はじめての仮想通貨
TOP 新着一覧 チャート 学習-運用 WebX
CoinPostで今最も読まれています

仮想通貨規制への対応により生じたウォレット企業への反発とその教訓とは ビットコイン研究所寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

過剰な規制対応が炎上騒動へ発展

22年1月、TrezorやBluewalletなど一部のウォレット事業者がソフトウェアにAOPPという規制対応機能を搭載したことで炎上し、ツイッター上の声によってその機能を削除する決断を迫られるという騒動がありました。

今日はAOPPの内容と背景、そしてウォレットの署名機能への影響について書きます。

AOPPとは

Address Ownership Proof Protocol (AOPP)とは、固定のメッセージに対して仮想通貨アドレスに紐づく秘密鍵でメッセージ署名を行うことでそのアドレスの所有者であることを証明するプロトコルです。

スイスの規制では、VASP (暗号資産サービスプロバイダー)に分類される事業者は入出金時に対象アドレスの所有者を確認することが義務付けられています。これは取引所の入出金に関して世界でトップクラスに厳しい規制ですが、AOPPはこれに対するコンプライアンス方法として21 Analyticsというコンプライアンスサービス会社によって提案され、これにいくつかの暗号資産ウォレット会社が対応したというものです。

プロトコル自体はaopp://から始まるカスタムURLスキームを使ってユーザーにAOPPに対応したウォレットアプリを開かせ、アドレスとアドレスに対応する鍵による署名を提出させるという簡単なもので、あくまでユーザーとVASP間のやりとりをスムーズにする内容のものです。

逆に、アドレスに対する秘密鍵で署名できない場合にはVASPから直接送ることができないということになります。他者や他社に送る以外にも、厳密に運用されているコールドウォレット、ペーパーウォレットやスクリプトアドレスなどが該当します。

コミュニティの反応

実際は去年の中頃からこれらのウォレットに統合されていたAOPPについて広く知れ渡ったのは、1月下旬のことですが、ウォレット開発者が規制に迎合する姿勢に多くのビットコイナーが怒りを顕にしました。

ウォレット事業者側の言い分としては、スイスの規制に対応するUXを改善するため導入したという実用面での意見から、入出金ウォレットの本人確認が普及すればより厳しい規制(ユーザーに対する規制)を回避・先延ばしできるかもしれないという、お世辞にもビットコイナー受けが良くない、政府をトラストしまくっている見解までありました。

どこかの政府の規制にウォレット開発者が多数迎合してしまうと、その規制の他国への導入ハードルが下がってしまうほか、さらなる規制も実装させようという圧力が高まる…といった、政府圧力の既成事実化は自分も恐れています。私達は銀行業界がどうなっているのかを目の当たりにしているはずで、ビットコインにおいてはできる限り規制しにくい状態を維持するほうが良いことは明白です。

規制対応が困難であるほど、VASP側から政府に「それはさすがに無理だ」というインプットが入りやすいと思うので、今回の教訓が今後のウォレット開発に活かされることに期待しています。

ちなみにAOPPはKYCしている取引所とユーザー間のP2Pのやり取りであるからプライバシー面では問題ないという指摘を見ますが、スイスのこの規制自体は直接入出金するアドレスが確実に自分のものとわかってしまうため、可能性が小さくなりプライバシーを毀損します。こうやって少しずつプライバシーを削られるのが怖いので、AOPP自体ではなく規制が悪いとはいえ、AOPPの普及によって同様の規制が世界に広まりやすくなるのは嫌です。

またビットコインアドレスによる署名機能自体は非常に古い歴史がありますが、それほど活用されていないように思います。ログイン認証に使ったり、データに署名するなどもっと面白い使い方はいくらでもあるので、AOPP以前に普通の署名機能を実装してほしいです。今回の騒動で署名機能自体がコンプライアンスに寄与するものとして忌避されるようになったらそれも遠のいてしまったかもしれませんが…。

入出金アドレスとプライバシー

関連テーマとして、取引所の入出金アドレスの指定や認証とプライバシーについて少し書きたいと思います。

二年前くらいから、出金用アドレスを予め登録させる取引所が増えたように思います。これはセッションを乗っ取られても犯人のアドレスが登録できないことから盗難防止にもつながる、とても良い取り組みだと思います。実際の運用では、毎回出金前に新しいアドレスを登録するのがプライバシー面で良いでしょう。(アドレスの使いまわしをする方は未だに多いですが、プライバシー面で最悪手です)

一方で入金用アドレスを都度新しく生成させてくれる取引所はまだ少ない印象があります。オンチェーン分析はプロのトレーダーが用いる一般的な手法として市民権を得ており、取引所の入金アドレスの使いまわしは顧客のプライバシーを損なうのみならず、フロントランニングなどを通して直接的に顧客の損失につながるという意識が足りていないのではないでしょうか。

コンプライアンス云々よりも先にこうしたベストプラクティスがちゃんと確立されて運用されるべきでしょう。お上の顔色を伺うことばかり優先するからオフショアな取引所やDEX・Defiに勢いで負けてしまうのだろうなと納得してしまいます。

おわりに

今回AOPPに対して噴出した不満も、社会的に見たらまだまだ非常にマイノリティの意見でしょう。社会的なコンプライアンスコストに対して成果が非常に小さいAML利権と、その権化であるFATFに対する風当たりが強まるきっかけがほしいですが、一般人の数割が困るくらい不便さが極まらないと見直されないのかなと悲観しています。

