- 仮想通貨取引所の「板取引規制」に深刻な懸念
- 2020年上半期に施行予定とされる「改正金商法」に伴い、ビットコイン(BTC)など国内仮想通貨取引所のにおける板取引が全面規制される可能性が浮上。JCBAが緊急提言を提出した。
仮想通貨取引所の「板取引規制」に深刻な懸念
2020年上半期に施行予定とされる「改正金商法」に伴い、ビットコイン(BTC)など暗号資産デリバティブ取引における板取引が、今後規制される可能性が浮上した。
これに対し、国内最大手デリバティブ取引所「bitFlyer」の元CEOである加納氏らは、JCBAとして暗号資産ビジネスにかかわる事業者の立場から、この新たな市場の健全な成長のため、一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)を通じて提言を行った。(提言書)
「暗号資産デリバティブ取引」において、オーダーブック(写真のような板)での取引ができなくなりそうです
— 加納裕三 (Yuzo Kano) (@YuzoKano) September 6, 2019
そこで、私が副会長を務めているJCBAで「デリバティブ規制に関する提言書」を纏めました
取引の透明性確保のためオーダーブック方式が認められることを願いますhttps://t.co/DF16LvptDz pic.twitter.com/8SYQeI174f
証券会社が保有する「第一種金融商品取引業」の傘下でない仮想通貨取引所、あるいは(解釈次第で)証券会社傘下の取引所も含め、同法に規制されるFX(外国為替証拠金取引)と同様に、板取引が出来なくなる恐れが生じており、金融庁の「拡大解釈」ではないかと市場から問題視されている。
これに対し、仮想NISHI氏は、以下のような見解を述べている。
板取引は価格が乱高下しやすいクリプトには、価格発見機能として必ず必要
— 仮想NISHI (@Nishi8maru) September 10, 2019
現に海外の主要取引所全てが板取引だ
私は、板取引廃止を防ごうとするJCBA(仮想通貨ビジネス協会)の取り組みを支持します
仮想通貨取引所TAOTAOの荒川氏は、本件について寄せられた質問に対し、以下のように回答した。
仮に「板取引=市場開設行為」となってしまうと、現行の金商法上は、「第一種金融商品取引業」の登録では駄目で、「取引所」としての免許を取得しなければならなくなります。(金融商品取引法第2条第16項)仮に「公設」取引所(東証や大証、TFXなど)を想定すると、相応に取得のハードルは高いものと想像されます。
現在はJCBAや、仮想通貨交換業協会(JVCEA)を通じてこの論点に限らず、金融庁と協会や事業者間での対話がなされています。今後は、その議論がある程度方向性が見えたところで、金融庁から府令などについてのパブコメが出され、最終的に法律として施行されていくことになるのが通例です。また、改正金商法や資金決済法の施行時期は、来年4月とも6月とも言われていますが、まだこれも明らかにされていません。
ちなみに、JCBAで立ち上げられた「デリバティブ部会」の部会長は弊社取締役が務めています。今後も議論や提言はJCBAを通じてお知らせさせていただくことになると思います。ただ、こと本件に関しては先般より「板取引を検討している」旨のお知らせもさせていただいていますので、弊社としても最大の関心をはらって取り組んでいくつもりです。
これまで見た中で最も分かりやすい説明です。板取引継続可否については金商法は関係なく取引所免許が必要となる可能性が高い。この免許は東証はじめごくわずかな取引所しか取得しておらず難易度が高い。板取引の許可に向けて頑張ってほしいと思います。 https://t.co/rfjO8ia27O
— UKI (@blog_uki) September 10, 2019
JCBAには、暗号資産交換業者のみならず、銀行、金融商品取引業者、暗号資産に関連するビジネスに従事する事業者やビジネス参入を検討する事業者、法律事務所や会計士事務所など、合計115社(2019年9月6日時点)が会員として加入している。
提言書では、「板取引は、店頭デリバティブ(Over-the-counter derivatives:OTC取引)として整理されるべきであり、当該取引を行う場を提供することは、金融商品市場の開設行為には当たらないと解されるべき」だと強調。金商法の規制対象外であるとしている。
提言骨子
▶︎暗号資産デリバティブ取引におけるオーダーブックを用いた取引(価格優先・時間優先の原則に従って注文をマッチングさせる取引)は、店頭デリバティブ取引として整理されるべきであり、当該取引を行う場を提供することは、金融商品市場の開設行為には当たらないと解されるべきである。
▶︎暗号資産デリバティブ取引の履行として行われる暗号資産現物の交換取引(スワップ取引における元本交換、現渡の先物取引やオプション取引など)については、暗号資産交換業には該当しないと解されるべきである。但し、当該暗号資産現物を利用者のために金商業者が預かる場合には、係る行為は(暗号資産のカストディ業務として)暗号資産交換業に該当すると考えるべきである。
▶︎証拠金率(レバレッジ比率)に関しては、金融商品取引業等に関する内閣府令その他の関連法令において、特定の数字又は算定法を明記するのではなく、認定金融商品取引業協会の自主規制規則に具体的な定めを委ねるべきである。
翌年施行される改正金商法の影響
