CoinPostで今最も読まれています

仮想通貨ウォレットのプライバシーを巡る規制と課題とは|Gammla Law寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

プライバシー保護と規制の必要性

暗号資産(仮想通貨)やウォレットを使用した金融取引に関して、個人はどの程度のプライバシーを認められるべきなのでしょうか。マネーロンダリングやテロ攻撃のための資金調達などの犯罪が摘発される可能性があると政府が判断した場合、その守秘義務は変更されるべきでしょうか。

米国財務省の一部門である金融犯罪取締ネットワーク(Financial Crimes Enforcement Network, 又は FinCEN)が 「両替可能な仮想通貨またはデジタル資産に関連する特定の取引の要件」(Requirements for Certain Transactions Involving Convertible Virtual Currency or Digital Assets)を検討しており、政府規制当局、暗号愛好家、防衛推進者、市民権活動家がこの問題について議論することが期待されています。

既存の通貨取引報告(CTR)と同様に、この規制は、銀行、マネーサービスビジネス(MSB)、仮想資産サービスプロバイダー(VASP)に記録の保持、情報の確認、FinCENへの報告書の提出を求めるものです。この規則は、非ホスト型ウォレットまたは「他の方法でカバーされているウォレット」が関与する1万ドルを超えるすべての両替可能な仮想通貨(CVC)または法定通貨デジタル資産(LTDA)取引に適用され、顧客のCVCおよびLTDAとその取引相手を記録する必要があるとしています。

さらに、銀行とMSBは、取引が3,000ドルを超え、ウォレットが非ホスト型または他の方法でカバーされているウォレットである場合、顧客の取引相手を特定する必要があります。

この規制案のもとでは、銀行とMSBは、より正確な情報を収集し、それを報告することが求められます。この新規制案は現在のところ、不正なビジネスの資金調達やマネーロンダリングを大幅に防ぐことにより、政府の捜査当局に利益をもたらす可能性があります。

この報告規則案は、最終規則の公表から30日後に発効される予定です。一方、取引先情報の報告義務は、採用されても60日間は発効しません。記録保持の要件も最終規則の公表から60日後に発効されることになります。

これまでの険しい道のり

スティーブ・ムニューシン前財務長官が提唱し、トランプ大統領在任中のレームダック期間に「国家安全保障上の重大な懸念」に対処するために導入されたこのルールは、反対派からは、業界の適切な検証を行わずに規制を強行しようとするものと見られていました。

ルール改正を巡っては、以下のような紆余曲折がありました。

  • ムニューシン前財務長官が率いるFinCENは、前例のない15日間の協議を経て、ウォレットルールの規則提案通知(NPRM)を発表するも、即座に反発が起こる。初回15日間のコンサルテーションは、2021年1月2日に終了
  • 炎上したため、FinCENは2021年1月14日に仮想通貨ウォレット規則の公衆意見聴取期間を45日間延長
  • 2021年1月21日、バイデン大統領は、審査中の財務省のすべての規則制定を60日間凍結
  • FinCENの規制凍結は2021年3月22日に終了

バイデン政権による規則の復活は、仮想通貨が犯罪者やアメリカの国家安全保障を脅かすかもしれない人物に使用される可能性があることにも着目しています。早ければ22年9月にも決定が下されるかもしれませんが、当初の規則に対し発生した公衆意見の数が数千にも達したことから、政府はプロセスを維持するために公衆意見聴取を再開する可能性があります。

プライバシーに関する懸念

この規則案は、仮想通貨を用いた金融取引の実施や、ブロックチェーン上での契約管理という目的の多くを台無しにするものであることは言うまでもありません。この規則案が発令されると、多くの投資家やテクノロジー企業をデジタル資産に惹きつけてきた基本中枢である仮想通貨のプライバシーが失われるなど、高いコストを伴うことになります。

私たちは、何千もの個人を特定できる情報が拡散されるのを目撃しようとしています。取引所がブロックチェーンのアドレス、物理的な住所、名前を政府に提供することを義務付けられた場合、連邦政府は個人のデジタル活動を追跡する可能性があります。これに対し、物理的な現金は追跡不可能です。あなたが銀行から外に出たとき、あなたのその行為を報告できたとしても、あなたを追跡することはできません。

