- マイニング存続の危機はどうなる
- 2018年以降のビットコイン価格大幅下落で、過去に有名企業から予想されたマイナーの想定損益分岐点を割り込んでいる。危惧されたマイニングの存続危機だが、ハッシュレートは右肩上がりに上がっているが、今後マイニングの存続はどうなるのか?中国でマイニングする人物に見解を伺った。
下落するビットコイン価格に反するハッシュレート
ビットコイン価格は、2018年に入ってから大幅に下落し、年初では15,000ドル(約160万円)以上で取引されていたビットコインも、8月17日現在には6,500ドル(約72万円)と、60%近くも下落した状態で取引されています。
しかし、一方で、ビットコインマイニングにおけるハッシュレートは、多少の上がり下がりがあるものの、下記グラフを参照すると、長期的に見て右肩上がりに上がってきていることがわかります。
この現状に対し、オーストラリアに拠点を置く仮想通貨取引所Blockbidの最高運営責任者(COO)であるDavid Sapper氏は、以下のようにコメントしました。
過去に複数の専門家が、マイナーの損益分岐点を予想しており、ウォール街のFundstat Global Advisorsは、ビットコイン価格が8,000ドル(約88万円)になった地点であると発表、国際的な投資銀行であるモルガン・スタンレーは8,600ドル(約95万円)、仮想通貨調査を行うCoinSharesは6,400ドル(約71万円)であると予想していました。
何れにしても、ビットコインマイニングにおいて、競争率が高まってきている中で、上記予想である「損益分岐点」を一時割るほどビットコイン価格が下落しており、マイナーが仮想通貨業界から離れていってしまうのではないかと懸念されています。
中国で実際マイニングを行う人物の見解
コインポストでは、実際にマイニング大国中国で現在も仮想通貨マイニングを行う人物に見解を聞いて見ました。
以下がその内容です。(※質問として提出したSapper氏の内容も織り交ぜて記載してあります。)
損益分岐点について、Sapper氏が述べた通り、マイナーが長期的な視野を持っていることも影響していると考えられますが、マイニング機器の性能向上による省エネ化、マイニング企業自体が、電力の安価な地域に移転していることで、”損益分岐点”自体が低下している
実際に大手のマイニングファームの電気代は、工場の設置されている国における一般家庭電力や法人用料金に比べると、かなり安く契約しています。
中国でも日本円にして6~9円の電気料金の工場などが多数存在していますし、中東では5円以下の電気代になる国も存在しています。(日本では一般の電気代で1kWhあたり約24円)
電気価格を安く抑えてマイニングファームを運営する企業は、地方の自治体と組むことで助成金や税金の面で恩恵を受けたり、発電所の敷地内を借用してファームを設営し、発電の余剰電力を購入することでコストを抑える努力などをしています。
実際に、クラウドマイニングサービスを提供するGenesis MiningのCEOを務めるMacro Streng氏も、「効率性を重視したマイナーは、未だ拡大を続けている。その拡大は、非常に大規模で、効率性を高めることができないマイナーは淘汰され始めている。」 と語っています。
効率化がマイニングの損益分岐点を下げていると示唆される一方で、それに伴って主に個人、または小規模なマイナーが該当すると考えられる、効率化を追求し続けられないマイナーが淘汰されていっているのです。
そして、いずれも中国・北京で世界最大規模のビットコインマイニング機器製造企業であるBitmain TechnologiesやCanaan Creativeも、マイニング機器製造企業でありながら、マイニングを行なっており、効率性を追求することで、さらに規模を拡大しています。
現在の最大手マイニング機器メーカーのBITMAINや、大手中国系メーカーのINNOSILICONなどの販売価格と利回り表を作成しました。
昨年度のS9(ASICマシン)の価格は15万~30万円が相場で、BTCが最高値をつけたあたりでは50万円近くにまでなっていました。 それが現在の価格はPSU付きで10万円以下です。
これはおそらく製造原価を割っている価格だと推測されます。
このようにメーカーはマシンの価格を、最低限利回りが赤字にならないように販売していることがわかります。
現在のマシン価格のまま中国などに設置した場合、全盛期よりも利回りは大幅に下落しましたが、赤字にはなりません。
逆に電力の高い日本では稼働させればさせるほど、赤字になってしまっています。
現状ではEquihashのマイニングマシンを稼働させる以外に選択肢がない状況です。
結論から言えば、マイニング機器の価格も変動する事も含め、実際電気代さえ安ければマイニングは赤字にならないといえます。
よって、マイニングハッシュレートの大半を占め、最新の状況に随時対応する大手企業からすると、損益分岐点はかなり低い数値になると考えることができます。
ハッシュレートが下がらない理由も、大部分を占める大手マイナーからすれば、まだ赤字のラインを割っていない理由となるでしょう。
過去のS9の販売価格の現在の利回りを計算してみました。
このように、過去の販売価格でも電気代さえ安ければ赤字にはなりません。
赤字にならない限り、もちろん彼らはマイニングし続けるでしょう。世界のハッシュレートの大部分を握っているのは、これらの努力をし続ける一部の大規模なマイナーたちです。
彼らの中には、マイニングマシンを製造している企業も当然含まれています。
Canaan Creativeに関しては、ドイツ銀行やゴールドマンサックス、モルガン・スタンレーなどの大手金融機関によるIPOを通して10億ドル(約1,100億円)の資金調達を検討していることも、規模の拡大を象徴していると言えるでしょう。
このような現状から、少なくとも現時点では、ビットコインマイニングにおいて、マイナーが離れていくことはないと考えられています。
しかし、一方で、仮想通貨マイニングの効率化が進むことで、個人、小規模のマイナーが淘汰され、マイニング機器製造企業などによるマイニング比率が高まっていき、さらに寡占化が進んでいってしまうことは、ビットコインの損益分岐点以上に危惧されるべき状況であるといえます。