米国銀行協会、仮想通貨レポートを公開
米国銀行協会(ABA)は7月中旬、銀行に向けた暗号資産(仮想通貨)に関するレポートを公表。ビットコイン(BTC)の歴史や規制面での不透明性、各種ユースケースのまとめなどを共有した。
20ページに及ぶレポートでは、銀行を対象に仮想通貨やブロックチェーン業界の現状を総括。暗号資産を1)仮想通貨、2)ステーブルコイン、3)CBDC(中銀デジタル通貨)、そして4)NFT(非代替性トークン)の4つの分類に分けた。
レポート内では、仮想通貨は当初は決済取引手段として誕生したものの、ボラティリティ(価格変動性)の高さゆえに、現時点では決済利用は限られていると言及。希少資産として投資対象になることが主であるものの、以下のようなユースケースもあると紹介している。
- 価値の保存
- カストディ・ウォレット提供者
- 有利子口座
- 決済
- レンディング
- 取引(トレード)
- ブローカーディーラー
- 保険
- ネットワーク・ユーティリティ
- 資産運用
上記の他にもDeFi(分散型金融)など、新たなユースケースが常に生み出されていると説明。イーサリアムを例に挙げ、一つの資産で多数の活動を一度に行えるケースも多いため、従来の金融商品と似た、あるいはより複雑なシステムを展開できるとした。
仮想通貨の規制面
また、仮想通貨のユースケースの他にも、米国における規制面の現状も整頓。主に以下の傾向があるとまとめた。
- 特定の仮想通貨の販売が未登録証券に該当するケース
- 取引所などによる銀行秘密法(BSA)の遵守
- 固定資産としてのキャピタルゲイン・ロスの税申告
米国では仮想通貨そのものではなく、販売の仕方によっては未登録証券および投資契約に該当するケースがあると説明。その場合は証券法違反の疑いで、SEC(証券取引委員会)などに摘発されるとした。
また、2014年には米内国歳入庁(IRS)がビットコインなどの「仮想通貨」を通貨ではなく固定資産(Property)として課税するガイダンスを発表しており、これを受け、仮想通貨のキャピタルゲインおよびロスは税申告する必要がある。
2018年にIRSは再び仮想通貨取引の申告を呼びかけるなど、仮想通貨の匿名性を利用して納税を怠るシナリオを嫌悪しており、業界団体の税率引き下げを求める声は未だに実現できていない。
さらに、今後の仮想通貨規制に影響を与えるトレンドとして、以下の動向を挙げた。
- 預金保険公社、銀行の仮想通貨サービスに関する意見募集
- 通貨監督庁の解釈書(仮想通貨保有やステーブルコイン発行などについて)
- 仮想通貨の有価証券問題(リップル訴訟など)
- FinCENの提案について
- FATFの新ガイドラインについて
- 投資のゲーム化
- DeFi(分散型金融)領域の規制方針
- 環境への影響・リスク
ABAはFDICが5月中旬より銀行の仮想通貨サービスに関する意見募集が7月をもって一旦終了した点に着目。今後のデジタル資産との扱いに影響するとした。
また、米SECがリップル社を提訴したアルトコインの有価証券問題を重視。21年6月時点でSECは、ビットコインとイーサリアムは有価証券では無いとの見解を示しているが、他銘柄では不明瞭な状況が続いており、今後の動向としての注目ポイントの一つに挙げた。
他にも、米FinCEN(金融犯罪捜査網)やFATF(金融活動作業部会)のガイドラインなどを懸念。いずれも仮想通貨企業や利用者にとってデューデリジェンス事項が増える可能性があり、仮想通貨・ブロックチェーン関連の企業や業界団体からは規制緩和を求める声が上がっていた。
さらに、ABAは、21年1月以降顕著になったゲームストップ株(GME)やドージコイン(DOGE)の高騰などに見られる過度に投機的なトレンドを問題視。投資家保護の観点などから、SECのゲリー・ゲンズラー委員長などはこのような動きを警戒しているため、仮想通貨規制の明確化にとってはマイナスな動きになりかねないとした。
なお、現在は明確な規制が定められていないDeFi領域だが、世界経済フォーラム(WEF)がDeFiの規制に向けたポリシーメイカー(政策立案者)用のツールキットを公開しており、今後どのような規制が策定されていくかも重要であるとしている。
また、仮想通貨のマイニングなどにおける電力消費量や、地球環境への負荷に対する懸念も米国内の仮想通貨規制の策定に影響し得ると分析。米政府は金融機関の規制を通して、気候変動リスクの削減を目指しているため、上述した他のリスクと複合的に仮想通貨のマイナス面を強める可能性があると指摘した。