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グアテマラのビットコイン・レイクに行ってみた|体験記寄稿2 草の根活動を通じてビットコインが広まった現場で見たこと・感じたこと

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

世界一かっこいいマイニング施設

前回の記事では、ビットコイン・レイクがエルサルバドルのビットコインビーチに触発されて世界中で相次いて立ち上がったビットコイン循環経済の実証実験の1つであること、これらの実証実験は4つの共通ゴールを掲げていることまでをご紹介しました。

数ある実証実験と比較した時のビットコイン・レイクの特徴の1つに起業家精神が挙げられます。活動拠点であるパナハッチェルは、気温も湿度も低めの常春の高山気候でマイニングに適していることもあり、起業第1弾はマイニングに決まりました。

すでに、廃棄物を利用したマイニングの事業化が進んでおり、8月には概念実証プロトタイプとして、マイクロマイニング施設を稼働させました。ここで課題を洗い出し、ノウハウを蓄え、収益性を見極めた後、施設をモジュール化してグアテマラ国内だけでなく、中南米全域にスケールすることを目標にしています。

また、マイニングの副産物である排熱を活用する別事業の検討も始まっており、現場は黎明期のスタートアップのような熱量と活気です。匿名ビットコイナーからの巨額寄付を原資にスタートしたビットコインビーチと異なり、運営者自ら私財を投じているので、プロジェクトの継続は収益確保が前提となります。

そもそも私がビットコイン・レイクに興味を持ったきっかけも、Twitterで偶然目にした、このマイクロマイニング施設の動画でした。

マイニングは環境に悪い説へのアンチテーゼ

ビットコイン・レイクのマイクロマイニング施設の詳細に入る前に、マイニング全般について振り返っておきます。

マイニングの転機となった2021年

2021年の中国政府によるマイニングに対する規制強化を受けて、マイナーがアメリカのテキサス州に大移動したことで、ビットコインマイニングは新時代に入りました。マイニングで消費する主要エネルギー資源が、中国での水力と化石燃料から、テキサスでの太陽光、風力、天然ガスに移行しました。

この背景には、自然エネルギー特有の需給ギャップで生じる余剰電力の問題、原油採掘の副産物でフレアリングするしかなかった天然ガスの問題がありました。この2つの問題、すなわち、使われずに消失するエネルギーの有効活用法の解がマイニングです。

環境負荷が高いと叩かれるマイニングが実は自然エネルギー普及を促進したり、「2020年までに地球上のエネルギーを使い果たす」(Newsweek 2017/12/11)と言われたマイニングが使っているのは、そもそも無駄になる運命の資源であったりするパラドックスが面白く、マイニングへの興味を一気に掻き立てられました。この辺りの詳細は以下でコメント、考察しているので、ぜひご参照ください。

    「ビットコイン、脱炭素に変身中 再エネ価格低下が追い風」(日本経済新聞

    「変革期を迎えたマイニング」(ビットコイン研究所

    「データから読み解くビットコインマイニングの最前線」(ビットコイン反省会

再エネ、フレアガスに続くホープは「ゴミ」

2022年のマイニングの新トレンドの1つは「ゴミ」でした。8月にはゴミ埋立地で発生するメタンガスをマイニングに活用するアメリカのスタートアップVespeneが430万ドルを調達しました(Vespeneについては加藤 規新さんの記事「ゴミ山でマイニング?」をご参照ください)。

ビットコイン・レイクでのマイニングも「ゴミ」をエネルギー資源として活用しています。ただ、最初から「ゴミ」ありきだったわけではなく、2022年1月のプロジェクト発足当初は、自然エネルギーの利用を想定していたそうです。しかし、初期投資の大きさから行き詰まっていました。

ビットコイン・レイクが抱える「ゴミ」問題

そんな時、パナハッチェルにおける廃棄物処理の実態を偶然知ったそうです。30万ドル(約4,000万円)を投じて建設したバイオダイジェスター(廃棄物を分解して再利用可能な水とバイオガスに変換する設備)が完成間近の状態で放置され、住民から資源ゴミとして回収したゴミがリサイクルされずに山に投棄されていたそうです。

私も実際に現場を訪れました。4,000万円を投じた施設をなぜ完成させて活用しないのか、リサイクルする気がないのに、なぜわざわざ資源ゴミとして回収するのか、当然の疑問をぶつけてみましたが、明確な答えはありません。汚職や横領、長期的視点の欠如で、計画が頓挫して放棄されることは珍しくないとのことです。

回収したゴミをトラックから取り出して巨大な穴に放り込む作業員は、何が混在しているか分からないゴミを手袋もせず素手でつかみ、粉塵舞う中でマスクもせずに働いていました。

著者提供:1度も稼働していないバイオダイジェスター(左)、「資源ごみ回収車」で山に運ばれ投棄されるゴミ(右)

適切に処理されないまま投棄されるゴミから滲み出た有害物質が土壌を汚染し、地下水に混じって「世界一美しい湖」に流れ込みます。観光業で食べている街が、飯の種である観光資源の価値を棄損しているのです。

