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日本の仮想通貨税制は本当に変わる?|WebXレポート&インタビュー

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

暗号資産税制の現在地

暗号資産(仮想通貨)市場が拡大する中、新たな資産クラスに対してどのような税制を適用すべきかは、過去数年間に渡り、世界各国の政府の中心的なテーマとなっている。

日本でも2023年に仮想通貨の法人税制(期末課税)が見直される動きがあった。この税制改正はWeb3プロジェクトに挑戦するスタートアップにとってはポジティブだが、個人投資家をはじめとする多くのステークホルダーにとっては、依然として厳しい税負担が残されているのが現状だ。

そんな中、CoinPost株式会社の主催するWebXカンファレンスでは、「日本の暗号資産税制は本当に変わる?」というセッションが催された。

暗号資産の損益計算サービス「クリプタクト」を運営する株式会社pafinの斎藤 岳 代表取締役Co-CEO、コインチェック株式会社の竹ケ原 圭吾 常務執行役員CFO兼CROが意見を交わした。株式会社pafinの本廣 麻子 執行役員がモデレーターを務めた。

“クリプト”、”web3″の産業を活性化に向けて課題として挙げられる「個人税制」と「法人税制」。 本セッションでは、これらの税制改正要望に業界の最前線で取り組んできた登壇者と共に、日本の事業環境および投資環境について、その最新動向をキャッチアップする時間となった。

社会的気運がカギ

竹ケ原氏と斎藤氏はそれぞれ、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の税制検討部会で副部会長、部会長を務めており、毎年、政府への要望書を提出している。

昨年認められた、法人が保有する暗号資産のうち自社発行トークンを期末課税から対象外とする改正は、暗号資産に対する税制に関する要望の“入り口’に過ぎないと斎藤氏は語る。

そして、今年の要望では法人税における他社発行トークンに対する期末課税免除が含まれている。その目的は、ジョイントベンチャーやベンチャーキャピタルの業務支援の一部として、他社から長期保有を前提とした引き受けができるようにすることだ。

斎藤氏は、2023年度に向けて個人所得課税の改革、特に暗号資産の税制に関する「申告分離課税への変更」が主要な議題であると明らかにした。現在、日本では個人が暗号資産を売却した際の利益は「雑所得」として最大55%(所得4000万円以上、住民税含む)の累進課税が適用される。

竹ケ原氏によれば、暗号資産の税制については国によって規定が異なり、法律が明確に定められていない国も多い。しかし、一部の国では、暗号資産から得られる利益はキャピタルゲイン税(譲渡所得税)の対象とされている。

米国や英国では一年以上保有した暗号資産の売却益に対して最大20%の固定税率が適用され、ドイツでは非課税となる場合もあるとした。竹ケ原氏は、暗号資産の資産性を考慮すると、税率を固定化し、税負担を予測可能にすることが必要だと強調した。

日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は、日本の暗号資産に関する税制が海外と比較して不利な点の改善を推進している。その一環として「前年度の損失繰越ができない制度の修正」も求めている。金融庁との協議を進め、最終的には財務省および自由民主党の税制調査会の承認を得ることで、これらの税制課題の解決を図る。

しかし、斎藤氏は当局との折衝を通じて得た感触は厳しいもので、この要望が通るには広範な「社会的機運」の醸成が必要だと語る。

それには暗号資産のユースケース、口座数、ユーザー数等の具体的なデータだけでなく、新たな取り組みも必要だという。例えば、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)のような「サービスファイナンス」を利用した新たな経済システムの開発が、市場の拡大とともに期待されている。

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さらに、規制当局との交渉の一環として、暗号資産間の交換や少額決済の非課税なども議論のテーブルに上がっている。これらは、税制のマイナス部分を改善するだけでなく、より適切な扱いを促進する意味も含まれている。しかし、これらの目標は一朝一夕で達成できるものではないと、斎藤氏は示唆した。

pafin 斎藤 岳氏 インタビュー

ー内閣府の税制調査会は最終関門とされているが、説得材料として何が欠けているのか 官民一体で打破する方法は

(説得材料となるのは)税制改正に向けた、暗号資産の普及や障壁を取り除いていこうという『社会的な機運』です。規制当局は常にこの点を聞いてきます。

具体例を挙げるのは難しいところですが、国民全体にもっと資産クラスとして浸透し、さらに暗号資産ならではのユースケースや国民生活向上に資するメリットが行き渡る。こうして「税制改正せざるを得ない機運」を作り出すことがカギとなります。

ー今後、暗号資産の関連政策は、選挙の趨勢や政局に十分な影響を及ぼす可能性があると思うか

暗号資産関連の政策は選挙対策や若年層の取り組みに寄与する可能性はあると思います。しかし、実際にそういった政策を掲げることで若年層が選挙に行くなど、票として結果が出てくる必要があると思います。

