分散型台帳技術の可能性に注目
欧州中央銀行(ECB)のファビオ・パネッタ理事は26日、ドイツで開催された決済システムについてのシンポジウムに登壇。中央銀行デジタル通貨(CBDC)への取り組み方について話した。ECBは分散型台帳技術(DLT)の可能性に注目していると述べている。
パネッタ氏は、CBDCには中央銀行が民間銀行に供給して銀行間送金に使うホールセール型と、一般消費者が購買などに使えるリテール型があると指摘。その上で、ホールセール型CBDCについての考え方を示した。
まず、中央銀行の資金は数十年前から銀行間のホールセール取引にデジタル形式を取り入れており、その意味ではすでにデジタル化していると説明している。そのために、ホールセール型CBDCについては、現在すでに提供しているサービスをどのように改善し、最新のものにアップデートするかを議論することになるとした。
CBDCとは
各国・地域の中央銀行が発行するデジタル化された通貨を指す。「Central Bank Digital Currency」の略である。仮想通貨との大きな違いは、CBDCは法定通貨であること。通貨の管理や決済等においてコスト削減や効率性向上が期待できる一方で、個人情報やプライバシーの保護、セキュリティ対策、金融システムへの影響など考慮すべき課題は多い。
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パネッタ氏によるとECBは今後、ホールセール決済サービス利用者のニーズがどのように変化していくか、また、新しい技術によってホールセールのデジタル中央銀行決済をより効率的で安全なものにできるかどうかを調査しているところだ。
パネッタ氏は、ECBは特に分散型台帳技術(DLT)の可能性に注目しているとした。その際に、DLTの問題として、ビットコイン(BTC)のようにエネルギーを大量消費する問題を挙げている。パーミッション型DLTにはエネルギー消費量が少ないものもあるが、中央集権的なインフラと比較すると不利になる可能性もあるとした。
また、主要なDLT技術やネットワークの運営者が不明確であったり欧州外に拠点を置いている場合があり、こうしたことはEUの戦略的自律性の面から懸念があるとも指摘する。
しかし、DLTのこうした不確実性を認識しつつも、ECBは「市場関係者が大口決済や証券決済にDLTを採用するシナリオに備える」ことを考えているとした。
既存決済システムの活用も検討
具体的には、ユーロの決済システムにおいて、DLTを採用する市場参加者がTARGETサービスと互換できる形で、ユーロと現金の取引を、中央銀行の貨幣で決済できる方法を探っているという。
TARGETとは
「Trans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer System(欧州自動リアルタイム決済高速送金システム)」の略称。ECBとEU各国の中央銀行が運営している。2018年には、TARGET Instant Payment Settlement(TIPS)を導入し、EU全域の銀行間で、年中無休のリテール即時決済を可能とした。
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パネッタ氏によると、ECBは現在次の2つの選択肢を検討している。
- 市場のDLTプラットフォームと中央銀行のインフラとの橋渡しをする
- DLTベースの中央銀行通貨を用いた、DLTベースのホールセール決済サービスを新たに構築する
一つ目についてパネッタ氏は、既存のTARGETをベースにしたソリューションの方が、完全にDLTをベースにしたものよりも迅速に実装できる可能性が高いとコメントした。
二つ目については、ユーロシステムが独自のDLTプラットフォームを立ち上げること、あるいは、市場参加者が運営するいくつかのDLTプラットフォームで中央銀行通貨を利用できるようにすることが考えられるとしている。
パネッタ氏は、どのような場合でも、ガバナンス、決済効率、流動性管理への影響を慎重に評価する必要があると話した。また、どのような選択肢が適切かは、市場で普及する採用事例や、一定数のDLTプラットフォームに市場が集中するかどうかにも依存すると続けた。