2019年5月31日、仮想通貨交換業者に対する規制強化などを盛り込んだ「資金決済法」と「金融商品取引法」の改正法が、国会で可決した。 改正金商法では、仮想通貨のデリバティブ取引が金融商品デリバティブ取引として定義されており、金融商品取引業のライセンスが必要となる。
同改正法が2020年6月までに施行される見通しであることを受け、日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)は、仮想通貨FX取引における証拠金倍率を4倍にする自主規制案を提出。bitFlyerは15倍から4倍にまで引き下げた。
仮想通貨特有のボラティリティの高さから、レバレッジ規制がかけられた格好だ。
JCBAは、改正金商法の問題点として、「オーダーブック方式によって暗号資産デリバティブ取引を行う場を提供する行為」が、原則禁止されている金融商品市場の開設行為にあたらないかを挙げている。(金商法第 80 条)。
また、「暗号資産デリバティブ取引において、オーダーブック方式での取引の場を金融商品市場と考えることには大きな弊害がある。」と指摘。公正な価格発見を制約する可能性があり、利用者保護の精神に逆行する恐れを指摘。「そのような場で、公正な価格形成がなさることは期待できない」とした。
金商法の法解釈について
金商法の法解釈については、提言書より重要箇所(反論の要旨)を抜粋してお伝えする。
オーダーブック方式によって暗号資産デリバティブ取引を行う場を提供する行為を金融市場の開設行為と考えることは、暗号資産デリバティブ取引における公正な価格発見機能を制約する可能性があり、業者と利用者との情報格差を拡大する可能性がある上に、我が国における暗号資産デリバティブ取引市場の健全な発展を阻害する可能性がある。
また、条文上も、当該行為が金融商品市場の開設行為と解釈されるものではなく、かかる解釈をすることは、却って従来の店頭デリバティブ取引の解釈と矛盾する可能性がある。よって、そのような解釈は実態的にも形式的にも妥当でないと考える。
デリバティブ取引は、一般に、レバレッジを利用した投機にも利用されるが、リスクヘッジ目的で用いられることも多い。
また、現物取引にデリバティブ取引が加わることで市場間相互に裁定が働くことにより流動性が向上し価格の安定が図られている。このデリバティブの機能は暗号資産デリバティブ取引にも同様に当てはまる。
従って、暗号資産の現物取引及びデリバティブ取引における利用者保護を図り健全な市場を育成するためには、過度な投機や不公正取引を抑制するとともに、リスクヘッジ目的の取引や市場の流動性向上のための取引を円滑に行うことができる環境を整えることが、金商法の理念に適う。
米国では、暗号資産現物を投資対象に組み入れる大学や年金が増加するなど、暗号資産はオールタナティブな金融資産として認知が進んでいる。また、金商法で暗号資産が金融商品に組み込まれ、金融規制の整備が進むことから、日本の金融機関や機関投資家の間で暗号資産現物及びデリバティブ取引が今後活発化する可能性が相当程度ある。
このような流れの中で、今後、暗号資産デリバティブ取引がリスクヘッジ目的で利用される場面が増えることやそれによる暗号資産現物取引及びデリバティブ取引の流動性向上が図られる可能性が相当程度ある。
当該取引が暗号資産交換業にも該当することとなると、これを扱うことのできる業者は、金商法上の兼業承認を得て金融商品取引業と暗号資産交換業の両方の登録を行う必要がある。仮にそうなると、当該取引への参入は難しくなり、少なくとも当面の間は市場の参加者が相当に限定されることになり得る。</p>
暗号資産現物取引のリスクヘッジとして行われるデリバティブ取引は、多くの場合、現物取引を伴う暗号資産デリバティブ取引であること、及び、市場間の裁定が働くは、主として現物取引を伴うデリバティブ取引であることに鑑みれば、暗号資産デリバティブ取引の履行に伴い行われる暗号資産現物の売買・交換を暗号資産交業として扱うことは、暗号資産デリバティブ取引のリスクヘッジ及び市場の流動性向上を阻害することになり、結果として利用者保護を損なう可能性が高い。
しかも、そのような意図がなくとも、より参入が容易な暗号資産デリバティブ取引における差金決済取引について現物を伴う取引よりも推奨することとなり、今回の法改正の趣旨に反した結果を招いてしまうおそれさえある。
仮にbitFlyerなど国内大手デリバティブ取引所で「板取引」が不可となった場合、有識者の方々も指摘するように、ボラティリティの高い特性を持つ仮想通貨市場における「価格発見機能」の喪失などから、市場透明性を著しく損ねかねない。
また、「販売所」形式の仮想通貨取引所は、初心者でも利便性が高いなどのメリットがある反面、スプレッド(購入価格と売却価格の差額)の都合上、個人投資家にとって不利な取引になりやすく、これを嫌気した”海外市場への資金流出”が加速することで、金融庁の掲げる「投資家保護の理念」と相反するおそれが高い。
レバレッジ規制にも苦言
またJCBAは、デリバティブ取引市場における「一律の証拠金率(レバレッジ比率)」についても、「暗号資産現物・デリバティブ取引市場は成長段階にあり、暗号資産のリスクの程度も市場の成長や時間の経過によって変化をしていくことが予想される。」「(このような)市場環境の変化に応じて柔軟にレバレッジ規制を調整する ために、各暗号資産の変動率の計算等に基づく証拠金率の算出及び、その定期的な見直しこそが各暗号資産に適用することが、利用者保護と健全な市場の育成に寄与する。」と苦言を呈し、外部環境の変化に応じた柔軟な規制を求めた。