
FRB利下げの可能性を疑問視
JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者は、CNBCの独占インタビューで、米連邦準備制度理事会(FRB)による更なる利下げは、インフレが収束しない限り困難になるとの考えを示した。
米国のインフレ率は現在3%で停滞しているが、ダイモン氏は今後、インフレ率は下降ではなく上昇に転じると予想している。同氏はまた、景気後退による利下げではなく、適度な経済成長による緩やかな利下げが望ましいとの見解を示した。
また、トランプ大統領が公言したように、FRBの独立性を強く支持すると強調。監督や規制領域においてFRBは独立しているとはいえず、過剰な監督や規制は「剪定されるべき」だと述べた。
さらにダイモン氏は、FRBは「失業率、金利、インフレ」という得意分野に集中すべきだと指摘。FRBは金利を決定するが、実際にはインフレ率の上昇に反応して対応策を講じる「追随者」であり、全てを決定する者ではないと付け加えた。
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米国経済の見通し
現在の米国経済に対する意見を求められると、ダイモン氏はデータにいくつかの矛盾があるものの、全体として低失業率の維持と消費の堅調さを指摘した。一方、低所得者層では明確に経済的に少し苦しい状況にあり、信用喪失の微増も見られる。これらを総合すると、経済の弱体化の兆候とも捉えられるが、「大惨事」ではなく、単なる弱含みにとどまるとの見方を示した。
経済を支えるポジティブな要因として、同氏は政府による減税措置などの景気刺激策や、AI関連の設備投資(主にAIデータセンター)の大幅な増加を挙げた。
ただし、インフレについてはより慎重に考えており、世界的な財政赤字の拡大、世界的な再軍備、貿易構造の再編などがインフレを誘発する可能性を指摘した。
同氏は関税収入の推定4,000億ドル規模を短期的な財政赤字緩和のオフセットとして評価しつつも、自由貿易の支持者として不公正な貿易や国家安全保障以外の関税拡大を避けるべきだと主張した。
一方、トランプ政権による包括的な税制・財政改革法「One Big Beautiful Bill 」(一つの大きな、美しい法案)の成立により、来年から多くの景気刺激策が導入されるとともに、規制緩和が実現するため、経済成長が期待されると見ている。
ダイモン氏は規制緩和を成長戦略の要と位置づけ、現政権の成長重視政策が財政赤字削減の一助になると評価した。一方で、財政赤字への本格的な取り組みは不十分であるとして、最終的には合理的なアプローチが必要になると指摘した。
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ビットコインとステーブルコイン
暗号資産(仮想通貨)についての考えを聞かれるとダイモン氏は、ビットコイン(BTC)は他の仮想通貨とは切り離して考えるべきであり、ブロックチェーンは現実のものだと強調した。
JPモルガンでは数年来、JPMコインを利用した決済を行なってきたと同氏は指摘。ステーブルコインについては「現実のものとなる」と考えており、JPモルガンでもステーブルコイン・プロジェクトが始動している。また、銀行業界では、コンソーシアムによるステーブルコインの開発、もしくは自社運用を検討中だと付け加えた。
もしステーブルコインがミューチュアルファンドのようなものとなれば、同等の規制が必要となり、利子の支払いが鍵となると指摘。JPMコインには利子が付く可能性があると付け加えた。
米ドル建のステーブルコインは、ドル保有や個人間の送金用途などで海外での需要が大きくなると同氏は予想している。ただし中央銀行間の利用については不明だと述べた。
ダイモン氏は、ステーブルコインについて特に心配していないが、その動向については常に把握し、理解しておくことが重要だと主張した。
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AIは現実
ダイモン氏は AI自体は現実のもので、JPモルガン社内では2,000人がAIに取り組んでおり、500ものユースケースがあると指摘した。同社では、大規模言語モデルと小規模言語モデル、オープンソースモデルとクローズドモデルといった多様なアプローチを組み合わせることで、社内やクライアントのニーズに最も適した方法を採用していると説明した。
同氏は、AIが「人類が抱える深刻な問題を解決する」可能性に期待を寄せる一方で、他のテクノロジーと同様、悪用される可能性もあり、すでに多くの決済システムやサイバー空間でその例を目にしてきたと述べた。
巨額の資金が流入しているAI投資については、これまでの様々な対象に対する投資ブーム同様、一部の投資は「バブル状態」にある可能性を認め、全ての投資が成功するわけではないと冷静な見方を示した。
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