税制改正の必要性訴え
一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は30日、共同で暗号資産(仮想通貨)に関する2025年度税制改正要望書を政府に提出した。
現行の税制では、仮想通貨取引で生じた所得は原則として、雑所得に分類されているため総合課税となっている。雑所得に課せられる所得税は5%から45%の間で税率が変動し、これに住民税などが加わって税率は最大55%までになる。
要望書では、現行税制は「国民が仮想通貨へのアクセスや利用を躊躇させる内容」となっていると指摘。政府が推進するWeb3の発展のためには「税制が最大の障害になっていることに疑いはない」として、あるべき仮想通貨税制について以下のような要望にまとめた。
仮想通貨を取り巻く状況の進展
JCBAとJVCEAの両協会は要望書の背景として、仮想通貨市場の拡大と成長、海外におけるビットコインおよびイーサリアム現物ETFの組成、国内上場企業によるWeb3領域への参入や新たな利用の拡大などを取り上げた。
日本国内では仮想通貨口座開設数が1,000万口座を突破し、国民の10人に1人が仮想通貨を保有する水準にまで浸透。また利用者預託金残高が3兆円を超え、仮想通貨は広く流布された資産として認知されつつある。
また、マネーロンダリング等への対応強化や利用者保護により、業界全体の健全化が進展するとともに、Web3の推進は日本の成長戦略として政府の支援を受けることとなった。
以上のような背景から、両協会は Web3市場及び企業の育成と海外との競争力強化のため、仮想通貨の税制改正は不可欠かつ急務だと要望書で訴えている。
所得区分の見直し
仮想通貨ユーザーにとって最も関心が高い所得税について、仮想通貨の現在の取引状況や実態を鑑みると、雑所得や事業所得以外の所得区分も考えられると要望書は主張する。
日本で仮想通貨が雑所得に区分された背景として、所得税法施行令87条において、仮想通貨が「たな卸資産」に含まれると定められていることから、法的には雑所得区分になったと考察している。しかし、仮想通貨は販売以外の業務や投資など、仮想通貨の保有目的が多様化しているため、この区分は現状に合わないものになっている。
そこで、仮想通貨の譲渡による所得区分については、譲渡所得など雑所得以外の所有区分がありうることを法令等によって明確にすることを求めた。
申告分離課税と損失繰越控除の導入
現在、仮想通貨は他の金融商品と同じく有用な決済手段および資産クラスとしての利用が進んでいる。しかし税制では仮想通貨は総合課税であるのに対し、他の金融商品は分離課税となっており、制度内の整合性の課題が指摘された。
例えば、海外発行の仮想通貨ETFが国内で流通したり、国内でも仮想通貨を原資産としたETFが組成され、これらの取引から生じた所得が分離課税の対象とされるならば、仮想通貨の現物取引も分離課税とされない場合、「税法上の著しい不均衡」が生じることになる。
また、海外と日本の税制を比較すると、アメリカやイギリスなど海外の主要国は分離課税を採用し、税率が20%であるのに対し、日本は総合課税で税率最大55%と、大きな乖離が見られる。今後、新たな技術を取り入れた経済社会の高度化に向けて、日本が強い競争力を確保するためには、解離の縮小が不可欠となる。
仮想通貨の課税においては利用者による適正な税務申告が不可欠だが、総合課税で税率が高いことや、損失繰越ができないことなどから、保有者が利確を避ける傾向に繋がっており、税務申告促進の妨げとなっている。
20%の申告分離課税と、3年間の損失繰越制度を導入することによって、利用者による適正な確定申告を促進し、健全かつ公正な納税環境の整備を実現し、法制度内での整合性・公平性を高め、海外に対する所得税制上における劣後の状況を一定程度克服することができると、要望書は主張している。
関連:暗号資産(仮想通貨)にかかる税金と確定申告の基礎知識を税理士が解説|Aerial Partners寄稿
日本市場の縮小
JVCEAの小田玄紀会長は、なぜ税制改正が必要なのかという問いについて、極めてシンプルに「市場を育成するため」と答えている。小田氏は、今の最大の課題は日本国内の市場が極めて小さくなっていることだと危惧する。
2017年、世界におけるビットコイン取引の50%が日本円で行われていたが、今では1~3%に縮小し、取引量に比例して日本国内における仮想通貨の預託状況も1~3%となっているという。
海外の低い税率とレバレッジの高さから仮想通貨取引の中心が日本から海外へと移ってしまい、日本の取引シェアは縮小してしまった。
規制整備により企業の起業環境が良くなったとしても、市場が小さい場合、起業家が日本を選ぶインセンティブは限定的となる。
日本にWeb3の市場を創ることが、海外からのWeb3起業家を誘致するために不可欠であり、そのためにも税制改正の実現には大きな意義があると同氏は主張する。
過去2年の税制改正は「Web3の起業環境を整えるため」のものであり、法人税制の改正により、Web3関連の起業が日本国内でも実現可能になった。今年提出された要望書は、主に市場を支える一般ユーザーに対する税制の改正に焦点を当てている。
Web3戦略における仮想通貨の重要性
日本政府は、2022年6月、成長戦略にWeb3.0の環境整備を盛り込むことを閣議決定した。要望書では、Web3.0政策の推進にとっての仮想通貨の重要性を強調している。
暗号資産は Web3.0の根幹技術であるパブリックチェーンを駆動するための“ガソリン”であり、NFTやメタバース、DAOといったWeb3.0を構成する新たな仕組みに不可欠なものである。 Web3.0 において既存の法定通貨に代わり使用される主たる価値移転の手段は暗号資産であり、国内における Web3.0 の発展とは即ち国民による暗号資産の利用拡大を意味している。
一方で、仮想通貨税制が利用拡大のハードルとなっているのが現状であると指摘。税制の整備により、仮想通貨の利用拡大を図ることで市場を育成し、Web3.0の推進に寄与することになると総括した。
JBAも要望書提出
日本ブロックチェーン協会(JBA)も今月19日に、2025年度の仮想通貨に関する税制改正要望書を政府へ提出した。
その内容はJCBAとJVCEAと同じく、所得税への20%の申告分離課税の導入を第一の要望として挙げている。
関連:JBAが暗号資産関連の税制改正要望(2025年度)を政府に提出 申告分離課税や損失の繰越控除など
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