相互運用性向上を目指すネットワーク
ブロックチェーン技術は日々進化を続けていますが、相互運用性(Interoperability)の欠如が、より広いユーザー層への普及における課題のひとつだと考えられています。現在のブロックチェーン領域は、初期のインターネットのように、異なるエコシステムに分割されており、各エコシステムの連携が難しくなっています。このような相互運用性の課題解決に取り組んでいるプロジェクトのひとつが、中国発のNervos Network(ネルボス・ネットワーク、以下ネルボス)です。
ネルボスは20年夏に、イーサリアムやテゾスなど5つのパブリックチェーンと共に、中国の国家ブロックチェーン・インフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」に統合されたことで、話題となりました。また、イーサリアム財団の元開発者など、業界の著名組織で経験を持つ人々が、開発チームに名を連ねていることでも知られています。
本記事では、ネルボスの仕組みやユースケース、トークンの特徴などを解説します。
1. 概要
ネルボスとは
ネルボスとは、相互運用性に特化したブロックチェーン・エコシステムです。インターネットが誰でも利用できるのと同様に、異なるブロックチェーン同士でもシームレスに連携可能なパブリック・ネットワークを構成する、オープンソースのプロトコル集合体となっています。類似プロジェクトには、ポルカドットなどがあります。
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ネルボスは、単なる相互運用性実現だけでなく、その先にあるブロックチェーンアプリの普遍的(Universal)な構築および利用をも視野に入れて設計されています。
ネルボスの特徴は、二層に分かれたネットワーク(2.基本構造参照)を構築することにより、相互運用性に加えスケーラビリティ(拡張性)を強化している点です。これは、単一のブロックチェーンでは、「分散化 vs スケーラビリティ」や「プライバシー vs オープン性」など、多数あるブロックチェーンシステムのジレンマを全て解決することは困難である、という前提に立ったものです。このようなジレンマから抜け出すには、それぞれの課題を切り離し、異なるレイヤーで異なる課題に対処するのが最適の方法であるという、ネルボスの価値観に基づいています。
特徴
二層構造に加え、ネルボスでは以下のようなメリット提供を目指し、開発が進められています。
- どの資産、どのブロックチェーンにもアクセス可能
- どのウォレットおよびソリューションからもdApp運営が可能(Universal Apps)
- 柔軟性の高いコーディング
- 安全かつ分散型
- 持続可能な価値貯蔵手段
2. 基本構造
上記のようにネルボスのネットワークは、スケーラビリティ確保のために、二層構造になっています。基盤となるレイヤー1(L1)でセキュリティおよび分散性を確保し、その上にあるレイヤー2(L2、セカンドレイヤー)で、各ユースケースに沿ったトランザクションを可能にしています(※1)。
(※1)レイヤー2の定義は複数存在しています。本記事は、ネルボスが公開している文章に基づいて作成されています。本記事では、レイヤー2を「サイドチェーンも含む広義のものをさす」との解釈を採用しています。
レイヤー1の構造
ネルボスでは、基盤となるレイヤー1を「The Common Knowledge Base(CKB)」と呼んでいます。ネットワーク全体の価値を貯蔵するためのレイヤーであり、ポルカドットのリレーチェーンや、イーサリアム2.0のビーコンチェーンに相当しています。
CKBは、ビットコインにインスパイアされて構築された、オープンなパブリックチェーンです。そのため、コンセンサスアルゴリズムには、PoW(Proof-of-Work)が採用されています。これは、PoS(Proof-of-Stake)よりもPoWの方が分散性が高く、よりオープンな参加が見込まれるという考えを基盤にしているためです(※2)。
(※2)PoW対PoSの分散性に関する議論は専門家や有識者の中でも意見が分かれる議題であり、こちらはあくまでネルボスの見解になります。
