存在感増すステーブルコイン
これまでテザー(USDT)に代表されるステーブルコインであったが、ここ数年はフェイスブックの主導する仮想通貨リブラの登場や、中央銀行デジタル通貨(CBDC)などの台頭で、仮想通貨(暗号資産)の中でも日々その存在感を増しつつある。
ステーブルコインとは、円やドルといった国の法定通貨など、実際のアセットに裏付けられた仮想通貨である。
例えば、米ドルであれば1ドル=1コインとして発行され、仮想通貨特有の激しいボラティリティやスケーラビティ問題が決済・送金分野での普及を阻害するなか、ステーブルコインにおける裏付け資産の価値の安定性、仮想通貨の利便性の双方を享受できるのがメリットだ。
ただし、テザー(USDT)を筆頭に、現状は米ドルのステーブルコインが市場の大半を占めている。
Cryptoslateによると、現在ステーブルコインに分類される仮想通貨を合わせると、時価総額にして80億ドルを超える規模になる。とりわけ、最も時価総額の多いステーブルコインのテザー(USDT)は、仮想通貨の時価総額ランキングで5位以内に入っている。
代表的なステーブルコイン
この他にも、時価総額の大きいものとしてPaxosやTrueUSDなどが存在する。最大手仮想通貨取引所のバイナンスやGemini、フォビでは、それぞれ独自にステーブルコインを発行している点も興味深い。
テザー(USDT)
テザー(USDT)は米テザー社が発行するステーブルコインだ。その発行額は、2020年5月時点で64億ドルとステーブルコインの中でも圧倒的なシェアを誇る。
大手取引所のOverbitが実施した調査では、比較的投資歴の長いトレーダーに人気のある仮想通貨の銘柄はBTC、ETHに続いてテザー(USDT)が3位にランクインするなど、下落局面で法定通貨に換金しなくても済むといった側面やUSDT建ての通貨ペアなど、その利便性から重宝されている現状が浮かび上がる。
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USD Coin
USD Coinは、米大手取引所のコインベースが提供するステーブルコインだ。時価総額ではステーブルコインの中でUSDTに次いで大きく、米Circle社が共同で開発を行っている。
DAI
DeFiプロジェクトMakerDAOの提供する仮想通貨で、OpenSeaなどブロックチェーンゲームにおけるデジタル資産の取引などでも使用されることがある。Daiは、ETHなどを担保として借りることができるステーブルコインで、1DAI=1米ドルとなるよう設計されている。
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Tether Gold
テザーゴールドはテザー社が発行する金を裏付けとしたステーブルコイン。新型コロナウイルスで市場急落が起きた際、安全資産として俄かに注目を集めた。
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ステーブルコインのメリット
前述の通り、ステーブルコインは、法定通貨の安定性と仮想通貨の利便性を両方備えている。
ビットコインなどは価格変動が激しさやトランザクション速度の遅さなどがボトルネックとなって日常的な決済への普及が進んでいない現状があり、比較的安定した価値を持つステーブルコインが、仮想通貨の決済利用の普及に貢献すると考えられている。
また、ステーブルコインは法定通貨とは違い、24時間365日取引されているという特徴がある。例えば、FX(外国為替証拠金取引)においてステーブルコイン間の取引ペアを用意すれば、常に取引が可能なサービスを提供することも可能だ。
バイナンスのCEOであるCZ氏はバーチャル・ブロックチェーン・ウィークに登壇し、ステーブルコインがこれまでの商習慣に溶け込みやすいとして、ステーブルコインの小売り業者への普及を可能性に挙げた。
CZ氏は、法定通貨建てのトークンは仮想通貨を持ちたいと思いつつも、未だに支払いは法定通貨で行われる必要がある個人や業者にとっての”譲歩案”になるとしている。
現状と、規制環境について
現在のところ、テザーなどのステーブルコインは、仮想通貨取引所における資金の保有手段、あるいはレンディングサービス利用のための保有などが主な利用用途となっている。
つまり、価値が安定しているという以外のメリットはあまり活用されていないのが現状と思われる。
一方で、金融安定理事会(FSB)は14日、米フェイスブックが主導する仮想通貨(暗号資産)リブラのように世界的な利用が想定されるグローバルステーブルコインについての勧告を発表した。
