仮想通貨犯罪の主要捜査機関
米国シークレットサービスが、2015年以降の過去7年間で130億円(1億ドル)以上の暗号資産(仮想通貨)を押収してきたことがわかった。CNBCのインタビューで、同局のDavid Smith氏が仮想通貨捜査について明かした。
米シークレットサービスは従来、米国大統領などの要人警護を行う執行機関として知られる。一方で、2001年の9.11事件後に国土安全保障省に麾下するまでは財務省傘下の機関だった経緯もあり、金融系の犯罪やサイバー犯罪も担当する。
シークレットサービス捜査本部のアシスタント・ディレクターであるDavid Smith氏は、「同局は現在、仮想通貨の違法利用を追跡する主要機関になった」と説明。2015年以降、254件の犯罪捜査で130億円(1.02億ドル)の押収を行った実績があるとした。
同局の仮想通貨捜査について、Smith氏は以下のようにコメントした。
ブロックチェーンの原則は誰でもアクセスできる公開台帳である点だ。法執行機関も含まれる。
我々はブロックチェーン本来の目的から逸れた追跡手法は使っていない。
捜査の方法
シークレットサービスは、米国の首都ワシントンDCにあるGIOC(グローバル捜査センター)本部でブロックチェーン上の違法取引を監視している。まずはウォレットの相関性やホットスポットを特定して、ブロックチェーン上に違法性の疑われるウォレットの取引が含まれたら、そこから捜査できると説明した。
ウォレットアドレスの調査はEメールの捜査と何ら変わりない。取引先のアドレスを紐付けていき、取引がブロックに含まれれば、ブロックチェーン上でアドレスを追跡できる。
ステーブルコインの利用傾向
一方で、仮想通貨は現金より追跡しやすいと指摘。
また、犯罪者自身も仮想通貨特有のボラティリティを嫌う傾向があると指摘し、不正に取得したビットコイン(BTC)などの暗号資産は頻繁にステーブルコインへ換金されていると分析した。
仮想通貨はグローバルな性質や利便性の観点から犯罪者から注目を集める反面、価格面のボラティリティやブロックチェーンに取引履歴が残る追跡性を考慮すると犯罪利用に適していないとSmith氏は語った。
変化しつつある「仮想通貨と犯罪」のイメージ
2013年のシルクロード事件や相次ぐハッキング事件など、仮想通貨の歴史において犯罪利用は長らく悪用が続いてきた側面は否めない。
近年では、北朝鮮政権のバッキングを受けたハッカー集団「ラザルス」が多数の仮想通貨取引所やアクシー・インフィニティを標的としたサイバー攻撃で不正な資金取得を行なっていることが判明した。
関連: 米財務省、Ronin資金流出の背景に北朝鮮のハッカー集団を特定
関連:国連安全保障理事会「北朝鮮の核資金源は仮想通貨取引所へのサイバー攻撃」
ウクライナ情勢における仮想通貨
その一方で、公開台帳であるブロックチェーン上に取引履歴が残る仮想通貨は、一般的な資金洗浄手段である現金や金(ゴールド)、宝石などに比べて遥かに追跡しやすい点が規制当局からも認められつつある。
2月下旬にウクライナ侵攻を開始したロシアに対し、米国やNATO加盟国を筆頭とした西欧諸国が相次いで経済制裁を発令した際には、制裁回避手段としての仮想通貨利用への懸念が高まった。
しかし、米FBI(連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官や、最近では仮想通貨に厳格な姿勢を取る傾向のあるジャネット・イエレン財務長官もロシアの仮想通貨利用リスクは低いと述べている。
関連:イエレン米財務長官「現時点でロシアは制裁回避で仮想通貨を利用していない」
また、チェイナリシス社も今週15日に発表した分析では、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)が仮想通貨を利用して制裁回避を行うためには、流動性が不十分との結論に達していた。
関連:チェイナリシス、露オリガルヒによる仮想通貨を使った制裁回避の可能性を分析
なお、同社によれば、2021年には違法な仮想通貨利用量こそ増加したものの、仮想通貨犯罪利用率は全体の取引量に対して僅か「0.15%」まで縮小しており、規制当局の取り締まり能力の向上と業界の成長が垣間見得ていた。
関連:2021年の仮想通貨の犯罪利用率は過去最低水準「0.15%」まで縮小=チェイナリシス