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グアテマラのビットコイン・レイクに行ってみた|体験記寄稿3 草の根活動を通じてビットコインが広まった現場で見たこと・感じたこと

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

ビットコイン循環経済圏構築の第一歩

前回ビットコイン・レイクの活動事例として、廃油で発電した電気でASICを稼働するマイクロマイニング施設をご紹介しました。

本記事では、ローカルビジネスへのビットコイン導入支援についてご紹介します。

ビットコイン循環経済圏を創るには、まず住人にビットコインを行き渡らせる必要があります。銀行口座を持たない人も多く、取引所で購入してもらうわけにもいきません。現実的な方法は「稼ぐ」です。

ビットコイン・レイクが活動拠点とするパナハッチェルは、観光客を相手に飲食店、お土産物屋を経営したり、トゥクトゥクやタクシーなど移動手段を提供する人が多いので、顧客からの支払いをビットコインで受け取れば、地域に滞留するビットコインを手っ取り早く増やせます。

驚異的スピードで導入が進むビットコイン決済

下図はパナハッチェル中心部の地図です。オレンジ色のピンはビットコイン払い可能な商業施設を示しており、2022年11月時点で約60あります。

ビットコイン決済可能な施設を示した地図(出典:ビットコイン・ビーチ・ウォレット)

ビットコイン・レイクが始動した2022年1月にはゼロだったのが、10ヶ月で60施設まで増えました。

ちなみに、2021年9月にビットコインを法定通貨に採用したエルサルバドルでは、2023年1月時点で首都サンサルバドルでは約40、ビットコイン・ビーチとして知られるエル・ゾンテでは約30の施設でビットコイン決済が可能です(BTC Map)。

また、2022年3月にビットコインを実質法定通貨に採用したスイスのルガーノ市では、2022年12月時点で125施設がビットコイン払いを受け付けています(The State of Bitcoin Adoption in Lugano — December 2022)。ルガーノ市が9ヶ月という短期間のうちにビットコイン決済を急拡大できた裏には、市政府とBitfinex/Tether社という強力な主導力と資金力、さらには2020年に地域経済活性化を目的として導入されたLVGAというスイスフランにペッグした独自ステーブルコインの普及活動の一環で、暗号通貨決済が可能なPOSが既に多くの商業施設に配布されていたという事情があります。

エルサルバドルやルガーノ市と違って、法定通貨ではないビットコインを限られた資金と人的リソース(実質コミュニティリーダー1人)で、ここまで普及させたビットコイン・レイクは驚異的です。
以下、ビットコイン・レイクが実践する地元ビジネスへのビットコイン導入支援をご紹介します。

ローラー作戦で事業主にオレンジピルを配布

オレンジピル(orenge pill、オレンジ色の錠剤)とは、ビットコイナーの間で多用される俗語で、ビットコインに対する理解を促す目的で提供する優良コンテンツを指します。オレンジピルする(orange pilling)という動詞もあり、ビットコインについて情報提供、教育を行うことを意味します。

映画「マトリックス」で、主人公が青い錠剤と赤い錠剤の選択を迫れるシーンにインスパイアされたものです。平穏で快適だけど虚構の世界に戻りたければ青、真実を知り厳しい現実に向き合う覚悟があるなら赤。

ビットコイン前後で世界観、人生観が一変する人が多いことから、この赤い錠剤にビットコインを重ねたのでしょう。赤い錠剤をビットコインカラーのオレンジにフォトショップしたミームを目にしたことがある方も多いのでは?

OrangePill.Me

ビットコイン・レイクでは、ビットコインとは何なのか、ビットコインを事業に活用するメリット、おすすめのウォレット、ウォレットの初期設定方法などをA4サイズ1枚に簡潔にまとめた冊子をオレンジピルとして事業主に配布しています。

著者提供:冊子「ローカルビジネスのためのビットコイン」

この冊子はビットコイン・レイクのオリジナルではなく、”Bitcoin for Local Business”というオープンソースプロジェクトが制作したものです。自分の生活圏にある身近なお店へのビットコイン導入を支援する草の根活動を介してアダプションを推進するプロジェクトで、さまざまなオープンソースプロジェクトに貢献しているデザイナーのPedroが中心となって作成した英語版を、世界各国のビットコイナーがボランティアで翻訳しています。

akipponnさんが翻訳してくれた日本版もあるので、近所の商店街や行きつけのレストランなどをオレンジピルしてみたい方は、ぜひ上記リンクからダウンロード、印刷してご活用ください。

