仮想通貨は米国の国際覇権を脅かす「ブラックスワン」か
米国国家情報長官室(ODNI)は現在、米国出身の経済学博士号取得者を研究員として募集している。その調査内容は、「米ドルが世界の準備通貨としての地位を失ったとき何が起こり得るか」だ。
ODNIによると、この研究は世界の準備通貨としての米ドルの地位を脅かす「ブラックスワン」に備えるためのものだという。「ブラックスワン」とは、過去の経験則や理論では予測できないが、人々に多大な影響を及ぼすようなイベントを意味する。例えば、1987年10月19日、ニューヨーク株式市場で一晩にしてダウ平均株価が20%以上暴落したブラックマンデー、最近では、2008年のリーマンショック、2016年のトランプ大統領当選などが挙げられる。
注目に値するのは、ODNIは米国の国際覇権を脅かすブラックスワンとして、中国やインドの台頭を含む複数のシナリオとともに「仮想通貨市場の熱狂」も明示していることだ。具体的な調査内容の例として、グローバルな仮想通貨やCBDCが米国の経済にどのように影響し得るかといった仮説が挙げられている。
この研究プログラムは2020年10月から2年間を行われる。プログラムの応募期限は2019年2月まで。
米ドル:準備通貨としての特権
最近では、仮想通貨による新たな準備通貨の構想が度々提唱されている。また、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁が2019年8月、複数の法定通貨を組み合わせたバスケットに裏付けられた中央銀行デジタル通貨(CBDC)、いわゆるリブラのような合成基軸通貨の可能性を示唆した。
米国がこのような仮想通貨・デジタル通貨の台頭を強く警戒するのは、準備通貨としての米ドルは米国の強力な政治・経済力を担保しているからだ。
現在では国際貿易の多くが米ドルを介して行われるため、貿易によって米ドルを得た各国の経済主体は米国に資金を再投(循環)する。結果として、米国に資金が還流し、米国政府は国債発行によって税収を上回る資金を容易に調達することができる。
さらに各国通貨と米ドルとの両替を制限することで、その国の貿易にも制裁を加えることができる。このような経済制裁の手段をもっているため、米国には強力なインフルエンスがあると認識されている。
さらに、中国などのCBDCの台頭に対応するため、米連保準備理事会(FRB)は最近デジタル米ドルの開発を検討している。今回の調査プロググラムからも、米国政府が『仮想通貨』への対策を模索している事情がうかがえる。
参考:ODNI