米CBDCの民間実験
米国の非営利団体「デジタル・ドル・プロジェクト」は3日、CBDC(中銀デジタル通貨)の活用事例を検証するため、今後12ヶ月間で少なくとも5つのパイロット・プログラムを開始すると発表した。将来的な米国のデジタル通貨の設計の指針とすることを目指す。
デジタル・ドル・プロジェクトは、デジタル・ドル財団と世界大手コンサルティング企業アクセンチュアのパートナーシップから生まれた団体。米国におけるCBDC導入の検討を促すため、デジタルドルの利点に関する研究や公的な議論を推進し、民間セクター主導で公的機関を支援するいくつかのモデルを提案することを目的としている。
米国初となるCBDCの試行プログラムでは、技術的・機能的要件の調査・分析と特定、メリットや課題の評価、適用や手法のテスト、並びに小売・卸売の商業利用における事例などの検証を行う。
デジタルドル財団の共同創設者の一人は、米商品先物取引委員会(CTFC)のクリストファー・ジャンカルロ元委員長。在任中、柔軟な仮想通貨規制を訴え「クリプト・パパ」の愛称でブロックチェーン業界から親しまれた人物だ。
またアクセンチュアは、スウェーデンのリクスバンクやフランス銀行など、他国のCBDCプロジェクトにも参加している。同社はデジタル・ドル・プロジェクトの運営資金を提供しているが、今回の試行プログラム立ち上げ資金も拠出する予定だ。
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関係機関に情報を提供
デジタルドルの試行プログラムでは、以下の分野に焦点を当て、すべての関係者に情報を提供する予定だという。
- 公的機関が検討すべき、公共政策や技術的決定の経験的な証拠を収集する
- 米国のCBDCのメリットや課題、機会、設計や導入方法、具体的な利用方法などを知らせる
- 国際的な相互運用性、主要な規範、消費者保護を含む米国のCBDCのための基準と政策の評価
米国のCBDCプロジェクトは、世界の準備通貨であるドルのデジタル化という側面を持つため、国際的な決済における相互運用性など、他の法定通貨とは異なる課題があると捉えている。
「デジタルドルプロジェクトチームは、公共政策に情報を提供するために、オープンな方法で研究や実験を行い、思想的リーダーシップを築く」とジャンカルロ氏は語った。
FRBとの連携
一つ留意しておきたいのは、デジタル・ドル・プロジェクトはあくまでも民間団体であり、米国の通貨発行権を持つ連邦準備制度理事会(FRB)のCBDCプロジェクトではないという点だ。
通称「デジタル・ドル」の構築において、官民協力体制の重要性を訴えるジャンカルロ氏に対し、パウエルFRB議長は以前、「民間組織が通貨の供給に関わるべきではない。中央銀行の責任と特権だ」と発言したこともある。
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また、パウエル議長はかねてよりCBDCの発行に慎重な姿勢を示しており、先月29日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)でも、CBDCは「最初に発行するよりも、正しく行うことが重要」と述べた。
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このようなFRBの態度と相反して、デジタル・ドル・プロジェクトは、結成直後からFRBにプロジェクトの進捗状況を逐次報告していると説明。プロジェクト側としては、ボストン連銀とMITの研究をはじめとする他のCBDC研究を補完するものであり、「FRBの研究者が特定したCBDCの前提条件に関する情報を提供する」とのスタンスをとる。
ジャンカルロ氏は、パウエル議長の慎重な姿勢に呼応するように、「米国がCBDCを最初に導入する国となる必要はない」と述べる一方で、「未来のお金の基準を設定するリーダーであることは必須だ」と主張。
そのためには、アクセンチュアをはじめとする民間のパートナー企業による実証実験は非常に重要であると説明。特に、プライバシー、金融包摂、法の準拠といった重要な社会の価値観を、どのようにCBDCの設計に取り入れていくのか深く理解する必要があると述べた。
プライバシーへの懸念
CBDC開発で各国より一足抜き出ているのは、中国のデジタル人民元(DCEP)だが、ジャンカルロ氏はデジタル人民元を「市民の経済活動を監視するための信用システム」と形容詞、個人のプライバシーを侵害するとして批判した。
その上で「憲法で保証されている個人の経済的・社会的プライバシー保護」という問題の核心を「米国や他の民主主義国家」が主導して、CBDCの設計に取り入れることが重要だと強調した。