ブロックチェーンを利用した秘密通信
ビットコインとイーサリアムのパブリックブロックチェーンを秘密通信に使用する方法を検証する複数の学術論文が、相次いで発表された。
オーストラリアのサイバーセキュリティ研究・イノベーションセンターは、ビットコインのブロックチェーンに焦点を当て、ブロックチェーンベースのボットネット(インターネット上のパソコンを自由に操作するマルウェア)を構築する方法を、ステップごとに検証した。
電子工学技術者最大の業界団体であるIEEEの出版物「Internet of Thigs Journal」に発表された論文では、ビットコインブロックチェーンが秘密通信のチャンネルとして普及していると言及し、データ埋め込み方式の設計として、「発見されにくい」ハッシュチェーンベースの秘密データ埋め込み(HC-CDE)スキームを提案している。
さらに、中国の黒竜江省及び江蘇省の助成金で支援された研究では、揚州大学や南京大学の研究者らが、イーサリアムの通信プロトコルであるWhisperのフィールドを使用した秘密通信方式を提案した。
秘密通信の実例
ビットコイン・ブロックチェーンには、簡単なメッセージを埋め込む機能がある。ビットコインのジェネシスブロック(最初にマイニングされたブロック)に、2009年1月3日の英Times紙の見出しが、既存の金融システムに対する教訓的なメッセージとして刻み込まれたことは、周知の通りだ。
その後、今年5月に、三度目となるビットコイン半減期を記念して、マイニングプールのF2Poolが、米FRBによる2兆ドル超の救済策に関するニューヨークタイムズの見出しを、「新時代のメッセージ」として刻み込んだ。
しかし、これらは公のメッセージであり、秘密通信として暗号化されているわけではない。
ビットコイン・ブロックチェーンが秘密通信手段として利用された最初の例は、今年6月、英サイバーセキュリティ企業Sophosの研究者グループにより報告された。
Sophos社は、犯罪者は、256ビットのAES復号鍵を必要とする暗号化された秘密のメッセージを送受信していたと指摘した。マルウェア「Glupteba」が使用されていたという。
誰でもがアクセスできるビットコインブロックチェーン上の情報は、犯罪者にとっても格好のコミュニケーション手段となり得るのかもしれない。Sophosの研究者は次のように説明している。
ビットコインの『トランザクション』は、お金に関するものである必要はない。トランザクションのRETURN(OP_RETURNとしても知られている)と呼ばれるフィールドを含むことが可能で、実質、最大80文字をコメントできる。
秘密通信の概念実証
ブロックチェーンを利用した秘密通信に関しては、すでに2018年、フィンランドのOulu大学の研究者であるJuha Partala氏が、「ブロックチェーン上での証明可能な、安全な秘密通信」と題した概念実証を発表している。
「安全な秘密通信は、秘密通信が行われているという事実を隠すことで、送信者と受信者の関係を保護するように設計」されており、暗号技術とステガノグラフィの組み合わせとして実装が可能だと、Partala氏は主張。暗号技術でメッセージのプライバシーを保証し、表面上はごく普通に見えるものの中に秘密の情報を隠す技術=ステガノグラフィで通信そのものを隠すことができるという。
しかし、ステガノグラフィには媒体が必要となる。Partala氏は、誰もが匿名で自由にアクセスできるオープンな性質を持ち、データの信頼性が保証されるパブリックブロックチェーンは、秘密通信チャネルを実装するのに最適なプラットフォームであることを、論文で検証した。
この概念実証が、現実になるところまで、今日の研究は進んできているようだ。