暗号資産に関連する政策によって、若年層の投票率が飛躍的にあがるとは言い切れませんが、大切なのはそういった政策を掲げる政治家が現れること。それを有権者として支持するのであれば、選挙に行って票を入れるという行動で示すことが若年層にも必要になると思います。

ー米国などで積極的なロビイングは、日本でも必要となり得るか

必要だとは思います。海外と国内ではロビイングの方法や環境も異なる面があるかとは思います。

しかし、勉強会だけでなく様々な側面で業界の知見を国会議員の方々に披露させて頂くこと。あるいは先生方の理解促進に向けた各種サポートをするなど、より積極的な関与は必要不可欠だと思います。

仮想通貨の税制改正

日本の国税庁は2023年6月に法人税ルールの一部を改正し、法令解釈通達を公布した。この通達により、特定の条件を満たした場合、企業が自身で発行した暗号資産(仮想通貨)の時価評価を免除することが可能となった。これは日本の事業環境の改善へ向けた重要な一歩である。

これまでの税制では、企業が仮想通貨を保有している場合、期末時にその含み益に課税されるというルールが存在していた。このルールは企業の負担となり、仮想通貨やブロックチェーンの技術進展を阻害。一部の企業が海外での事業展開を選択する動機となった。

税制改正により、自社発行の仮想通貨に対するルールが公式に緩和されることとなった。ただし、他社が発行した仮想通貨に対する法人税については対象外となっている。

関連国税庁、仮想通貨法人税のルールの一部改正を正式発表

自由民主党デジタル社会推進本部のweb3PT(プロジェクトチーム)は、海外と競争できる税制を導入することで、Web3関連プロジェクトや投資家を引きつけ、国内のエコシステム全体を強化するとともに、国内でのトークンの流通を促進することで税収を増やすねらい。

個人向け所得税に関しては問題が多く、他国の税制と比較して厳格な条件が課されている。現行の日本法では、個人が行う暗号資産取引から得た所得は全て総合課税の対象とされ、税率は5%から45%(住民税を含めると最高55%)となっている。

web3PTが2022年11月に公開した「Web3関連税制に関する緊急提言」では、「分離課税20%への見直し」や「暗号資産同士の交換による損益を非課税とする」などの項目も含まれたが、これらはまだ実現に至っていない。

主要な国々では、保有期間によって税率が変動する制度が採用されている。例えば、米国では仮想通貨の保有期間が1年以下の場合、税率は10%から37%とされ、1年以上保有していた仮想通貨の売却益に対する税率は0%から20%とされている(情報源:IRS)。

また、国内外の投資を増やし、欧州連合(EU)における仮想通貨の中心地となることを目指す国々が、個人投資家や法人に対し仮想通貨に適した税制を採用し、国内のイノベーションを推進している。

例えば、スロバキアでは、暗号資産(仮想通貨)の売却益に対する税負担を軽減するための改正案が採用され、その結果、通常の所得税率(19%から25%)よりも大幅に税率が下がった。

400ユーロ(約38万円)までの仮想通貨による決済利用は非課税となり、さらに、仮想通貨で得た所得は14%の健康保険税の対象外となる規定も設けられている。

関連:仮想通貨税制改正、欧州のスロバキアが売却益の最大税率25%から7%に軽減へ

登壇者プロフィール

斎藤 岳

株式会社pafin 代表取締役Co-CEO。12年間、ゴールドマン・サックスの自己勘定投資チーム及びヘッジファンド運用担当者として勤務。不良債権、プライベートエクイティ、不動産、法的整理、上場株、債券、為替、金利、CDS、デリバティブなど最大800億円のポートフォリオを運用。

2019年株式会社pafin 代表取締役に就任。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)税制検討部会長を務める。

pafinが提供する「クリプタクト」は、国内ユーザー10万人以上が利用する国内最大級の暗号資産損益計算プラットフォーム。暗号資産の自動損益計算や資産管理サービスを提供し、確定申告の作業をサポートする。

竹ケ原 圭吾

2023年4月よりコインチェック株式会社の常務執行役員CFO(最高財務責任者)兼CRO(最高リスク管理責任者)に従事。2012年11月公認会計士試験に合格。有限責任監査法人トーマツ入社。2018年11月にコインチェック株式会社入社。

経理財務部門の責任者として、暗号資産交換業という新たな事業分野における財務報告の枠組みと内部統制の構築を行う。

コインチェック株式会社はマネックスグループの子会社であり、アプリダウンロード数4年連続「国内No.1*」の暗号資産取引サービス「Coincheck」を運営する。*国内の暗号資産取引アプリ 期間:2019年1月〜2022年12月 データ協力:App Tweak

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