その日が来るまでビットコインに対する圧力は続くでしょうが、なるべく理不尽に屈することなく使える環境を守り続けたいですね。

寄稿者:加藤規新(Kishin Kato)氏加藤規新
シカゴ大学卒業後、トラストレス・サービス株式会社にてビットコイン関連のオープンソースツールやライトニングネットワーク関連の開発に従事。オークションサイトのPaddle.bidなどを手掛ける。ビットコイン研究所ゲストライター。ビットコイン研究所について詳細はこちらからご覧いただけます。
CoinPost App DL
厳選・注目記事
注目・速報 市況・解説 動画解説 新着一覧
08/21 木曜日
17:48
シンプレクス、ステーブルコイン参入を支援へ アバランチ実証実験を受け
シンプレクスが金融機関のステーブルコイン事業参入支援を本格化。Ava Labsとの実証実験でアバランチ基盤の高性能インフラを実証し、参入障壁の解消を目指す。
17:23
カニエ・ウェスト、仮想通貨YZY発表
カニエ・ウェスト(Ye)が暗号資産(仮想通貨)「YZY」をソラナ上で発行し、発表直後にバイナンスに上場。YZY Moneyエコシステムの中核トークンとして決済サービス「Ye Pay」やYZYカードを展開予定。
16:39
メルカリとソニー、NFT・デジタルコンテンツ普及で基本合意 Soneium活用へ
メルカリとソニーグループがNFT・デジタルコンテンツ普及で基本合意。ソニー独自ブロックチェーン「Soneium」を活用し、メルカリの月間2300万人ユーザー基盤でWeb3技術の大衆化を目指す。アイドル関連NFT販売を皮切りに新エコシステム構築へ。
14:00
米上院議員、仮想通貨市場明確化法案の年内成立を目指す
シンシア・ルミス米上院議員は、仮想通貨規制の明確化を図るクラリティ法案の年内成立を目指すと発表した。先月発表された上院の独自案ではなく、超党派の支持を得た下院案を基本法案とする方針に切り替え、11月末にはトランプ大統領への提出を見込んでいる。
13:40
ゴールドマンサックスとベッセント財務長官、ステーブルコイン急成長を予測
米財務長官とゴールドマンサックスがステーブルコイン市場の急拡大を予測。規制整備により数兆ドル規模の成長期待が高まる中、JPモルガンは慎重姿勢を示す。
12:50
「ビットコインは2030年までに100万ドルへ」コインベースCEOが強気予想
コインベースCEOが2030年のビットコイン価格を100万ドルと予想した。機関投資家流入など強気シナリオの要因を挙げている。仮想通貨の今後のユースケースについても話した。
12:00
「多様なイノベーション促進へ」金融庁・今泉参事官が語る、暗号資産規制やETFの展望
金融庁の今泉宣親・暗号資産ブロックチェーンイノベーション参事官が語る、ビットコインETF、制度改革、ステーブルコインの展望。利用者保護とイノベーション両立への取り組みを詳述。
12:00
ビットバンク廣末社長が語る、ビットコインとの出会いと今後の展望|WebXスポンサーインタビュー
大規模カンファレンス「WebX 2025」のタイトルスポンサーとしてブース出展を決めた、ビットバンク廣末紀之社長独占インタビュー。オリコン顧客満足度2年連続1位の暗号資産取引所が語るWeb3時代の資産形成戦略とWebX2025への展望を聞く。
11:30
明日にジャクソンホール会議パウエル講演控える中、仮想通貨相場反発
ビットコインが前日比1.17%上昇する中、機関投資家によるイーサリアム大量購入が継続。Bitmine Immersionが52,475ETH追加で総保有額66億ドル近くに。一方、個人投資家のアクティブアドレス数は8月に28%減少し、ビットコイン・イーサリアム現物ETFからも大幅流出。ジャクソンホール会合でのパウエル議長発言が今後の相場を左右する見通し。
10:50
アーサー・ヘイズ、幹細胞事業に投資
ビットメックスの創設者で元CEOのアーサー・ヘイズ氏が幹細胞クリニック事業に大規模投資し取締役就任。先週売却した仮想通貨を1050万ドルで買い戻し、「利益確定はもうしない」と方針転換。
10:05
イーサリアム財団、セキュリティ強化の行動指針発表
イーサリアム財団は、Trillion Dollar Securityのプロジェクトについて行動指針を発表。仮想通貨イーサリアムの広範な調査を経て、まずはユーザー体験の安全性を強化する。
09:40
米ブロックチェーン協会ら、ステーブルコイン利回りに関する「ジーニアス」改正案に反対
米ブロックチェーン協会らが、銀行協会提案のステーブルコイン利回り規制強化に反対している。「ジーニアス」法案の改正案にいくつかの論点から異議を唱えた。
08:35
米ナスダック、BNB保有企業WINTの上場廃止決定 株価75%超暴落
米ナスダックがBNB投資企業ウィンドツリー・セラピューティクス(WINT)の上場廃止を決定。株価が最低価格1ドルを下回り、今年99%以上下落。
08:00
RWAトークン取引所「DigiFT」、計37億円の資金を調達
RWAトークンの取引所DigiFTは、現在までで合計約37億円の資金を調達したことを発表。直近の資金調達ラウンドはSBIホールディングスが主導している。
07:45
トークン化株式「xStocks」、トロンのブロックチェーンに拡大へ
クラーケンとBackedは、TRON DAOとの協業を発表。株やETFをトークン化して取引できるようにするサービスのxStocksを、仮想通貨トロンのブロックチェーンに対応させる。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
重要指標
一覧
新着指標
一覧