逆に、この規則は、悪質な行為者を追跡するというFinCENの使命を阻害する可能性もあります。新しい報告義務によって悪質業者が米国の取引所から離れたとしても、彼らはFinCENの管轄外のオフショアプラットフォームに移動する可能性が高いのです。

DeFiプラットフォームへの影響

この規則は、取引所、ブローカー、その他の管理者間で実施されなければならず、ユーザーエクスペリエンスに影響を与えることはほぼ間違いないでしょう。個人情報のないウォレットに資金が送られないようにするため、取引所は個々のウォレットアドレスを承認する必要があるかもしれません。ユーザーの保有資産はウォレットに固有であるため、その後の取引はウォレットに反映されます。

FinCENの提案が、DeFiプラットフォーム、取引所、ブローカー、その他の管理人によってどのように実際に実行されるかは不明です。スマートコントラクトには名前や物理的な住所の記載がないため、米国の金融システムとやり取りすることはできないかもしれません。米国金融システム上で企業が仮想通貨を使って多額の支払いを行うには、取引相手の名前と住所を知っておく必要があるからです。ブロックチェーン業界は、法的なグレーゾーンに投げ込まれる可能性があります。

規則が曖昧なため、DeFiで使用された資金が「ホスト型」ウォレットで受け入れられるかどうかは不明確です。もしこの規則案が成立すれば、現在のDeFiは米国で使えなくなります。正しいアプローチが取られなければ、米国はイノベーションと開発において、世界の国々と比べて著しく不利になる可能性があるのです。

この規則への反応

反対派は、この規則が公布された直後に承認プロセスを中断させ、ワシントンDCに拠点を置くデジタル商工会議所のペリアンヌ・ボーリング会長の「プライバシーにおける大きな踏み込み」という評価に多くの人が賛同しました。

皆さんご存知のように、仮想通貨やブロックチェーンの分野では、ウォレットアドレスがあれば、その規制機関に該当する1つの取引履歴だけでなく、その人の全ての取引履歴を過去から未来にわたって把握できるのです」とボーリング氏は述べています。「これこそ行き過ぎた行為であり、私が主張するところの監視国家を生み出す可能性があり、絶対に適切ではありません。

コインベースなどのグループや企業は、すでにFinCENの提案に対応したコメントの起草を始めています。Coin Centerは、プロセスを効率化するために、一般消費者向けのモジュールまで立ち上げています。

適用法令の遵守について

以前の公衆意見聴取期間以来、FinCENはこの規制の大きさを理解したのかもしれません。新政権下で財務省は、延長された公衆意見聴取期間に寄せられた意見に基づいて、この規則案の完成度を高めていくかもしれません。

一般市民は、この貴重な機会を利用して、意見を提供するべきでしょう。その際にはこの問題に精通した弁護士の意見を参考にすることで、あらゆる市場参加者の視点が新規則の策定に反映されることが保証されます。

