ETHなど暴落時のインフラリスク
イタリア中央銀行のエコノミスト、クラウディア・ビアンコッティ氏は、暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)に代表されるようなパーミッションレス・ブロックチェーンのトークン価格暴落が、決済インフラとしての安定性を脅かす可能性について論文を発表した。
なお、パーミッションレス・ブロックチェーンについては、誰でも取引の検証(バリデータ活動)に参加できるチェーンで、相互に独立した分散型のバリデータ(検証者)の集まりによって運営されているものと定義している。
また、ステーブルコインやトークン化株式、債権などの資産を交換することも前提とした。それらのインフラとしてのイーサリアムなどを考察する格好だ。
ビアンコッティ氏は、イーサリアムなど、パーミッションレス・ブロックチェーンのネイティブトークンの価格が大幅かつ継続的に下落すると、まずバリデータが撤退すると指摘した。
報酬の価値が運用コストを下回れば、バリデータが活動を停止すると述べる。これにより、取引の決済が遅延、あるいは完全に停止する恐れがあるとも続けた。
さらに、トークン価格が下がれば「経済的セキュリティ予算」も縮小し、悪意のある攻撃者がネットワークを支配して二重支払いなどの不正を行うコストが劇的に下がるとも指摘する。
攻撃者が成功するには、ステーキングされているすべてのETHの50%超を支配しなければならない。これが「経済的セキュリティ予算」、すなわちネットワークへの攻撃を成功させるために必要な最小投資額と呼ばれている。
ビアンコッティ氏は、トークン価格が暴落すれば、ネットワークを支配するためのこうした予算が大幅に下がることになり、一度支払ったトークンを取引履歴の改ざんによって取り消し、再び同じトークンを使用する「二重支払い」を行うことが可能になるとした。
仮にETH自体の価値がなくなっても、そのインフラ上で動いているステーブルコインやトークン化証券などは価値を維持している場合がある。しかし、インフラが攻撃されればこれらの資産も不正操作の標的となってしまう可能性があると論じた。
なお、イーサリアムに対する51%攻撃については、2024年2月時点で、コインメトリクスの研究者ルーカス・ヌッツィ氏が分析。ステークが一度に展開されるのを防ぐターンリミット(速度制限)のため、6か月かかり。そのコストは340億ドル(約5.4兆円)以上になるだろうとの見解を述べていた。
この際のイーサリアムの価格は約2,800ドルだった。現時点では約3,300ドルである。
一方で、一部の有識者によれば、トークン価格の下落でバリデータが減少しても、プロトコル上の報酬率が自動的に上昇して参加インセンティブを高めるため、ネットワークが即座に停止する事態は考えにくい。攻撃コストについては、価格下落後も依然として数兆円規模の資産と数ヶ月の準備期間を要する設計となっており、実質的なセキュリティ耐性は極めて強固に維持されるという。
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規制当局の選択肢とは
ビアンコッティ氏は、以上のようなリスクを指摘した上で、政策提言を行った。規制当局には、大きく分けて2つの選択肢があるとしている。
一つは、監督下の金融機関が導入するには、ネイティブトークンの価格に依存するようなパブリック・ブロックチェーンの採用は不適切だと判断することだ。
もう一つは、リスク軽減策を講じつつ、パブリック・ブロックチェーンの導入を許可することだ。これはイノベーションにとってより有利だが、大きな課題を伴うと述べる。
その上で、おそらく最善策はステーブルコインなど担保資産の発行者に義務を課すことだと意見した。例えば、バーゼル銀行監督委員会が提案するような、事業継続計画の導入を挙げた。
資産所有権のオフチェーンデータベースを維持し、障害発生時に資産を移行するための代替チェーンが事前に選択されるという内容だ。また、経済的安全保障予算の観点で、一定の要件を満たさないパブリック・ブロックチェーンの採用禁止などの措置も考えられるとした。
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