
2025年4月、香港で開催された「Web3 Festival」では、Web3交換所やウォレットプロバイダー、チェーン開発者といったグローバルスケールで戦う企業のリーダーたちが集結した。
取材に応じたのは以下の通り。
スティーブン氏(Steven)ーーHotcoin COO(最高執行責任者)
ポール・レイ氏(Paul Lei)ーーNERO Chain Co-Founder(共同創業者)
ヴェロニカ氏(Veronica Wong)ーーSafePal CEO(最高経営責任者)
CoinPostは、同イベントで3名に取材を行い、いくつかのテーマについて深い議論を試みた。Hotcoinは取引所運営、SafePalはウォレット分野、NERO Chainはチェーン開発と、それぞれ異なる立場から現在と未来を語った。
市場変動と生存戦略
Web3業界は急速に変化しており、特に最近の国際情勢によって、急激なインパクトも一段と増している。その波の中、企業はどのようにこの変革に対応していくのか──これは業界にとって不可避の課題だ。
SafePalのCEO・ヴェロニカ氏は「今後Web3で生き残るには、単なるトークン発行や投機ではなく、『誰かが対価を払うに値する実用的なサービスや製品』を生み出せるかどうかが問われる時代になる」と話した。
ヴェロニカ氏は、業界が徐々に成熟しつつあり、過去のような短期的な投機やスキャム的プロジェクトは淘汰されつつあると指摘した。実用性がより重視される傾向が鮮明になっている。
NERO Chainの共同創業者・ポール氏も、RWA(現実資産のトークン化)が特に重要になると強調する。「仮想通貨は単なるトークン発行や取引所での投機ではなく、実社会での利便性あるアプリケーションに活用すべきだ」と語った。
HotcoinのCOO・スティーブン氏は、特に「Tier 2、Tier 3」(大手に次ぐ規模)の取引所にとって新規ユーザー獲得の難しさが増している現状を指摘。「競争優位性を確立するためには、柔軟で迅速な対応が不可欠だ」と述べ、環境変化への素早い適応力の重要性を訴えた。
また、Hotcoinはスポット取引や先物取引に加え、アプリ内に独自のライブ配信機能を搭載。エンターテイメント性とユーザー参加型UX(ユーザーエクスペリエンス)を融合させた差別化戦略についても説明した。
規制時代のイノベーション
「イノベーション」はWeb3産業の重要なキーワードだが、規制が強化されつつある現在、その推進に懸念も広がっている。
SafePalのヴェロニカ氏は、「Web3におけるイノベーションは、ユーザーのニーズに根ざしており、適切で明確な規制はむしろそれを支える役割を果たし得る」と語った。
また、「規制は、水が隙間を満たすようにユーザーのニーズを補完し、結果的にイノベーションを促進する力となる」とも述べており、規制と革新の共存可能性に期待を寄せた。
Hotcoinのスティーブン氏も、「規制強化は業界全体の信頼性向上につながるが、イノベーションの柔軟性を維持することが不可欠だ」と語った。
規制の枠組みの中でも革新的なサービスを提供し続けるには、規制当局と協力しながら最適な解決策を模索する姿勢が必要だとした。
また、スティーブン氏は「規制措置の施行によって、コンセプト先行型のアプリケーションは市場からの関心を失う可能性がある」と指摘する。
一方で、現実の課題を解決できるイノベーションが今後ますます高く評価されるだろうと見ている。「例えば、RWA(現実資産のトークン化)やIP権利保護といった領域がその例だ」と述べた。
NERO Chainのポール氏も、「規制強化は避けられないが、それに適応しながら革新を続けることこそが、企業の長期的な競争力を左右する」と語り、「規制を恐れるのではなく、社会全体に利便性をもたらす技術革新に注力すべきだ」と強調した。
ローカルからグローバルへ
Web3はボーダーレスな世界だと言われるが、実際の市場開拓においては、各地域の文化、規制、ユーザー特性への深い理解と適応が欠かせない。
スティーブン氏は、「市場環境や文化的背景は地域によって大きく異なるため、それぞれに応じた対応力が求められる」と述べた。
Hotcoinはアジア、ヨーロッパ、中東を中心に、現地パートナーとの連携を強化し、それぞれの市場に根付くローカル戦略を展開している。
特に日本市場においては、パートナーシップを通じたユーザーインターフェースのローカライズを進め、将来的には本格的なチーム体制の構築も視野に入れている。
ポール氏も、日本市場進出について「日本市場は独自の文化的背景があり、単なる翻訳や表面的な対応では不十分だ。
現地パートナーと信頼を築き、時間をかけて根を張る必要がある」と語る。NERO Chainは、拙速な拡大ではなく、地道な信頼構築を重視する姿勢を示している。
SafePalのヴェロニカ氏は、多言語対応やローカルチームの整備といったローカライズ戦略の重要性を強調し、「まずは現地のユーザーがアクセスしやすい製品環境を整えることが何よりも大切だ」と語った。
SafePalでは、製品のローカライズだけでなく、各国の規制やユーザー行動のリサーチを重ね、地域ごとの特性に応じたマーケティングと情報発信を強化している。
アジア市場でのプレゼンス拡大を視野に、各国でのプロモーション施策にも力を入れている。
さらに、各社が共通して重視しているのが、オフラインイベントを活用したユーザー接点の強化だ。
ポール氏は、「Web3の最新動向を知る上で、オフラインイベントは非常に有意義だ」と述べた。
一方で、「出展プロジェクトの選定においては、スポンサー金額だけでなく、そのプロジェクトがいかに社会に貢献できるかという観点も重視されるべきだ」と指摘。
スティーブン氏は、オフラインイベントについて「ブランド構築や市場認知を高める上で、Hotcoinにとって不可欠な役割を果たしている」と指摘。
また、「業界関係者とのネットワーキングや、将来的な人材確保にも大きく貢献している」と述べた。
まとめ
今回取材した3社はいずれも、実用性、規制対応、地域戦略を重視する姿勢を示した。Web3は多様な課題に直面しつつも、実需主導の展開と地域密着型の成長によって社会実装が進みつつある。その動きからは、次の成長フェーズへの確かな兆しが感じられる。