またビットコインが、チェーン上の全ての資産を貯蔵しているのと同様に、CKBも価値貯蔵用のチェーンとして機能しています。しかし、ビットコインではBTCという単一資産しか貯蔵できません。一方、CKBでは、イーサリアムのようにスマートコントラクトがサポートされているため、ファンジブルトークンやNFT(非代替性トークン)からレイヤー2プロトコルのセキュリティを保証するための暗号学的証明に至るまで、あらゆる種類の資産(ネルボスではcommon knowledgeと呼ぶ)を貯蔵できます。
以上からCKBは、「ビットコインとイーサリアムの掛け合わせ」と描写されることもあります。
レイヤー2の構造
PoW基盤のレイヤー1は、スケーラビリティ(ネットワーク規模を拡大すること)には適していないという難点があります。そこで利用されるのが、レイヤー2技術です。
レイヤー1上に構築されたL2プロトコルでは、レイヤー1チェーンのセキュリティを活用します。その上で、オフチェーンでトランザクションを実行することにより、スケーラビリティを改善し、トランザクション手数料を最小限に抑えられます。レイヤー1上でのレイヤー2構築を可能にすることにより、特定のアプリやユースケースに適したレイヤー2技術も生まれてきます。
開発ツール
ネルボス開発チームは、CKBを中心とした相互運用性強化をさらに促進できるよう、「ユニバーサル・パスポート(Universal Passport)」と名付けられたツールキットを提供しています。ユニバーサル・パスポートには、誰でも簡単に利用可能な以下の3つのツールが含まれています。
- PW Core:ウォレットアプリ。既存のイーサリアムアドレスをそのまま活用し、CKBを受け取ることができる。MetaMaskやimTokenと互換性有り。
- The Force Bridge:イーサリアムにネルボスを接続するブリッジ。全てのERC-20トークンをサポート。20年12月にデプロイ完了。
- Polyjuice:EVM(イーサリアム仮想マシン)互換レイヤー。開発者はこれを利用することにより、イーサリアム上にあるアプリをCKBへ移行可能。
3. ユースケース
高いスケーラビリティを特徴とした分散型ネットワークであり、スマートコントラクトをサポートしているという点から、以下分野での活用が見込まれています。
DeFi(分散型金融)
イーサリアム・エコシステムを中心に数多くのDeFiプロジェクトが存在していますが、主にスケーラビリティの観点から、既存金融サービスほどには普及できていないのが現状です。分散性およびスピードの両方を追求するネルボスのネットワークでは、DeFiに不可欠な高度な分散性を維持しながら、より多くのトランザクションを処理できると見込まれています。
この点についてネルボスは、過去のブログにて以下のように述べています。
当初からネルボスは、複数レイヤーのネットワークになるよう設計されており、レイヤー1は「価値貯蔵」という不可欠な機能のために用意されています。これによりレイヤー2での、より高速なトランザクション実行が可能になっています。
またネルボスでは、異なるエコシステム同士の相互運用性強化を目的に、あらゆるブロックチェーンのあらゆる資産にアクセスできるように設計されています。そのためユーザーは、ウォレットや取引所、シードフレーズなどを複数管理する必要がなくなります。開発者も同様に、一度アプリを構築してしまえば、あらゆるチェーンでそのアプリを利用できるようになります。
ネルボスは21年2月に、DeFi普及促進に向け、500万ドル(約5億5,000万円)の助成金プログラムを開始しました。
NFT
NFT分野でもまた、ネルボスの活用が見込まれています。ネルボスのネットワーク上でNFTを利用する利点について、以下の3つが公式ブログにて挙げられています。
- 参加障壁がなく誰でも簡単に参加可能:生体認証技術を活用し、簡単にNFT対応ウォレットを作成。
- 手数料無料で送付および受取可能:NFT作成時に送受分のコストを前もってNFT内に組み込むことにより、送受信コストを補償。
- 異なるブロックチェーン上で流通:イーサリアムとのブリッジはローンチ済み。CKB上のトークンをイーサリアムへ送付可能。
4. CKBトークン
ネルボスのネイティブトークンは、CKBytes(CKB)と呼ばれています。レイヤー1としての「The Common Knowledge Base(CKB)」と混同しないよう、本記事ではトークンとしてのCKBを「CKBトークン」と記載しています。日本では現在購入不可ですが、以下の取引所に上場しています。
供給量
- 初回供給量:336億CKB(そのうち84億CKBを即座にバーン)
- 報酬半減期:4年に一度
- 二次供給:上記とは別に毎年13億4,400万CKBを一律で供給、マイナー、DAO報酬および基金へ配布
トークンセール
CKBのトークンセールは、以下の日程で2回行われ、合計116億円を調達しています。
日付 | 調達額(ドル) | 調達額(円) | 取引所 | |
---|---|---|---|---|
プライベートセール | 2018年上旬 | 2,800万 | 37億8,000万 | ー |
パブリックセール | 2019年10月16〜24日 | 7,200万、1CKBあたり0.01ドル(約1円)で売却 | 79億 | CoinList |
発行目的
CKBは主に、以下の用途を念頭に設計・発行されています。
- 価値貯蔵
- トランザクション手数料
- スマートコントラクト実行手数料
- ガバナンストークン:ネルボスのガバナンス「Nervos DAO」にてCKBをロックすることにより報酬の受取が可能
5. 関連組織・パートナー
中国BSN
ネルボスは20年8月に、イーサリアム(ETH)、イオス(EOS)、テゾス(XTZ)、ネオ(NEO)およびIRISnetと共に、中国国家構想のブロックチェーン・プロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」に統合されました。
BSNとは、「ブロックチェーンのインターネット」を目指している、中国国家情報センター主導のプロジェクトです。ブロックチェーンアプリの開発や導入を迅速かつ低コストで行うためのグローバルなインフラネットワーク構築に取り組んでいます。
規制の関係上、BSNは中国国内の許可型ネットワーク「BSN China Portal」、および海外版の「BSN International Portal」に分離されています。前述した、ネルボスを含む5つのパブリックチェーンは、「BSN International Portal」に統合されました。
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カルダノ
21年6月ネルボスは、PoS系チェーンのカルダノ(ADA)との提携を発表しました。ネルボスおよびカルダノ開発企業IOHKは現在、両チェーン間でのブリッジ構築を目指し、協業で開発に取り組んでいます。ブリッジが完成した場合カルダノは、ネルボスにとってイーサリアムに続く2つ目のクロスチェーン(異なるチェーン間での)ブリッジとなります。
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中国招銀国際金融
中国大手の招商銀行傘下である招商国際金融(CMB International)およびネルボスは、21年5月に「InNervation」という名の下、ブロックチェーンファンドを設立したことを発表しました。InNervationは、ネルボス・エコシステム内またはネルボスに統合予定の、dApp、DeFiプロトコル、分散型台帳プラットフォームおよびNFT分野のプロジェクトを主に対象としています。
ネルボスの共同創設者Kevin Wang氏は、このファンドに関して以下のように述べています。
開発者および開発チームが様々なツールにアクセスし、彼ら自身のdAppやプロトコルを複数のチェーン上で構築、カスタマイズおよび接続できるよう、私たちは尽力してきました。CMBIのサポートを受けたInNervationは、ネルボス上だけでなく、より広範囲のブロックチェーンおよび仮想通貨エコシステム内にて、次段階の開発を促進していくことになるでしょう。
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6. ロードマップ
21年3月に公開されたロードマップによると、以下の開発が21年中に進められる予定です。
- コミュニティのフィードバックに基づいたハードフォーク
- レイヤー2スケーリング・ソリューション開発
- トークンの標準化・規格化
- 開発者向け資料の充実
- EVM互換、普遍的なDeFiアプリおよび顧客参加プロセスにおけるソリューション導入
- エコシステム拡大に向けたプログラム実施