仮想通貨のプライバシーも侵害されるか
米国の連邦議会で暗号化データへのアクセス支援を企業に義務づける暗号解読関連法案が審議される中、仮想通貨のひとつの特徴でもある「プライバシー」にも影響が及ぶ可能性が指摘されている。
現任司法長官も「ビットコインを含む仮想通貨は対応できない」と懸念を表明している。
暗号解読関連法案(総称)は、大規模な暗号化技術対策に関わる法案(現時点で草案)で、複数の共和党議員が共同で提出した。「暗号」の分野を中心とする法的動きは世界においても前例が少なく、連邦議会における議論とその結果は今後G20やFATFの加盟国に置いて重要な一例として注目されている。
暗号解読関連法案には、暗号化されたデータへの合法的アクセスに関わるLAED法案やテック企業が一定のデータ・情報開示の水準を満たす必要があるEARN IT法案がある。目的は、テック企業に対して暗号化された情報への「合法的アクセス」の要請に応じることを強制させる権限で、主に犯罪捜査に関わる暗号化技術の対策に利用される。
法案の成立後は、政府機関(FBI等)が捜査令状に準拠して暗号化データにアクセスする必要があると判断、要請したケースで、テック企業の捜査協力が義務づけられる。これまでのように、アクセスの要請を拒否することは不可能になるのがポイントだ。
このように政府機関が暗号化されたデータにアクセスすることは、「暗号化のバックドア」と呼ばれ、プライバシー擁護派やテクノロジーの専門家、シリコンバレーの一部のテック企業が以前から法案が有用性以上に人々のデータや安全を危険にさらすリスクが高いと指摘する。
仮想通貨は準拠できない?
「暗号解読バックドア」の関連法案は、既存の多くのIT企業だけでなく、成長中の仮想通貨業界にも波及すると懸念されている。
プライバシーの強化を特徴とする仮想通貨プロジェクトZcoinの責任者Reuben YapはLAED法などに対し、仮に一連の法案が成立すれば、政府がブロックチェーンにおけるコミュニケーションも監視することができるようになり、いわゆる「監視社会」に発展していく恐れがあると警戒する。「仮想通貨はともかく、国民の自由すら奪われてしまう」と懸念を露にした。
現任司法長官のWilliam BarrもLAED法が提出された日に、とあるイベントで仮想通貨に関連するコンプライアンスについて以下のように言及している。
現在、ビットコイン、イーサリアムやその他の仮想通貨がバックドアのコンプライアンスに準拠する方法がない。
注目すべきは、Barr司法長官が以前から暗号化技術を非難してきた点。仮想通貨の基盤となるブロックチェーンに暗号解読バックドアを設けることは困難であるが、それらの技術を利用しサービスを提供する企業やプロダクトは法案の適用対象となり得ると指摘する。
現在、一部の法案はすでに複数回の審議で暗号化されたデータを部分的に保護する文面へと修正されているが、プライバシー推進団体のElectronic Frontier FoundationやCenter for Democracy and Technology and Internet Societyは暗号化技術に関する保護の条項は名ばかりだと非難 している。
政府はバックドア法案をもって麻薬犯罪や児童虐待、テロ活動などの犯罪を取り締まることを目的とするが、ある場合では暗号化技術は多くの人をハッカーや暴政から守ってきた事例もあり、専門家の見解も二分されている状況だ。