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「慶應大学Web3ウォレット研究報告書」が示す日本の暗号資産規制の課題と展望|HashPort・WebX Round Table

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

2025年3月5日に開催された株式会社HashPortと一般社団法人WebX実行委員会が主催するWeb3をテーマにしたイベント「HashPort・WebX Round Table」で慶應義塾大学が2020年から進めてきた暗号資産プロジェクトの集大成となる報告書の討論会が開催された。

ノンカストディウォレットを中心としたWeb3ビジネスと現行規制のミスマッチ、DeFiアクセスの課題、規制の内外格差など、日本のWeb3産業が直面する重要課題が浮き彫りになった。

本記事では、研究チームが提言する新たな規制アプローチの方向性を紹介する。

セッションの概要

本イベントで行われた「日本のWeb3規制の在り方に関する考察(慶應義塾大学委託研究報告)」では、田村教授をモデレーターとし、慶應大学の研究チームが2020年から取り組んできた暗号資産プロジェクトの集大成となる報告書について議論が交わされた。

    登壇者
  • 河合 健(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士)
  • 佐野 史明(片岡総合法律事務所 パートナー弁護士)
  • 舘林 俊平(KDDI株式会社, Web3推進部 部長)
  • 渕川 和彦(慶應義塾大学, 准教授)

    モデレーター
  • 田村 次朗(慶應義塾大学 名誉教授)

河合氏はプロジェクトのリードとして研究の全体像を説明。報告書は全6章構成で、①Web3技術の概要、②Web3ウォレットの技術的側面、③ビジネスモデル、④規制環境、⑤DeFiと規制やウォレットの接続、⑥経済法的側面をカバーしている。とりわけ注目すべきは、「ノンカストディウォレット」の活用がWeb3ビジネスの中核となるという指摘だ。

ウォレットの種類と特性

プロジェクトでは、メタマスクのようなノンカストディウォレットと、暗号資産交換業者が提供するカストディウォレットの特性を比較。河合氏は「ノンカストディウォレットはカストディウォレットと違い、様々なWeb3サービスへの自由なアクセスを可能にするが、秘密鍵の自己管理が必要となる」と説明した。

一方でセキュリティ面では「カストディウォレットは集中型のため大規模ハッキングのリスクがあるが、ノンカストディウォレットでは被害が限定的になる」という一長一短があると指摘した。

事業者の視点と規制課題

舘林氏は「au Web3 Wallet」提供の立場から、「現在の規制環境では金融領域に近いビジネス展開にはハードルがある」と指摘。また「日本のWeb3産業発展には、決済やポイントを持つプレイヤーの参入が必要だが、規制の内外格差によって日本のユーザー層が海外プレイヤーに奪われる空洞化のリスクがある」と警鐘を鳴らした。

規制環境について河合氏は、「2017年に制定された暗号資産交換業の規制は、DeFiやノンカストディウォレットが普及する以前のものであり、現状にそぐわない」と指摘。「ノンカストディウォレットはアクセス的な位置づけにあり、交換業のような重い規制体系はミスマッチ」との見解を示した。

佐野氏は、現行の交換業規制について「非常に重構造となっており、ノンカストディ型のWeb3ウォレットサービスに適用するのは過剰である」との見解を示した。特に「管理下にある資産を持たないWeb3ウォレットサービスに、交換業と同等の規制を課すのはコスト面でも大きな負担となる」と説明した。

規制改革の方向性とDeFiアクセス

規制改革の方向性として、河合氏は「仲介専用ライセンス」の導入を挙げた。これにより、ノンカストディウォレットのサービスプロバイダーが暗号資産交換業者とAPI連携しつつも、交換業のフルライセンスを取得せずにサービス提供できるようになるという。

DeFiへのアクセスについては、「従来の中央集権的な管理者を前提とした規制モデルをそのまま適用することは困難」と河合氏は分析。「DeFiとセントラル取引所が共存する市場のためには、プロトコル設計や安全性の確保など、テクノロジーに基づく新しい規制アプローチが必要」と提言した。

田村教授は経済法の観点から、「Web3・ブロックチェーン市場は2021年の0.1兆円から2027年には20倍の2.4兆円へと成長が見込まれる」とした上で、「最低限の規制でイノベーションを促進する必要がある」と強調。「プラットフォーム規制や取引透明化法のような共同規制の枠組みを参考に、イノベーションを促進する環境整備が重要」と述べた。

渕川准教授は、「世界的にもWeb3規制の成功事例はまだ少ない。日本はセキュリティトークンの規制を世界に先駆けて整備したが、Web3の世界を広げていくためには、関係当事者を巻き込みながら新たな規制体系を議論していく必要がある」と指摘した。

田村教授はまとめとして、「世界のビジネスが既存規制の修正ではなく、新しい発想の中で競争している現状では、日本も世界を見据えた新しいルール作りが必要」と締めくくった。同報告書は3月中の完成を目指している。

まとめ

本討論会では、Web3技術の進展に日本の規制体系が追いついていない現状が明らかになった。「仲介専用ライセンス」の導入やテクノロジーベースの新たな規制アプローチは、国内事業者の競争力確保と利用者保護の両立に寄与するだろう。国際競争の中で日本が取り残されないためにも、田村教授が述べた「世界を見据えた新しいルール作り」の実現が急務である。

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