- 相次ぐ中央銀行発行のデジタル通貨に対する見解が公表
- カナダ銀行、シンガポール金融庁(MAS)、イングランド中央銀行(BoE)が、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)を推奨する報告書を発表。国際送金等、法定通貨が抱える課題の解決策としての中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)への注目が高まりつつある。
- 大口金融機関向け(W-CBDC)における3つのモデル
- 同報告書では、W-CBDC実現に向けた3つのモデルが提案されている。それぞれのモデルは、デジタル通貨の地理的な到達範囲や受容性に基づいた分類がなされたものになっている。
- 国際経済の活性化への期待感
- CBDCが、可用性の悪さや断片的な標準、複数の仲介業者を経由する必要性といった問題の克服に役立つと報告書内で言及。ただ、CBDC発行の可能性を考慮する必要性を認める一方で、リスク管理の重視性をも強調。
中央銀行発行のデジタル通貨への高まる注目
カナダ銀行、シンガポール金融庁(中央銀行)、イングランド中央銀行(BoE)は、国際送金が抱える問題解決に向けて実施可能なソリューションのひとつとして、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)を推奨する報告書 を発表した。
CBDCに関しては、先日開催されたシンガポール・フィンテック・フェスティバルで、国際通貨基金(IMF)のChristine Lagarde専務理事もキャッシュレス社会への移行を考慮し、中央銀行が発行するデジタル通貨の可能性を探求すべきとの見解を示している。
3カ国の中央銀行は報告書の中で、いずれも24時間利用・追跡が可能、匿名性の保護、カウンターパーティーの信用リスクを排除し、利用者の安全を向上するなど、様々なメリットがあると述べている。
将来的にCBDCが発行される場合、リテール(個人・小売)向け(CBDC)あるいは大口金融機関向け(W-CBDC)となる可能性が考えられる。
W-CBDC実現に向けた3つのモデル
同報告書では、地理的に到達範囲または受容性に基づき分類することで実施可能な3つのモデルの概要が挙げられている。
第1のモデルは通貨特有のもので、本国内でのみ送信及び交換が可能というものだ。現行中、或いは実施予定である、管轄区域全体における既存の支払い・決済システムやインフラの強化に基づいている。
このモデルでは、中央銀行が現地通貨によるW-CBDCウォレットを提供し、商業銀行は保有を希望する通貨を発行する国・地域の中央銀行とウォレットを開設する必要がある。
第2つ目のモデルは、国内の管轄区域以外でも送金・交換可能な通貨固有のW-CBDCを、カナダ銀行とMAS、BoEが提案する。
各中央銀行は複数のW-CBDCトークンをサポートする必要がある為、商業銀行は自国の中央銀行による複数のW-CBDCウォレットを保有することになる。
第3のモデルは複数の通貨によって裏付けされており、すべての参加管轄区域内で送金・交換が出来る単独のユニバーサルなW-CBDCである。
最も理想的なモデルという印象を受けるのだが、このモデルの欠点が以下の様に同報告書で指摘されている。
複数の法定通貨の集合による裏付けが必要となる為、このモデルのW-CBDCはボラティリティや潜在的な価格操作、および投機活動の対象となりやすい。
我々の分析によると、それに加えてW-CBDCを裏付けする法定通貨の集合に新たな法定通貨を追加することにおける複雑性が、採用ペースを妨げる可能性がある。
30兆ドル規模への成長が見込まれるリテール・企業間の国際決済
報告書は総体的に、現在国際送金の際に利用されているコルレス銀行チャネルを新たなものへ切り替えることが、可用性の悪さや断片的な標準、複数の仲介業者を経由する必要性といった問題の克服に役立つと言及している。
2016年には22兆ドルだったリテールおよび企業間の国際決済は、年間5.5%の速度で成長を続け、2020年には30兆ドルに達する見込みの様だ。
CBDCの採用により、送金・決済プロセスの簡潔化やスピードアップ、取引の透明化、コスト削減といったメリットが期待出来るのであれば、国際経済に多大なる恩恵をもたらすことは疑念の余地がないとされる。
しかし実現に向け、新たなガバナンスのフレームワークや法的規制の変化、金融政策に与える影響、金融機関および支払いシステム参加者の資格要件など、対処すべき課題は山積みだとも指摘されている。
IMFのLagarde専務理事もCBDC発行の可能性を考慮する必要性を認める一方、リスクを管理しながら利益を享受することの重視性を強調している。
パブリックの仮想通貨がCBDCの代替となる可能性については、「様々な面で通貨機能を満足させるには不完全」と批判的なスタンスをとっている。
共同プロジェクト「Project Jasper」と「Project Ubin」を進めているカナダ銀行とMASは新たにBoEを迎え、国際決済および通貨決済システムに取り組んでいる格好だ。
また、「Project Jasper」と「Project Ubin」を融合させ、分散台帳技術(DLT)を活用したより迅速で低コストな国際決済システムを実現させることが共同事業の目的である。
その他、中国やインド、スウェーデンなどの中央銀行も、CBDCに積極的な関心を示している模様だ。
中央銀行が法的に裏付けされたデジタル通貨の開発・導入に向け動き出したことは、既存の国際決済システムだけではなく、仮想通貨産業にも大きな影響を及ぼすものと予測されるだろう。
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