カナダ中銀、CBDC開発マネージャーを募集
カナダが中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)の設計について、一歩を踏み出しそうだ。カナダ銀行が、CBDC開発のプロジェクトマネージャーについて求人情報を公開している。
2月にカナダ銀行のTimothy Lane副総裁は、CBDCを巡るスピーチで「現時点では、CBDCを発行する説得力のあるケースはない」と結論付けていた。しかし6月11日に発表された公募情報によると、その設計は着実に前へ進めていくことが窺える。
募集職種は、CBDC開発プロジェクト全体を管理する、プロジェクトマネージャーである。
プロジェクトの課題は、「デジタル形式の現金のような特性を持つCBDCを設計すること」と述べられ、さらにこのCBDCが持つべき特性として以下のような事項が挙げられた。
・プライベート
現金のような匿名性を目指すものではないものの、高度にプライベートでありながら、マネーロンダリング防止やその他の規制に準拠する必要がある。
・普遍的にアクセス可能
銀行口座や携帯電話へのアクセス権のない人、携帯電話ネットワークが十分に機能していないリモートコミュニティ、感覚、運動、認知機能に障害を持つ人も含め、すべてのカナダ人が使用できる。
・柔軟性
電力やインターネットが停止中でも機能し続ける。
・安全性
紙幣と同じくらいに安心して使用することができる、最高レベルのセキュリティを備えている。
カナダが開発するCBDCは以上の特性を持ち、数十年に渡って進化する可能性があるという。
ビットコイン等仮想通貨は、銀行口座を持たない人々でも、携帯端末を保有していれば使える点が、金融包摂に繋がると論じられてきた。
しかし公募内容は、カナダが携帯電話にアクセス出来ない人も使用できるデジタル通貨を目指していることを示しており、どのようなシステムになるのか注目される。
プロジェクトマネージャーの職務内容には「三年間で成長発展するプロジェクトの組織に関してガイダンスを行う」ことも含まれており、開発単位としてこれから三年間が予定されている可能性がある。
CBDC立ち上げが必要となる二つのシナリオ
カナダ中銀はまだCBDCを実際に発行するかどうかについては明言していない。先に述べたようにカナダ銀行副総裁は2月に現時点では発行する必要性はないと発言している。
このスピーチで副総裁は、CBDC立ち上げを正当化する二つのシナリオを披露した。
- 現物現金の使用が削減または排除されるケース
- 民間の仮想通貨が深刻な侵入をもたらすケース
一番目のシナリオは、現金が十分に広範囲の取引をカバーできなくなる転換点に到達した場合だという。
その際、大規模な金融機関が提供する決済サービスが支配的となり、そうしたサービスにアクセス出来ない人々が経済に参加することが難しくなる。民間の私的取引能力も低下する。
さらに、あるシステムが支配的になれば単一障害点が生じ、システムの故障や停電に対して脆弱になるという問題もある。
キャッシュレス社会へ転換してそのような問題が生じた場合、選挙を通じて示されるカナダ人の意志次第ではCBDC発行が検討されるという。
また二番目のシナリオは、大手テクノロジー企業が支配的なデジタル通貨を発行し、カナダの金融主権が脅かされる場合だとする。複数の民間デジタル通貨が出現することも想定される。
どちらの場合でも、カナダ銀行が介入し、商業的意図のない公衆の利益を最優先事項とする公式のデジタル通貨を作成する必要があるという。
以上のように、副総裁は具体的にCBDC立ち上げを必要とするシナリオを説明した。
二番目のシナリオについては、近年各国政府から金融主権を脅かす可能性があるとして批判されたステーブルコイン「リブラ」プロジェクトを念頭に置いたものだと思われる。
「キャッシュレス社会への転換」「ステーブルコインなど民間仮想通貨の広範囲利用」という二つの事項が、政府が独自のデジタル通貨を発行する主な動機付けになることが分かり、興味深い。
これはカナダの一例ではあるが、二つの事項は世界の様々な地域が直面している将来の可能性であり、各国がCBDCを模索する理由の一部として共有されていると考えられる。