用した犯罪に起因する資金の保有期間は短く、法執行機関による捜査の圧力を反映しているとレポートは分析した。
犯罪的クジラの保有残高
チェイナリシスは、(1)100万ドル以上の仮想通貨を保有するプライベートウォレット、(2)不正なアドレスから資金の10%以上を受け取っているものを「犯罪的クジラ」と定義している。そのため犯罪的クジラが保有する残高の合計は、犯罪関連残高とは一致しないことに留意したい。
以上の条件を踏まえ、チェイナリシスは4,068の犯罪的クジラが存在し、その保有額合計は250億ドル(約2兆8,868億円)をこえると算出した。このような犯罪的クジラは、クジラ全体の3.7%に相当する。
不正資金の割合と資金源
犯罪的クジラがどれほどの割合で不正資金を受け取ったかでみると、両端に分かれる結果となった。最も多かったのは資金の10%から25%を不正なアドレスから受け取った1,374人(アドレス)だったが、僅差で1,361人が資金の90%から100%を受け取っていたことがわかった。
その資金源で最も多かったのがダークマーケット(37.7%)、次が詐欺(32.4%)だった。盗難資金は3位の24.3%となっている。
タイムゾーンで分析
さらにレポートでは、活発な活動を示した768のクジラにタイムゾーンを割り当てた分析により、犯罪的クジラの居住地を推測した。(世界地図の縦方向の位置のみの推定)
その結果、協定世界時(UTC)のゾーン2、3、4で最も多くのクジラの存在が確認された。ゾーン1および−9にも多くのクジラがいるようだ。UTCタイムゾーン2、3、4には、モスクワやサンクトペテルブルクなどのロシアの大都市部分が含まれている。
チェイナリシスは仮想通貨犯罪報告書で、「ハイリスク地域」としてロシアにおける不正な金融活動について特別に紙面を割いて報告していることから、この結果は大変興味深いと言えるだろう。
なお、ゾーン2、3、4には南アフリカ、サウジアラビア、イランも含まれるため、犯罪的クジラがこの地域に拠点を置いている可能性も高い。チェイナリシスはイランもハイリスク地域として別途、報告している。
追跡可能な仮想通貨ベースの犯罪
チェイナリシスは、公開されたデータから効率的に犯罪者を追跡し、保有資産を定量化できることが、仮想通貨を利用した犯罪と法定通貨を利用した犯罪の大きな違いだと指摘。
法定通貨では、ダミー会社や外国の金融機関など「不透明なネットワーク」が利用されるため、保有資産状況の把握が難しい一方、仮想通貨はブロックチェーン上に保存されるため、誰でも閲覧が可能という特徴があるとまとめた。
法執行機関による捜査能力の精度が高まるにつれ、仮想通貨を利用した犯罪の検挙率は増加することが予想される。犯罪的クジラに関する調査、分析は捜査のための重要な機会を提供するとチェイナリシスは強調した。