廃油でマイニング

廃棄物処理の実態を偶然知ったことで、マイニング事業の方向性が定まったそうです。”Waste-to-Energy-to-Bitcoin”、「廃棄物エネルギービットコインへ」というアップサイクルをテーマに、第1フェーズの概念実証のエネルギー資源に廃油を選びました。

具体的には、飲食店から回収した使用済み食用油です。従来、使用済み食用油は路上や裏庭に撒かれ、雨水と一緒にアティトラン湖に垂れ流されていました。

飲食店にとってはゴミであり、廃棄する手間が省けるとあって、引き取りたいとの申し出は歓迎されたそうです。こうして、マイナーを動かす電気をつくるエネルギー資源を無料で確保できました。

廃棄物をエネルギーに選んだことで、その他のリソースも廃材を最大限に活用して”Zero Waste”「廃棄ゼロ」を目指したいと思ったそうです。

以下、ビットコイン・レイクがマイクロマイニング施設を作るために揃えた主な資材のリストです。

  • ASIC2台(中古のS9とS17s)
  • ディーゼルエンジン(40年モノの中古)
  • カーバッテリー(中古)
  • 廃油を温めるための電熱器(中古)
  • 廃油の濾過装置(使い古した布とバケツ)
  • スチール棚(中古)
  • 220vの電源タップ
  • インターネット回線

グアテマラ初のマイニング施設、Kaboom Energyの誕生

こうして始動したビットコイン・レイクのマイニング事業はKaboom Energyと命名されました。Kaboomとはドドーン、ドカーン、ドンという爆発音で、マイニングの爆音にかけたのだと推測します。

ビットコイン・レイクのコミュニティリーダーEliazarによるデモ動画でご覧いただけるように、マイニングの手順は至って原始的、いやシンプルです。

  1. 廃油を10分間加熱
  2. 温めた廃油を濾過して不純物を除去
  3. 濾過した廃油をディーゼルエンジンに注ぐ
  4. ディーゼルエンジンを駆動してカーバッテリーをチャージ
  5. カーバッテリーでASICを稼働
  6. 廃油を注いでエンジンを駆動してカーバッテリーをチャージするとマイナーが稼働します(左に写っているのはドイツのテレビ局。中南米で進むビットコインの普及実態を報じるため、ビットコイン・レイクに取材に来ていました。)

ビットコイン・レイクはマイニングを介して、不適切な廃棄物処理に起因する地域の宝アティトラン湖の汚染という環境問題に解決の糸口を見つけました。汚染源である廃棄物をエネルギーに転換し、さらにビットコインという健全な貨幣にアップサイクルしたのです。

まだ概念実証段階ではありますが、ビットコインという経済的インセンティブと紐づけて廃棄物、廃材の有効活用を促す試みは、2021年に注目を集め、実証データが蓄積しつつある「ビットコインマインングが再エネ普及を推進する」というナラティブと同様に、「ビットコインは環境に悪い」説のアンチテーゼとなり得ます。

大規模資本集約化が加速するマイニング業界へのアンチテーゼ

Kaboom Energyはまた従来のマイニング事業の常識への挑戦と捉えることもできます。

マイニング事業は、膨大な数の最新ASICを空調の効いたクリーンルームに隙間なく並べて24時間365日稼働し続けなければならないと考えられています。薄利で競争が激しいため、規模の経済性がクリティカルだからです。

規模が大きいほど、電力会社との価格交渉を優位に進められますが、ASIC調達やデータセンター建設という初期投資も大きくなり、稼働後もアップタイムを維持するための人件費がかさみます。投資回収期間を短縮するには効率が最優先です。

マイニングは市場環境に大きく左右される浮き沈みが激しい事業です。キャッシュマネジメントを誤ると突然死する高リスク事業であることは、業界最大の時価総額を誇ったCore Scientificが破産申請に追い込まれるなど、2022年が実証した通りです。

さらには、北米、特にテキサス州への地理的集中、大手上場企業への集中トレンドを、ビットコインネットワークにとってのリスクと見る向きもあります。

Kaboom Energyは現在のマイニング業界に風穴を開けるかもしれません。廃材を活用した低予算のマイクロ施設で、安価または無料で入手した型落ちのASICを、タダで入手できるエネルギーからつくった電気で稼働するという新たな選択肢を示したのです。低リスク低リターンモデルはマイニングの参入障壁を下げ、分散化にも貢献するでしょう。

巨大なデータセンターで数千台のASICが爆音を轟かせる光景も壮観ですが、野ざらしに近い裏庭で数台のASICが唸るという光景も清々しいです。無機質な大型施設と違い、Kaboomのマイクロマイニング施設には人間味があります。

そんなもの不要という人もいるでしょうが、個人的には可能性を感じました。常識にとらわれず、挑戦する姿を”the world’s most badass minig”「世界一かっこいいマイニング」と評するビットコイナーも多いです。グアテマラだけでなく、中南米諸国にKaboomモデルが広がるのを楽しみにしています。

寄稿者:練木照子(Teruko Neriki)練木照子(Teruko Neriki)
ビットコインとライトニング関連スタートアップへの投資に特化したVCフルグルベンチャーズ所属。「ビットコインスタンダード」「ビットコイン、強気にならずにはいられない理由」「ビットコインの歩き方」翻訳出版。ビットコイン研究所について詳細はこちらからご覧いただけます。
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