はじめての仮想通貨
TOP 新着一覧 チャート 学習-運用 WebX
CoinPostで今最も読まれています

サトシの理念は今も受け継がれているのか? 金融庁長官 氷見野良三氏のスピーチ全文

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

氷見野良三金融庁長官のスピーチ

日本経済新聞社と金融庁主催のブロックチェーンサミット「Blockchain Global Governance Conference 、FIN/SUM Blockchain & Business (フィンサム)」のブロックチェーン・グローバルガバナンス会議(8月24日〜25日)の閉会の挨拶で、新たに金融庁の長官に就任した氷見野良三氏が登壇し、ビットコインの産み親である「サトシ・ナカモト」の理念の意義について見解を披露した。

氷見野氏は7月に金融庁の新長官として就任。2015年より3年間バーゼル銀行監督委員会事務局長や、日本人初の金融安定理事会(FSB)の常設委員会議長などを務めた経験がある。

仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーン等新興技術に熱心な姿勢を取り、2019年9月に開催された仮想通貨に関する監督ラウンドテーブルで、リブラ台頭による金融への影響をトピックとして取り上げている。

本稿では、今回のスピーチを業界の重要な出来事として捉え、氷見野氏のスピーチ内容の全文(英語→日本語)を掲載する。08年リーマンショックから、ビットコインの誕生、そして現在の新型コロナによる経済・社会的影響についてサトシが考案した信頼構築の取り組みが今もなお重要な意味をなしているという。

スピーチ内容:信頼の構成概念が急速に変化

2008年10月、世界の金融システムは、大暴落の危機に瀕していた。長年にわたり実績を積み重ねてきた金融システムは、その信頼を失いつつあった。G7の金融大臣と中央銀行総裁は、ワシントンDCで会合を開き、最初のアクションプランは救済措置に関する話題、つまり「システム的に重要な、金融機関を支援するためのツールと予防策のために、断固とした行動を取り、利用可能な全ての手段を使う」というテーマで協議した。

この信頼の危機の中で、サトシ・ナカモトは、ビットコインに関する技術的な論文を公開した。サトシ・ナカモトは論文の中で、経済の中核インフラである決済システムが、信頼できるサードパーティを介在せず、P2P(ピア・ツー・ピア)で構築できることを記述した。匿名の人間から受け取ったビットコインが、信頼できて、かつ真正であることを担保するのに、造幣局、銀行、規制当局、中央銀行、金融大臣、警察官、検察、裁判所、軍も必要としなかった。この提案は、プルーフ・オブ・ワーク、タイムスタンプ、ビザンチン断層などの使用概念は、私たちがこれまで慣れ親しんできたシステムの本質について、深く考えることを助けてくれた。

あれから十数年が経ち、今日、私たちは信頼という根本的な問題をもう一度深く考える必要に迫られているのかもしれない。信頼という社会の重要な構成要素には、いくつかの核となる構成要素があり、その中のいくつかは急速に変化している。

例えば、信頼の重要な構成要素の一つとして、対面での会議がある。対面式の会議は相手についての豊富な情報を提供してくれるし、私たちは動物的な本能と直感でそのような情報を解釈することにある程度の信頼を置いている。しかし、COVID-19(新型コロナウィルス)では、G20に参加している閣僚や政治家との会合から夜の軽い飲み会まで、多くの対面でのコミュニケーションをオンラインへ置き換わりつつある。自分の目で直接見たものを信頼するというモデルは、コロナ後の時代には多少の補足が必要かもしれない。

もう一つの信頼の土台となっているのは、情報のゲートキーパーとして働く、評判が高く、十分な訓練を受けたプロの編集者の存在だ。たとえば、ブリタニカ百科事典の編集者は、掲載するエントリごとに有識者を選ぶ。読者は百科事典に書かれている内容を信頼するだけでよく、検証する時間を必要としない。しかし今日、私たちはまずウィキペディアで匿名の著者によるエントリを読み、次に引用された出典や証拠を見る。私たちは必ずしも信頼するのではなく、検証をするのだが、一般的に検証にかかるコストが低くなってきているので、検証することを選ぶわけだ。

古き良き時代には、新聞の編集者が社会に流布される情報を大きくコントロールしていた。現在では、多くの人がSNSで見つけた、自身が気に入ったエントリだけを見ている。私たちは、自分が信頼したいから、というシンプルな理由でものを信頼することすらある。