寄稿者:David Hoppe(デイビット・ホッピ)David Hoppe(デイビット・ホッピ)
Gamma Law(ガンマ法律事務所)代表。デジタル・メディア、ビデオゲームとバーチャル・リアリティーを専門分野とし、最先端のメディア、テクノロジー関係の企業を、25年近くクライアントとしてきました。彼は、洗練さと国際的な視点を兼ね備え、スタートアップ業界、新興企業、またグローバル化使用とする企業の現実を、実践経験から理解する国際的な取引交渉弁護士です。
注目・速報 相場分析 動画解説 新着一覧
10:50
Web3ゲームの4分の3が失敗に=CoinGeckoレポート
仮想通貨データサイトCoinGeckoは、過去5年間でGameFiの4分の3が失敗に終わっているとのレポートを発表した。
10:10
フィリピンSEC、バイナンスの規制違反を指摘
フィリピンSECは、仮想通貨取引所バイナンスは同国で認可を取得せずに有価証券を販売していると国民に注意を促した。現地メディアはSECがバイナンスへのアクセスを遮断するなどと報じている。
08:15
FTX遺産、8.7億ドルの仮想通貨投資信託売却可能に
米デラウェア裁判所は29日、破綻した仮想通貨取引所FTXの債務者側が提出したグレースケールとBitwiseの仮想通貨投資信託の株式に関する売却提案を許可した。
07:45
米3Q実質GDP+5.2% 来年5月までのFRB利下げ観測高まる
米国株は月末で小幅安。第3四半期の米実質国内総生産改定値は前期比で年率5.2%増に速報値の4.9%から上方修正され、21年10─12月期以来の高い伸びとなった。
07:25
C・ロナウド選手、バイナンスとの契約巡り集団訴訟に直面
サッカーのクリスティアーノ・ロナウド選手は、仮想通貨取引所バイナンスのプロモーションに関わったとして、米国で集団訴訟に直面。原告は、同社の有価証券販売に関与したなどと主張している。
06:45
米SoFi、仮想通貨取引サービスを停止へ Blockchain.comへ移行
米オンライン融資仲介サービス大手SoFiは29日、仮想通貨取引サービスの閉鎖および移行計画を発表した。Blockchain.comへの移行が必要となる。
06:05
ブラックロックとInvesco、ビットコインETFの上場申請でSECと再び面談
米SECは現物型ビットコインETFの上場申請について、今週28日に申請側のブラックロック(2度目)・Invescoと会議を行ったことが判明した。ゲンスラー委員長は別のイベントでETF申請についてコメントをした。
05:30
米で13番目のビットコインETF上場申請に、スイスPando
スイスの資産管理会社Pando Assetは米国で、現物型仮想通貨ビットコイン(BTC)ETFの上場申請を行っていることが判明。
11/29 水曜日
21:01
IOTA財団がUAEアブダビ当局と提携、エコシステム成長を促進
仮想通貨IOTAの研究・開発を行うIOTA財団は、UAEアブダビで、金融センターADGMと協力し、プロジェクトを成長させていくと発表した。
18:00
預けるだけで仮想通貨が増える?|CoinTradeのステーキングを解説
出典元:CoinTrade 2023年11月、ビットコイン(BTC)が年初来高値を更新したことをうけ、仮想通貨(暗号資産)業界は盛り上がりを見せています。 一方で「仮想通貨には…
16:28
米財務省 仮想通貨業界への調査権限拡大を議会に要請
米財務省がハマス制裁の一環として仮想通貨業界への調査権限を拡大へ。過激派組織のデジタル資産利用に対抗するための新たな法案を議会に要請し、アンチマネーロンダリング規制を強化する動きを加速。テロ資金の流れを追跡し、国際的な安全保障を高める目指す。
15:33
Coinbase顧客にBybit関連の「召喚状」通知、CFTCの動きに焦点
仮想通貨取引所Coinbaseが規制当局の召喚状について顧客に通知。Bybitの利用歴のあるCoinbase顧客に関する情報提供をCFTCが求める。Bybitは米国サービスを否定もVPNアクセスの可能性あり。Bybitは仮想通貨取引量トップ3で2,000万ユーザーを達成。
14:54
「中国の信用拡大はビットコインへの資本流入を促す可能性がある」ヘイズ氏
仮想通貨取引所BitMEXの共同創業者で元CEOのアーサー・ヘイズ氏は、中国における信用拡大が世界市場に波及し、結果的にビットコインなどのリスク資産全般への資本流入を促進するとの見解を披露した。
14:00
SNS連携のWeb3ウォレット「TIPWAVE」公開
NextmergeがX(旧Twitter)やDiscordユーザーに便利なWeb3ウォレット「TIPWAVE」を発表。SNSとの連携で暗号資産(仮想通貨)とNFTの利用が簡単に。ソーシャルメディアアカウントに対するNFT配布も可能になる。
12:40
ビットコイン投資商品9週連続の純流入、21年11月の「強気相場」以来最大規模に
暗号資産(仮想通貨)市場では、CME(米シカゴ・マーカンタイル取引所)の先物OIがバイナンスを上回る規模を拡大。CoinSharesのデータではビットコインETPなどの投資商品に21年11月以来最大の資金流入を観測した。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア