仮想通貨規制の管轄は
米商品先物取引委員会(CFTC)のブライアン・クインテンツ委員は、証券取引委員会(SEC)に暗号資産(仮想通貨)に対する権限はないと発言した。
Just so we’re all clear here, the SEC has no authority over pure commodities or their trading venues, whether those commodities are wheat, gold, oil….or #crypto assets.
— Brian Quintenz (@CFTCquintenz) August 4, 2021
ここではっきりさせておきたいのは、その商品が小麦であれ、金であれ、石油であれ、暗号資産であれ、SECには、純粋な商品やその取引所に対しては、何の権限もないと言うことだ。
クインテンツ委員のツイートは、ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長が、今週行なった講演で、「仮想通貨の大半は、有価証券に該当する可能性がある」との発言を受けたもの。ゲンスラー委員長は、証券市場の監督責任を負うSECに、仮想通貨規制に対する拡大した権限が付与されるべきだと主張していた。
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また、米下院農業委員会の共和党議員は、クインテンツ委員の発言をリツイートし、「クインテンツ委員は正しい。仮想通貨はSECよりも大きい」と述べた。さらに、下院が「投資家とデジタル経済の技術革新を保護するため」のルールを作成するべきだと付け加えた。
さらにクリス・ジャンカルロ前CFTC委員長も、クインテンツ委員を支持する立場を表明している。
Only one US regulatory agency has experience regulating markets for #Bitcoin & #Crypto and it is not @SECGov. It is @CFTC. If #BidenAdministration is serious about sensible #Cryptocurrency #regulation, it needs to nominate a CFTC #chairman.
— Chris Giancarlo (@giancarloMKTS) August 4, 2021
ビットコインと仮想通貨市場の規制経験を持つ唯一の米国の規制機関は、SECではなくCFTCだ。
ジャンカルロ氏は在任中、柔軟な仮想通貨規制を訴え「仮想通貨の父」(Crypto Dad)として業界から親しまれた人物。現在は、非営利団体デジタルドル財団の共同設立者として、米国における中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究開発を支援している。
同氏は、バイデン政権が「良識ある仮想通貨規制」に真剣に取り組むつもりがあるのなら、CTFCの委員長を指名すべきだと付け加えた。CFTC委員長は大統領が任命し上院の承認を必要とするが、現在、5月に退任したヒース・ターバート(Heath Tarbert)前委員長の後継者は、まだ指名されていない。
ビットコインとイーサリアムの分類を明確化
仮想通貨に対する「唯一の規制経験」をCFTCが主張する理由の一つには、ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の規制上の扱いについて明確な指針を示した経緯があるからだろう。
CFTCは2015年より「ビットコインはコモディティ」との判断を主張しており、2017年にはビットコインの先物取引を開始した。2018年3月には、ニューヨーク連邦裁判所がCFTCの定義を支持し、CFTCがビットコインの規制当局としての権限を有するとの判断を下した。この司法判断により、米国におけるビットコインの法的地位が確立し、ビットコインに対する規制が明確化したと言える。
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2019年10月、ターバート前委員長はイーサリアムはコモディティであるとの見解を明らかしている。また、同氏はビットコインとイーサリアムについては、SECも証券でないと判断に同意していると発言した。
このような経緯から、ビットコインとイーサリアムについては、有価証券に該当しないとの評価が定まってきたようだ。
ビットコインについては、ゲンスラー委員長も先の講演で「サトシ・ナカモトのイノベーションは本物」であり、「金融と通貨の分野で変化の触媒となっている」と述べ、高く評価している。
規制当局間の連携は可能か
米国における仮想通貨規制は、今回のクインテンツ委員らの発言にも見られるように、規制当局の管轄に関しても曖昧さが残ると言う問題を抱えているようだ。
CFTCのドーン・スタンプ(Dawn Stump)委員は、規制機関ごとに、監督を行う範囲が定められていると指摘している。
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例えば、CFTCはデリバティブ取引所bitMEXに対し、マネーロンダリング対策や本人確認要件を怠り、未登録のプラットフォームを運営したとして訴訟を起こしている。一方、SECは様々な仮装通貨プラットフォームが行なったICOを証券法違反で訴え、多額の罰金を科してきた。米リップル社に対する訴訟は現在も継続中である。
CFTCは昨年、仮想通貨を「21世紀のコモディティ」とみなし、2024年までに市場の健全な発展を促す規制を確立する計画を発表した。その中で、多様なトークンの分類に関しては、SECの判断も欠かせないと示唆している。そのため、両当局の緊密な連携が進まない限り、米国での明確な規制の枠組みづくりは困難だろう。
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新たな規制法案が提出
今週、米国連邦議会に提出された新たな仮想通貨規制法案は、CFTCとSECの管轄領域をより明確にするとともに、連携を促す内容が含まれているようだ。
ドン・ベイヤー下院議員によって提出された法案「デジタル資産市場構造と投資家保護法」(Digital Asset Market Structure and Investor Protection Act)では、SECにデジタル資産証券に関する権限を、CFTCにデジタル資産に関する権限を与えるとしている。
そのため、仮想通貨市場の時価総額および取引量で上位90%のトークンに関しては、SECとCFTCが共同で規則を作成するものとし、仮想通貨の分類に法的な明確性を提供するというものだ。
米国における効果的な仮想通貨規制整備に、両機関の連携が欠かせないことは明らかだ。