ビットコイン・レイクが実践するローカルビジネスのオレンジピリング戦略は、至ってシンプルです。コミュニティリーダーのEliazarが事業主をアポ無し突撃訪問して、冊子を手渡し、ビットコインを知っているか尋ねます。

ビットコインの認知率は50%前後ですが、認知しているかに関わらず、興味を示した人(大半が興味は示します)には口頭で説明を始めます。途中、事業主から質問も出るので、1回の訪問が30分を超えることも珍しくありません。

著者提供:レストランの店主(右)をオレンジピリング中のコミュニティリーダーEliazar(中央)と、ビットコイン・レイクのプロジェクトリーダーのDr Patrick C. Melder(左)

そんな非効率なと思うかもしれませんが、これを地道にコツコツ続けた結果、10ヶ月で60店舗のオンボードに成功したのです。私が訪問中も、Eliazarは行く先々でオレンジピリングを試みていましが、意外なことにビットコイン導入を即決する店舗も結構ありました。その場でウォレットをダウンロード、セットアップしてもらった後、初のビットコイン受け取りを体験してもらいます。ライトニング決済の速さに驚く顔、笑顔

ビットコイナーへの道を一歩踏み出した瞬間、これは何度見ても良いものです。「興味ありません」と拒絶されたり、「検討します」とやんわり断られる予感しかしない日本とは何かが違うのでしょう。

こちらの動画は、新たにビットコイン決済を導入した店舗にビットコイン・レイクのロゴ入り「Bitcoin Aceptado Aqui(ビットコインで支払えます)」サインを取り付けるEliazar。

プロジェクト始動当初は、効率よく数十人まとめてオレンジピルする目的でミートアップを開催してみたそうですが、参加者が少なく、方針転換したとのことです。

ボトムアップ型のアダプションは、このような泥臭い地道な活動でゆっくりと、でも確実に進んでいくのでしょう。

パナハッチェルの街にあふれるビットコインサイン。それまで何気なく眺めていましたが、1つ1つが費やされた労力の証明、まさにプルーフオブワークに見えてきました。

著者提供

オレンジピリングに挑戦

Eliazarがビットコイナーの卵を量産する現場を目撃して刺激を受けた視察団メンバーは、居ても立っても居られなくなり、とうとう自らも勝手にオレンジピリングを始めました。

私もアティトラン湖畔で一番夕陽がきれいに見える街と地元の人におすすめされた、パナハッチェルから車で15分ほどのところにあるサンアントニオ・パロポを訪れた時に挑戦してみました。といっても、私のスペイン語では全く埒が明かず、結局、同行したスペイン語中級者の2人がオレンジピルしました。

彼らの丁寧な説明が功を奏し、サンアントニオ・パロポの記念すべきビットコイン決済導入第1号店となったのは、グアテマラの伝統織物などを扱うお土産物屋さん、San Martin de Porrasです。ビットコインビーチウォレットの地図にも後日掲載してもらいました。グアテマラご訪問の際は、ぜひお立ち寄りください。

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ビットコイナー一行はそれぞれシャツやストールを選び、現地通貨ケツァルで支払いを済ませたのですが、私は今回グアテマラ滞在期間が5日と短く、ビットコインだけで乗り切りたいとの思いもあり、ケツァルに両替をしなかったため、現金を持っていませんでした。同行者にビットコインを送ってケツァルで支払ってもらうこともできましたが、ダメ元で店員の女性に “Puedo pagar en Bitcoin?” 「ビットコインで支払えますか」と聞いてみました。女性はビットコインを知りませんでしたが、店主を電話で呼び出してくれました。

現れた店主に同じ質問をしたところ、何と”Si”「いいよ」と。ただ、その後に「ビットコインってクレジットカードみたいなもの?」と続きました。

ここから、「いや、ビットコインは金のようなもので…。総発行数と発行スケジュールが予め決まっているから…。ウォレットというアプリを使って銀行やクレジットカード会社を解さずに送金できて…。」とお決まりの説明が始まります。10分ほど経過したでしょうか。一通り説明を終えた後、店主が真っ先にした質問は「どうやってケツァルに交換するの?」。もっともです。まさかビットコインで貯金しよう、ビットコインで買い物しようなどとは思わないですから。

