マクロ金融リスクを理解する
国際通貨基金(IMF)は9月29日、「暗号資産(仮想通貨)に起因するマクロ金融リスクの評価」と題した研究報告書を発表。各国が仮想通貨領域における潜在的リスクを特定、防止、軽減するための概念的な枠組みとして、仮想通貨リスク評価マトリクス(C-RAM)を提案した。
執筆者らは、推定時価総額約180兆円(1.2兆ドル:2023年4月末時点)に達した仮想通貨市場が、世界経済においてますます重要性を増しており、新たな「影の金融システム」となる可能性があると指摘。ここ数年で急速な成長を遂げた仮想通貨の世界経済への統合が進む一方で、既存の政策の枠組みがこの新たな金融市場に追いついていないと述べた。
また、約5.9兆円(400億ドル)以上の価値が失われたテラ騒動や、大手仮想通貨取引所FTXの破綻に言及。仮想通貨分野における失敗の影響は、他の金融セクターや経済にも波及するリスクが高く、「悲惨な結果を招く可能性」があるため、「マクロ金融の関連を捉えた徹底した規制と政策の枠組み」を導入することが重要だと指摘した。
報告書では、まずマクロ金融リスクと仮想通貨分野の繋がりを分析。仮想通貨がもたらす以下のような機能があるため、従来のシステムリスク研究とは異なる枠組みを新たに設計する必要があると述べた。
- 並行する代替金融システムの構築:金融仲介、金融商品、市場、インフラの新しいビジネスモデルと形態
- 分散型市場とガバナンス構造
- 予期せぬ財政リスクを引き起こす可能性:自動化された取引によって市場の反応が非常に速いため、高いボラティリティや金融の不安定化につながる
- 高度に複雑な技術と脆弱なガバナンスによる高い運用リスクとサイバーリスク
- クロスボーダーにおける低い障壁など、他のセクターへの新たな伝送路:
- 監督と規制のための適切なデータの欠如
- 急速に進化する法規制の枠組みが、財政・金融政策に与える影響:法定通貨として認める国の存在
- 効果的な監視・監督を妨げ、規制措置を回避する非常に活発で革新的な市場環境
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三段階のアプローチ
仮想通貨リスク評価マトリクス(C-RAM)では、各国がマクロ金融リスクを組み込んだ評価を可能にするため、三段階のアプローチを提案している。
- 決定木(ディシジョンツリー)を利用して、マクロ経済に対する仮想通貨領域の重要性や影響を判断する
- カントリーリスク・マッピング:従来の金融セクターでモニタリングに使用されるものと同等の指標を検討
- グローバルなリスク評価:国のシステムリスク評価に影響のある世界的なマクロ金融リスクを検討
国レベルの分析では、特に脆弱性とリスクにフォーカスし、システムリスクにつながる潜在的な要因を分析し、政策ツールの可能性が示される。
報告書では、仮想通貨と他の金融セクターや経済とのつながりはまだ限られているものの、今後、仮想通貨の普及が進むにつれ、マクロ経済や金融の安定性に重大なリスクをもたらす可能性があると警告。仮想通貨分野では、未だ解決されていない重要な政策課題があり、国際協力が求められていると指摘した。
中でも、データ不足の解消と一元化されたデータ収集の取り組みが優先課題の一つであるという。仮想通貨がもたらす国境を跨いだリスクを考慮すると、監督機関と国際協力の強化が重要だと主張。国際機関の連携した取り組みによって、仮想通貨によるマクロ金融リスク抑制のために、各国の政策を調整することが期待されるとした。
エルサルバドルの事例
報告書ではC-RAMを用いて3カ国を評価している。
そのうちの2カ国が、ビットコインを法定通貨として導入したエルサルバドルと中央アフリカ共和国で、仮想通貨の普及が進むベトナムが3番目の国だ。なお、報告書によると中央アフリカ共和国は、今年4月にビットコインの法定通貨としての導入を中止しているため、C-RAMの評価は説明のみを目的としているとした。
エルサルバドルは2021年9月に、世界で初めてビットコインを法定通貨と認めた国で、23年1月には仮想通貨の利用を強化することを目的とした、新たなデジタル資産法が可決された。
論文では、エルサルバドルにおけるビットコインの使用や、法改正等による仮想通貨のさらなる普及は、金融の安定性を損ない、送金や他の資本流入に影響を及ぼすリスクがあると指摘した。また、同国では経済の米ドル化が進んでおり、米国経済への依存度が高いため、世界的な仮想通貨リスクと関連づけられると述べた。
IMFは一貫して、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨としての採用に難色を示し、その地位を取り消すように促してきた。IMFは、ビットコインを法定通貨として使用することは、金融の安定性、金融の健全性、消費者保護などの分野で「大きなリスク」を伴うと主張している。
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