その仕組みや機能等について、利用者や関係者に包括的で透明性のある情報を提供することなどが示され、最終的な勧告は今年10月に発表される予定となっている。
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ステーブルコインは、世界の基軸通貨である米ドル建てが大半を占めており、Stasis Euro(EURS)など、ユーロなどに裏付けられたものも存在するが、発行額や種類においてその存在感は限定的だ。
米ドル以外のステーブルコインを多く提供している取引所の一つがバイナンスだ。4月16日にはインドネシアの法定通貨、ルピアのステーブルコインを上場させるなど積極的に取り扱い通貨を増やしている。
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リブラやCBDC登場が起こすパラダイムシフト
現在最も普及するテザーの代替手段、あるいは競合となり得るとされるのが、フェイスブック主導の仮想通貨リブラや中央銀行の発行するデジタル通貨CBDCとの指摘も少なくない。
「金融包摂」を掲げるリブラは、フェイスブックなどが参加するリブラ協会によって開発される仮想通貨だ。金融包摂は「ファイナンシャル・インクルージョン」とも呼ばれ、貧困者や中小事業者など、これまで「信用、貯蓄、保険、決済、送金」などの基本的な金融サービスにアクセスすることが難しかった人々に対し、手頃なコストで金融サービスへのアクセス利用できるようにする取り組みを指す。
リブラは当初の計画では、複数の法定通貨などを裏付け資産とした仮想通貨だった。
しかし、紆余曲折を経て計画が変更され、リブラUSDやユーロUSDといった単一の法定通貨を裏付けとした通貨プランを示したことで、ステーブルコインのより直接的な競合となる可能性が出てきた。
なお、複数の資産を裏付けとする「バスケット型」も将来的に発行する余地を残している。
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中国がCBDC開発でリード
CBDCはその名の通り、中央銀行が発行するデジタル通貨だ。中でも中国はCBDCの開発を積極的に進め、既に国内の主要都市で試験を行っており、実用レベルにおける最初のCBDC発行国となる可能性が高まっている。
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また、国際決済銀行(BIS)の調査によって、発展途上国でのCBDC発行への意欲が高いことが明らかになっている。
発展途上国では先進国に比べ金融インフラで劣っているのが現状だが、同様のレベルのシステム構築には莫大な費用がかかる。
新しい技術の採用というリスクはあるもの、CBDCの発行は途上国にとって先進国との差を一気に埋め、金融包摂を推進できる可能性があるため、途上国の方が意欲が高いという結果になっている。
これらの競合は将来的にステーブルコインの勢力図を大きく変えていくと思われ、その場合、フェイスブックに関しては自社のSNSサービスの顧客基盤、中央銀行に関してはその信用力などが、競争力、シェア獲得の源となると考えられる。
また、当初のリブラがバスケット型を採用し、各国の法定通貨やCBDCとは相補的な関係になることが予想されていたが、単一通貨を担保とする計画へと変更されたことで、この両者間でも直接的な競合関係が成立しうる。
この懸念に対し、リブラの修正計画案では、中央銀行がデジタル通貨を発行した場合、それらのCBDCが直接リブラネットワークに統合されることを望むとの記載がある。
例として中央銀行がデジタル通貨を発行した場合、リブラ協会は該当する単一通貨ステーブルコイン(リブラUSDなど)をそのCBDCと置き換えることができる。
すなわち、リブラ協会はCBDCが発行された場合に国家と競合するものではなく、CBDCをサポートする側に回るという協調姿勢を示している。規制に全面的に従う方針が示されたことで、当初の革新的な思想が失われたと失望の声もあるが、一方で現実主義に転換したリブラローンチに対する現実味は増してたといえるだろう。
ステーブルコインの多様化
ステーブルコインというカテゴリは、これまでのテザーの独り勝ち状態から概ね変化のない状態が続いてきたが、CBDCやリブラの登場により大きく勢力図が塗り変わる可能性も生じている。
投機的な観点からは注目度の低いステーブルコインだが、仮想通貨の利便性を本当の意味で世に広める役目を追っているのは、ステーブルコインかもしれない。