米財務省、マネロンリスクの報告書を発表
米財務省は1日、マネーロンダリング(資金洗浄)についてのリスク評価レポートを発表した。マネロン手段の一つとして暗号資産(仮想通貨)についても項目が設けられ、分析が行われている。
レポートによると、現状で仮想通貨によるマネロンは、法定通貨や、その他従来型資産を活用したマネロンよりもはるかに少なかった。一方で、仮想通貨が麻薬密売、詐欺、ランサムウェア攻撃などの収益洗浄や、制裁回避などに使われる動きは増加傾向にあるという。
ランサムウェアとは
ハッキングを仕掛けたうえで、元の状態に戻すことを引き換えに金銭を要求するマルウェアのこと。「身代金要求型マルウェア」とも呼ばれる。感染すると、他人の重要文書や写真ファイルを勝手に暗号化したり、PCをロックして使用を制限した上で、金銭を要求してくる。
▶️仮想通貨用語集
仮想通貨に関するマネロンリスク
財務省は米国外の暗号資産サービスプロバイダー(VASP)、P2P取引、匿名化サービスなどについて、マネロンリスクとの関連で説明した。
まず、米国外の仮想通貨取引業者に関しては、不正な行為者が、顧客身元確認などの規制が整っていない国や地域の事業者を利用してマネロンを行うリスクがあると指摘している。
また、自己管理型ウォレットのユーザ同士がP2P(ピアツーピア)で仮想通貨をやり取りすることで、金融サービス事業者を介さずに取引を行うことができる。これによって、金融機関には適用される米国の法的遵守義務の多くについて、適用されない可能性があるという。
一方でレポートは、P2P取引がパブリックブロックチェーン上で行われた場合には、調査官がブロックチェーン分析ソフトウェアを使用して、取引を追跡することも可能だと指摘した。
さらに、ビットコインATMや、取引履歴を不明瞭にするミキシングサービス、モネロ(XMR)など匿名性の高い仮想通貨についても、不正利用されるリスクがあるとしている。
ビットコインATMについては、英国の金融当局が11日、マネロン規制に準拠する必要があるとして、閉鎖を命じた事例もある。
財務省は、今回のレポートを、米国における「テロ資金調達等と戦うための2022年国家戦略」の開始を告げるものだと位置付けている。
2022年戦略は、マネロン・テロ資金調達対策の体制をさらに強化するためのロードマップを提供するものだ。目標達成のために、米国政府は、自治体や民間セクター、外国政府と協力していく姿勢である。
犯罪利用率は最低水準へ
マネロン全体の中で、仮想通貨によるものが少ないという報告は、ブロックチェーン分析企業チェイナリシスのレポートとも同様の傾向を示すものだった。
チェイナリシスは1月、2021年の仮想通貨犯罪利用率は取引全体の0.15%と、比率で見た場合は過去最低水準になったと報告している。
関連:2021年の仮想通貨の犯罪利用率は過去最低水準「0.15%」まで縮小=チェイナリシスレポート
レポートでは、制裁回避についても言及されたが、特にロシアのウクライナ侵攻以来、仮想通貨が制裁回避に使われることを懸念する声が高まっているところだ。
米財務省は12日、対ロシア制裁で仮想通貨を通した制裁回避を阻止するためのガイダンスを公開。米民主党議員らも、仮想通貨に関して制裁強化する法案を提出している状況である。
一方でFBI長官は、ロシア政府が仮想通貨を利用して制裁回避を行うリスクは低く、過剰評価されていると述べている。
関連:米FBI長官「ロシアの仮想通貨を利用した制裁回避の可能性は低い」