CBDCのリスク
米格付け会社のフィッチ・レーティングスは、一般向けの中央銀行デジタル通貨(CBDC)の広範囲に及ぶ導入は、リスク管理が不十分な場合、金融システムを混乱させる可能性があると指摘した。
フィッチが言及しているのは、いわゆるリテール型(小口決済型)と呼ばれるCBDCで、以下の二つを主なリスクとして示した。
①市中銀行の預金口座からCBDC(中央銀行)の口座へ、資金移動の流れが急速に増加するリスク。
②中央銀行と一般経済との接点が増えることで、サイバーセキュリティの脅威が高まる可能性。
リテールCBDCの場合、これまで中央銀行と直接の取引関係を持たなかった個人が、CBDCを小口決済に利用することになる。そのため、アクセス数の急速な増加などにより、中央銀行システムが抱えるリスクも増大し得ると考えられる。
急速な資金移動のリスク
広範にわたる資金移動によって「金融の仲介機関(市中銀行)の排除」が起こり、金融システムの混乱につながりかねないとフィッチは指摘している。
資金移動リスクとその影響に関しては、下記の「SBI R3 Japan」の解説記事が詳しい。その論旨を以下にまとめた。
- 市中銀行に預金口座を持つ一般消費者が、利便性と安心感から中央銀行口座に資金を移動する動きが広まると、市中銀行が資金不足に陥る。
- 従来の預金モデル(一般消費者が長期にわたり預金を預けっぱなしにする)が崩壊すると、企業へ貸し出していた資金の回収が急務となり、貸し剥がしが起こる可能性
- 市中銀行は金融市場から資金調達を行うが、マーケットの仕組みは複雑で、市場調達リスクを抱えることになる
- ドルなどの外貨調達の場合は、海外の金融機関が貸し渋りを起こす可能性も
このような観点から、金融市場を不安定化させ、金融危機に類似した問題を発生させかねないという結論に至っている。
CBDCの利点
フィッチは、CBDCの利点として、キャッシュレス決済の強化による恩恵(決済コスト、スピード、回復力の向上)、銀行口座を保有しない層の金融包摂、金融取引データの追跡能力の向上による金融犯罪防止などをあげている。
さらに、プログラム可能なCBDCの特性を生かし、災害支援や景気刺激策の一環として、CBDC口座への直接送金など、新たな政策の選択肢を広げる可能性にも言及した。
しかし、これらの利点の多くは、立場が変わると欠点ともなりかねない。ユーザーの視点から見ると、中央銀行による金融取引データの掌握は、重大なプライバシーの侵害と捉えることもできる。また、個々の電子ウォレットの保有額に対する制限などが設けられた場合、一般ユーザーが、現金の代わりにCBDCを利用するメリットがあるのか、疑問も生じるだろう。
米国はCBDCに慎重な姿勢
日本を含む世界の多くの中央銀行が、CBDCプロジェクトに取り組んでいるが、その進捗状況には大きな開きがある。世界4大会計事務所の一つ、PwCは、リテール型とホールセール型(銀行間)のプロジェクトに分けて、各国のCBDC開発の成熟度ランキングを発表しているが、日本はホールセール型で10位にランクインしている。
関連:デジタル通貨(CBDC)プロジェクトが進む国ランキング=PwCレポート
一方、CBDCの取り組みに慎重な姿勢を見せる米国はいずれにもランクインしていない。
米連邦準備銀行(FRB)の一つであるボストン連銀は、昨年の夏から、マサチューセッツ工科大学(MIT)とCBDCの共同研究を進めているが、同行のEric Rosengren総裁は、先週、CBDCの発行には今後さらなる調査が必要になると発言している。
世界の基軸通貨である米ドルをデジタル化するにあたっては、流動性やセキュリティなどの観点からも、他国の通貨とは異なるレベルの課題が生じることは想像に難くない。
Rosengren総裁は、金融包摂の向上や国際金融取引コストの低下、金融政策導入の際の柔軟性をCBDCの利点として挙げる一方、政策面に対する影響やトレードオフについては、十分に考慮すべきだと主張している。
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