映画業界におけるブロックチェーン活用
ブロックチェーン技術の健全な普及、発展に貢献するために2014年に設立された業界団体である日本ブロックチェーン協会(JBA)は7月25日、「Web3.0映画への挑戦 / 日本から世界へ。NFTで変わる映画製作の姿」をテーマとしたオンラインイベントを開催した。
イベントには、ブロックチェーンを活用した映画製作に取り組んでいる国際映画チーム「The Rhetoric Star」より、株式会社EDLEAD-japan- 代表取締役 / 映画監督の太一監督、CoinPost / 映画プロデューサーの中辻諒氏、NOMA / ミス・ビットコインでお馴染みのBlockchainPROseed Co-Founder / JBAアドバイザーの藤本真衣氏、数多のアニメ作品を手がけた実績を持つアニメーター / 作画監督の郷津春奈氏が登壇した。
本イベントはJBA定例会の一環として行われたが、一般公開もされている。そのため、The Rhetoric Starのコンテンツ内容よりもブロックチェーン技術やNFTの映画業界におけるユースケースの紹介に重きを置いた内容となっている。
イベントは中辻氏による講演が中心であり、The Rhetoric Starのビジョン、手掛けている事業内容、現在の映画業界の課題、ブロックチェーン技術の活用例、今後のロードマップ等について説明した。
The Rhetoric Starが取り組む映画製作
The Rhetoric Starは、CoinPostと国際映画製作チームNOMAが共同で製作を進めている国際映画だ。暗号資産をテーマに業界の「欲」「闇」そして「希望」を描く100分の実写映画として上映する予定であると語った。
またそれだけでなく、NFTなどのブロックチェーン技術を活用して、これまでの映画業界では実現しえなかったユーザーが映画製作に参加できるコミュニティドリブン型映画として新たな体験機会をユーザーに提供することを目標としている。これを中辻氏は、「映画を観る(watch)から共に創る(Co-create)へ」と表現しており、NFTの利活用で映画の「製作プロセス」そのものに変化を起こすことが可能だと語った。
また太一監督によると、The Rhetoric Starは3本の映画を同時製作しているという。メインとなる実写長編国際映画「The Rhetoric Star」に加え、暗号資産業界の著名人へのインタビューをまとめた長編ドキュメンタリー映画とドキュメンタリー映画をアニメ化した長編アニメーション映画だ。これら全ての映画をそれぞれ国際映画祭の各部門に応募し、受賞を狙っていくと語った。
映画業界の課題と解決策
続いて、中辻氏は映画業界の課題とそれに対する解決策を複数列挙した。
・映画業界における資金不足
現在の映画業界では、国からの支援や国内企業からの投資、クラウドファンディングによる資金調達が主となっている。しかし、このような資金調達方法では、映画制作に必要な資金が十分に集まらないことが多いと言う。また、企業からの投資やクラウドファンディングによる資金調達は、映画制作の一国集中化を助長し、グローバルかつ大規模な映画製作を行うことを妨げることとなる。
資金不足問題を解決するためには、従来の映画業界の資金調達方法を変革する必要がある。また、中辻氏はグローバル規模で資金調達や配給を行うことができるインフラ整備を構築することで、より早く映画業界の資金調達手段の変革を促すことができると語る。
・コンテンツ過多
YouTubeやTikTokなど様々な動画配信プラットフォームが誕生により、現代にはたくさんのコンテンツが溢れている。そのため、消費者の時間の使い方にも変化が生じ、映画のような視聴に長時間を要するコンテンツへの魅力が下がりつつある。
そのため、これまで以上に映画業界は中長期的に話題を作っていくためのマーケティングに注力しなければならないという。太一監督もユーザーに「消費」される映画ではなく、ユーザーが「鑑賞」する映画を製作していく必要があると語った。
・映画の多様性の欠如
また、映画を評価する際に観客動員数や興行収入などの点が過大評価されていることも問題である。近年、映画は芸術作品ではなく、企業などによって「商品化」されつつあるという。特に、複数の企業から共同出資してもらう製作委員会方式を採用している日本では、こうした傾向は如実である。こうした流れの結果、現在はファンがすでに存在している題材を取り上げた映画が多くなり、映画の多様性が損なわれている。
ファンが少ないテーマや題材を映画化するためには、ファンが集まることができる「場づくり」が重要であるという。The Rhetoric Starは、この場づくりにNFTなどのブロックチェーン技術を活用していくと語った。
・映画への協賛の機会不足 / 理解不足
最後に、映画へ協賛する機会が不足していることを問題点として挙げた。中辻氏は、スタートアップが大企業と繋がりを生み出すことが難しいように、映画製作チームも同様の課題を抱えていると説明した。
また、大企業の協賛に対する理解も不十分である。映画へ協賛するメリットとして、オリンピックに協賛することを例に、映画製作に参加して共に作品を作ることで、企業のブランドイメージを向上させることができると語った。
The Rhetoric Starが取り組む映画業界のインフラ構築
The Rhetoric Starは、上記の映画業界の課題を解決するインフラ構築の実現を目指している。この映画は、インフラを構築する第一歩とも言える。将来的には、The Rhetoric Starのインフラ上で様々な映画製作チームが資金調達から上映まで行うことができる環境を作っていくと語っている。
イベントでは、The Rhetoric Starのインフラに実装される予定である機能の一部が紹介された。
- NFT販売:グローバル規模で新作の製作に参画したいファンを可視化
- コミュニティ化:ファンは半匿名で参画、作品の製作過程の公開やイベントに参加できる
- 映像作品への参加の証明:製作に関わった証明としてのNFT、映像自体にファン名など掲載
- マーケティングサポート:参画したファンによる自発的な拡散サポート
インフラ構築の抱える課題
イベントの最後に、中辻氏はインフラを構築する上での課題について言及した。一番大きな課題として、「参入障壁の高さ」を挙げた。The Rhetoric Starが取り組むインフラには、NFTなどのブロックチェーン技術が必須となる。近年ファッションブランドやスポーツチームなど暗号資産業界外の産業にも、NFTは積極的に利用され始めているが、まだまだ発展途上である。NFTに馴染みがない一般層にいかに働きかけるのかが重要だ。
だからこそ、製作映画の最初の題材として「暗号資産」をテーマにしたと中辻氏は言う。まずNFTに理解あるユーザーをインフラに巻き込み、話題性を生む。そして、徐々に業界外の一般層が参加したくなる環境を構築していきたいと語った。
また、インフラ構築を実現するためには、第一弾映画であるThe Rhetoric Starの成功が鍵を握る。そのために、まずはThe Rhetoric Starの成功に全力を尽くしていきたいと語った。
まとめ
NFTなどのブロックチェーン技術がファッションブランドやスポーツチームのような既存エンタメ産業に導入されるケースは年々増加している。The Rhetoric Starは、ブロックチェーン技術を用いて映画業界の変革を目指す。第一弾映画「The Rhetoric Star」は、2年後に公開予定である。
業界初の取り組みということもあり、直面する課題も多いと予測できるが、今後の活躍に期待したい。中辻氏はTwitterで適宜情報を発信していくと語っていたため、映画業界とブロックチェーンの融合について興味ある方はそちらも確認すると良いだろう。
「The Rhetoric Star」日本語Twitterはこちら
「The Rhetoric Star」English Twitter