米国債に12.8億ドルの追加投資策
分散型金融(DeFi)の主要プレーヤーである「MakerDAO」は1日に、米国債への投資として新たに1,780億円(12.8億ドル)の配分を目指す提案書の投票を開始したと発表した。
Makerプロトコルはステーブルコイン「DAI」の発行と管理を行い、レンディングプラットフォームとしても機能する。MakerDAOはこのプロトコルの運営方針を、ガバナンストークン「MKR」の所有者の投票によって決定する分散型自律組織(DAO)である。
MakerDAOは2022年10月から、DAI準備金の約半分(当時5,800億円相当)を占めるステーブルコイン「USDCoin(USDC)」の運用戦略を開始した。これはDAIを支える流動資産を分散させ、現在の利回り環境を利用して、より柔軟で流動性の高い手法でMakerの資産に更なる収益をもたらす目的である。
Bloombergのデータによれば、現時点での米国短期国債3か月物の利回りは5.28%と、2022年12月1日時点の4.12%から上昇している。この上昇はインフレ率の上昇や、米国の金融引き締め政策が影響していると考えられる。
当初の戦略では、米国短期国債(80%)と社債(20%)に725億円(5億DAI)を投資した。そして2023年3月には、1,000億円(7億5000万ドル)の追加投資を行った。
新提案では、追加の12.8億DAIが0~6ヶ月間の各種満期を持つ米国短期国債の購入に充てられる予定である。米国の仮想通貨取引所であるコインベースと、米仮想通貨銀行Galaxy Digital Trading Caymanが、ステーブルコインと米ドルの交換を担当する。
この提案が承認されれば、Celadon Financial Groupがブローカーを務め、米資産運用大手ウェドブッシュ・セキュリティーズが、TACO名義の分離口座で米国債を保管する。TACOは2022年にケイマン諸島で設立された有限責任保証財団法人で、Makerの米国債購入戦略を支えるための組織である。
米国債投資からの利益は四半期ごとにMakerDAOプロトコルへ分配される予定となっている。また、DAOの判断により、取引当事者が全資産の売却や収益のMakerDAOプロトコルへの返還を指示することが可能である。
リスクと対策
この戦略は「プロジェクトアンドロメダ」と呼ばれ、BlockTower Capital Advisors LPがアレンジャーとして関与している。BlockTowerは、TACOアカウントの資産価値に対して15ベーシスポイントの手数料を受け取る。そして、TACOが提供するガイドラインや指示に従い、TACO口座の資産を監督・管理する。
BlockTower Capitalは米国証券取引委員会に登録された投資顧問で、TACOとの契約形態は「SMA(Separately Managed Account)」という形を取り、クライアントのアカウントを個別に管理し、その投資戦略に基づいて運用する。SMAに基づく契約により、Blocktowerは2年間で最低合計180万ドルの手数料を保証されている。
MakerDAOの新たな戦略は、DeFiを支える基盤としての信頼性を強化する一方で、新たなリスク要因も生む可能性がある。プロジェクトアンドロメダに関するリスクには、規制リスク、集中リスク、取引所プラットフォームリスク、米国債に特有のリスクがある。
規制リスクについて、米国の連邦、州、地方、および国際的な司法管轄区によって大きく異なる状況だ。TACOがこれらの法律、規則、規制を遵守していないとみなされた場合、罰金や他の規制的な制約に直面する可能性がある。
BlockTowerは、米国の暗号通貨規制環境が不確定であることを考慮し、最大250万ドルの保証金を得るための規定を設けている。これは、規制当局からの罰金や、規制遵守のための追加手続きなどの負担をカバーするものとなる。
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