ビットコイン・レイクはP2P取引ができるテレグラムグループを作っていますが、取引は少なく、まだこれだけに頼るわけにはいかず、苦肉の策としてEliazarが移動交換所のように定期的にビットコイン導入店舗を回って、ビットコインをケツァルに交換しています。

この旨を店主に説明し、Eliazarの連絡先を教えると、一応納得したようです。

あともう一押し。百聞は一見にしかず、実際に送受金を体験してもらった方が早いと考え、ここで店主に「propina(チップ)を送りたいから」と告げ、ビットコイン・ビーチ・ウォレットをダウンロードしてもらいました。

人生初のライトニング・インボイスを作成し、ビットコインを受け取る店主。

ビットコインビーチウォレットには、stablesats(ステーブルsats)という機能があります。ビットコイン残高を米ドルにペッグしたステーブルコインに交換して保管できるのです。

ステーブルコインを敵視するビットコイナーは多いですし、私も内心穏やかでなく葛藤を抱えています。しかし、現時点では、その有用性を認めざるを得ません。

店主は生まれて初めてビットコインを受け取ってはみたものの、まだ違和感は拭いきれないようです。そこで、stablesats機能を使ってもらいました。馴染みのある$マークの横に並んだ数字を見て、やっと受け取ったビットコインとやらには価値があると思えたのでしょう。ビットコイン決済導入を決断してくれました。

私がビットコインでの支払いを終えると、記念にとグアテマラの民族衣装を着せてくれました。が、私にはあまりにも似合わなすぎて、時々この写真を見ては今だに1人で笑ってます。

もう1人の女性はアメリカ人ですが、お父様がエルサルバドルとお母様がコロンビア出身というだけあって、よく似合ってました。男性陣はグアテマラというよりは中東かインドの雰囲気を醸し出していました。(プライバシー保護のため、レーザーアイにしてます。)

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戸惑いながらも、私たちの話を真剣に聞いてくれ、疑念を乗り越えてビットコインを受け取ってくれた店主に感謝です。この後、4人で高揚感と達成感を分かち合いながら、パナハッチェルでのディナーに向かいました。

他の視察団メンバーからも、オレンジピリング成功の報告がチャットグループに続々投稿されました。

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実際に自分たちで体験することで、ビットコインをほとんど知らない人にビットコインとは何か、ビットコインで支払いを受け取るメリットを説明し、ウォレットの使い方を教え、ビットコイン決済の導入を承諾してもらう大変さが骨身に染みました。導入成功なら報われますが、断られることも多いので、モチベーションを維持するのは簡単ではないでしょう。

草の根の地道な活動を介したボトムアップ型のアダプションは、プロジェクト主導者と参加者のビットコインに対する信念と、ビットコインをより多くの人の手に届けるという使命感に支えられています。ビットコインは宗教に例えられることも多いですが、オレンジピリングは確かに布教活動に通じるものがあります。

こちらでお伝えしたように、エルサルバドルでは前回訪問時と比べて、国民のビットコインへの関心は下がり、ビットコイン決済ができる商業施設は減った印象を受けました。

1年後、ビットコイン・レイクのはどうなっているでしょうか?エルサルバドルとは違って、ビットコインの使える施設は増えていると思います。ビットコインを導入した事業主は、自分なりに納得した上で、自発的に決断したからです。

大統領が決めたから、会社の方針だから、上司に言われたからではなく、自分で選択したのです。しかも、困った時には、Eliazarという頼もしい助っ人が駆けつけてくれます。

出来の悪い官製ウォレットのトラブル時にヘルプデスクに電話しても要領を得ない回答しか得られないエルサルバドルとは違います。こう信じて、今年も現地に足を運んでこの目で確かめたいです。

次回は、さまざまなウォレットを使って50回超ライトニング決済をした体験と、そこから見えてきた課題などをお伝えします。

寄稿者:練木照子(Teruko Neriki)練木照子(Teruko Neriki)
ビットコインとライトニング関連スタートアップへの投資に特化したVCフルグルベンチャーズ所属。「ビットコインスタンダード」「ビットコイン、強気にならずにはいられない理由」「ビットコインの歩き方」翻訳出版。ビットコイン研究所について詳細はこちらからご覧いただけます。
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