政府もまた、信頼できるかどうかを検討する重要な要素だ。私が私であることを証明するために、パスポートや運転免許証を提示する。もし取引先が契約に違反して私のことを裏切った場合は、裁判所を経由して取引先に対し、政府から取引先に対して義務を果たすように通達するように求めることもできる。

しかし、分断と地政学的リスクが増大している今日の世界では、政府の一挙手一投足によって信頼の源が失われないよう、政府に基づく信頼に代わるオルタナティブ手段を残しておきたい、と考える人もいるだろう。さらに、場所に関係なく経済活動ができるようになりつつあることもあり、政府による執行の効力が薄くなりつつある可能性がある。

サトシの理念の意義は今にある

このように、従来の信頼の構成要素だけでは、これまで同様に機能するとは限らなくなりつつある。では、どのようにして信頼を構築していけばいいのだろうか。私が思いつく代替案や補完案としては、ピアレビュー、透明性、改ざん防止のためのタイムスタンプ付き記録、効率的な検証プロセスなどだ。これらがより大きな役割を果たすことになれば、世界は確かにサトシが思い描いたような方向に進むかもしれない。

サトシは、自身が提案したネットワークから信頼の要素を排除したわけではない。信頼できる第三者を、信頼できるノードのコミュニティに置き換えたのだ。マイニングを行うノードが、ネットワークを攻撃するために連携しないであろうと私たちが仮定している、という意味で私たちはコミュニティを信頼している。プルーフ・オブ・ワークのもとで活動しているノードは、あえてビットコインの価値を毀損するインセンティブがないと考えている。

ビットコインに対する信頼は、マイナーが費やした大規模な電力とマイクロチップに依存するようになってきた。それは、受け入れがたいほど資源の無駄遣いなのだろうか。そうかもしれないが、ブロックチェーンに限らず、ある種の「行動の証明(プルーフ・オブ・ワーク)」は私たちの身の回りにもある、と主張したい。行動の証明とは、真面目な人にしかできないと他人に思わせるほどのコストのかかるプロセスであり、そのようなコストを払うことが邪な意図によるものではない、と多くの人が受け入れるもの、と簡単に定義しよう。我が国のGDPの大部分が、このような行動の証明に費やされていると過言ではない。

また、顔に細かい彫刻が施された何トンもの紙幣、高級ビルの中にあるデザインに特徴あるオフィスで仕立ての良いスーツを着たビジネスマン、訪問する度に披露される美しくデザインされたプレゼンテーションスライド、洗練されたレストランでの接待、広告に登場する映画俳優、おしゃれな表紙が特徴的な書籍、あるいはカサノバが恋人に手渡すバラの束、有名な大聖堂での結婚の儀式などを頭に思い浮かべてください。

それらは、紙幣やビジネスでの提案書、広告に掲載される商品、本、恋愛、結婚などの本質的な価値とは一切関係がない。何兆トンものCO2が排出され、それに見合った金額が使われているのは、信頼や真面目さを印象づけるという目的のためだけだ。したがって、私たちの社会における信頼を生み出すためのプルーフ・オブ・ワークの役割を見直し、それをどのようにリエンジニアリングできるかを考えることは、私たちの社会的交際の効率性と有効性を向上させる大きな可能性を秘めている。

ブロックチェーンの設計課題と向き合うためには、信頼とガバナンスを構成する構成要素について深く考える必要がある。深く考えることができれば、その結果として得られる概念やツールは、社会全体の連携の幅を広げることにもつながるのではないか。

12年前にサトシが始めたイノベーションと探求のプロセスは、私たちの社会構造を深く考え、根本的な原因を探り、変革のための根本的な手段を模索するという、まさにラディカルな活動だった。

その努力は、コロナの時代にこそ必要とされているのではないだろうか。フェイクニュース、ハイパーグローバリゼーション、分断など、表面的な解決策だけでは解決し得ない問題にも通用する営みであると言えるだろう。

CoinPost App DL
厳選・注目記事
注目・速報 市況・解説 動画解説 新着一覧
05:50
ストラテジーのセイラー会長、6900億円相当のビットコイン売却の噂を否定
ストラテジーのマイケル・セイラー会長が47000BTCの売却憶測を否定した。オンチェーン上の動きは保管業者の入れ替えによるもので、実際に購入ペースを加速させていると説明。
11/14 金曜日
21:20
CourtYard(コートヤード)でトレカをNFT化|使い方を初心者向けに徹底解説
トレーディングカードをNFT化して取引できるCourtYard(コートヤード)の使い方を解説。アカウント開設からPolygon上での取引方法、ガス代準備、リスクまで初心者向けに図解で詳しく紹介します。
21:00
ビットコインウォレットのおすすめは?種類・選び方・アドレス作成手順まで解説
ビットコインウォレットの種類や違い、安全な選び方を徹底解説。ハードウェア・ソフトウェアの比較からアドレス作成、セキュリティ対策まで初心者にもわかりやすく紹介します。
17:19
米ビットコイン現物ETF、過去2番目の規模の純流出 リスクオフが加速
11月13日、ビットコイン現物ETFは8.7億ドル(約1,340億円)の純流出を記録し、過去2番目の規模に。イーサリアムETFも3日連続で流出。FRB当局者の慎重発言を受け、仮想通貨と米国株が同時に下落。専門家は健全な調整との見方も。
16:46
Aptos Labs CBOが語る日本戦略|独占インタビュー
Aptos Labs CBO Solomon Tesfaye氏独占インタビュー。日本の大手金融機関との協議、ステーブルコインUSD1の展開、グローバル戦略を語る。
16:32
ビットコインのみ投資へ 欧州初のルクセンブルク国家ファンドがETF経由で1%配分
ルクセンブルク財務相が、国家ファンドFSILが他の仮想通貨ではなくビットコインのみに1%配分したことを明言。欧州初の国家レベルでのビットコイン投資となる。
15:06
ヴィタリック、分散化の原則を強化する「トラストレス宣言」を発表 中央集権化に警鐘
イーサリアム共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏らが「トラストレス宣言」を発表。検証可能性や検閲耐性など6つの核心要件を定義し、利便性優先による中央集権化リスクに警鐘を鳴らした。トラストレスこそがイーサリアムの本質であり、信頼できる中立性を達成する唯一の方法だと強調している。
15:06
JPYC、米サークル社オンチェーンFX網のパートナー通貨に採択
JPYCが米CircleのオンチェーンFX網「StableFX」で日本円パートナーに採択。USDCとの即時交換に対応し、国際送金・決済インフラで円建てステーブルコインの役割が拡大する見通し。
13:35
日本円ステーブルコインJPYC、発行額2億円突破
JPYC株式会社は、日本円建ステーブルコイン「JPYC」の累計発行額が2億円を突破したと発表。正式発行から約18日間での達成。保有者数は約3.1万人に達し、JPYC EXの口座開設数も6,000件に到達した。
11:57
「ビットコイン、株高に反応鈍く下落時は増幅」Wintermuteが非対称性を指摘
Wintermuteの最新レポートによると、ビットコインはナスダック指数と0.8の高相関を維持するも、株高局面で反応が鈍く下落時のみ敏感に連動。この負のスキューは2022年以来最高水準で、通常は市場底値圏で見られるパターン。資金の株式市場シフトと流動性低下が背景に。
11:49
大手銀BNYメロン、ステーブルコイン準備金のためのMMFを立ち上げ
大手銀BNYメロンがステーブルコイン発行者向けのマネー・マーケット・ファンド「BSRXX」立ち上げを発表。ジーニアス法対応の準備金ファンドとなる。
11:04
21シェアーズ、仮想通貨指数ETF2本を米国上場 投資会社法適用は米国初
21シェアーズが投資会社法(1940年法)準拠の仮想通貨インデックスETF2本を米国で上場。TTOPとTXBCは、ビットコイン、イーサリアム、ソラナなど主要デジタル資産への分散投資を提供。機関投資家向け「ゴールドスタンダード」のETF構造を採用。
10:33
ビットコインが今月3度目の10万ドル割れ、フラッシュクラッシュ後の資金戻り鈍化
ビットコインは今月3度目となる10万ドル割れを記録し、低調な値動きが続いた。背景には、FRBが利下げに慎重な姿勢を示していることに加え、東証などを運営する日本取引所グループ(JPX)が仮想通貨トレジャリー企業に対して規制を示唆する報道が流れ、市場心理を冷え込ませたことが挙げられる。
09:54
グレースケールのIPO登録書類が公開 トランプ政権下で上場申請続く
仮想通貨資産運用企業グレースケールは、IPO登録届出書を米SECに提出。市場が構築されれば株式のトークン化も検討していく意向を示した。
09:32
米国でXRP現物ETF上場、初日取引高は90億円を記録
カナリー・キャピタルの仮想通貨XRP現物ETFが米国で上場。初日取引高90億円を記録した。2025年に上場したETF中でトップの数字となった。政府機関再開でさらなる承認も期待される。
通貨データ
グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
重要指標
一覧
新着指標
一覧