
ビットコインをイーサリアムなど他のブロックチェーンで活用できるようにする分散型プロトコル「tBTC」が、日本市場への本格参入を進めている。
2020年のローンチ以来、一度もセキュリティインシデントを起こすことなく安定稼働を続けており、現在では約7億ドル規模の資産がロックされている。
今回、tBTCの開発と成長戦略を主導するThreshold Labs共同創業者のSap Sarre氏に、日本での幼少期の経験、分散型ビットコインブリッジの技術的優位性、そして日本市場での展開戦略について話を伺った。
インタビュイー紹介

Callan Sarre氏(通称:Sap)
Threshold Labs 共同創業者兼CPOで、2017年から暗号資産業界で活動。DeFi分析コンサルティングを経て、2022年にThreshold DAOでtBTCの流動性戦略を主導。2024年にはAcre Protocol創業チームに参加。「ビットコインは最も安全でありながら、DeFiで最も活用されていない資産」という課題の解決に取り組む。
日本での原体験とブロックチェーンへの道
日本での成長期について、その経験がどのように世界観を形作ったのか教えていただけますか。
横浜近郊で幼少期を過ごしました。ポケモンブームの最盛期という恵まれた時代でした。50カ国以上の国籍の生徒が通うインターナショナルスクールに通い、グローバルコミュニティに属する感覚を身につけながら、同時に日本文化の秩序と安全性の中で育った経験が、現在の活動に大きな影響を与えています。
ブロックチェーン技術への自然な親和性を持てたのも、この経験があったからかもしれません。ブロックチェーンは、人類がつながり、協調するための包括的な方法であり、グローバルな規模で構築されています。違いを尊重しながら共通の目的に向かって働くという考えは、今も私の中に残っています。
日本の文化的価値観、例えば「暗黙の了解」やセキュリティと精密さへの重視が、暗号技術への関心にどう影響しましたか。
三渓園を家族と訪れた際の記憶があります。幼少期でしたが、その風景のシンプルな優雅さに感銘を受けました。認知的というより感覚的な体験でしたが、その印象は今も残っています。デザインにおけるシンプルさを追求し、日本の簡潔さと精密さの美学からインスピレーションを受けています。
当時の日本は技術革新の最前線にあり、ソニーのような企業がリードしていた時代でした。東京を訪れて初めてカシオの時計を購入した際は、未来への一歩を踏み出したような感覚でした。2002年には、ウェブブラウジングとポケモンプレイが可能な折りたたみ式ハンドヘルドコンピューターのデザインを手描きしていました。
分散型ソリューションへのこだわり
Web3において、なぜThreshold Labsは分散型・非管理型ソリューションに注力しているのでしょうか。
Thresholdはビットコインと同じ原則に基づいて設立されました。詐欺や共謀に対して堅牢で、スケーラブルで、当事者間の信頼を維持するシステムが必要です。中央集権型システムが汚職や操作に対して脆弱であることは歴史が証明しています。人間ではなく、数学とコードによって信頼性が担保されるシステムの方がより堅牢といえます。
Thresholdは2020年に稼働を開始しました。これはCelsiusやBlockFiなどの中央集権型サービスの破綻よりも前のことです。市場のトレンドに追従したのではなく、創業チームとコミュニティの信念に基づいてプロトコルを構築しました。その後のCelsius、BlockFi、renBTCの崩壊により、この方針の正しさが証明されました。
Thresholdは現在、最も歴史のある許可不要のBTCfi実現プロトコルであり、安定性が実証されています。分散化は理想論ではなく、実質的なセキュリティ機能となっています。
日本市場への適合性
日本の投資家は安全性と最小限のカウンターパーティリスクを重視します。Thresholdの閾値暗号技術モデルはこれらの懸念にどう対応していますか。
Thresholdの安全性は、堅牢な監査と継続的な監視手順に加えて、実世界の証拠によって実証されています。プロトコルは2020年以来セキュリティインシデントなしで稼働しており、現在約7億ドルのTVLを維持しています。
閾値暗号
秘密鍵を分割保有し、一定数の合意で署名を生成する暗号技術。
その安全性は以下の3つの主要な特徴によるものです。
現在はBTC保有者がスマートコントラクトシステムに資産を信託する必要がありますが、異なるセキュリティ保証を求めるユーザーの存在も認識しています。チームは、コア原則を維持しながら、これらの異なる要件に対応できるソリューションを開発しています。これにより、各国の規制環境に適合する製品の提供も可能になります。
相互運用性とエコシステム展開
ビットコインL2やアジア中心のチェーンの台頭に対して、相互運用性にどのようにアプローチしていますか。
相互運用性はThresholdとtBTCの設計の中核にあり、BTCfiエコシステム全体で流動性を統合することが目標です。新規チェーンへの展開と同時に、資本展開時の摩擦を最小化するための効率的なBTC預金経路の確保、そして高い流動性の維持に注力しています。
Thresholdは独自のポジションを確立しています。独自のBTCラッパーを展開するビットコインL2とは異なり、私たちはチェーンに依存せず、エコシステム全体をカバーしています。実行環境を問わず、開発者がビットコインを活用した構築を行えるようサポートし、これらの開発プラットフォームを重要なパートナーと位置付けています。
BTCラッパー
ビットコイン(BTC)を他のブロックチェーン(例: イーサリアム)で利用可能にするトークン。WBTCなどの形で1:1でBTCにペッグされ、DeFiやスマートコントラクトでの活用を可能に。
最近の展開として、Mezo、Sui、Starknetへの展開が完了し、Seiでの立ち上げも予定されています。また、フロントエンドの刷新により、ユーザー体験が大幅に向上する予定です。
日本企業のBTC活用とDeFi機会
Metaplanetのような日本企業がビットコインを財務資産として採用していますが、主に静的に保有しています。tBTCはどのような機会を開けますか。
財務企業も他のビットコイン保有者と同様の課題に直面すると予想されます。すなわち、BTCから収益を生み出す方法です。企業は収益創出に貢献するソリューションを求めるでしょう。DeFiは優れた信頼性、セキュリティ保証、統合性を提供するため、有力な選択肢になると考えています。
メタプラネットのようなトレジャリー企業は、DeFiネイティブユーザーとは異なる要件を持っています。つまり、彼らのニーズに合った製品を設計する必要があります。幸いなことに、Thresholdはこれを可能にするのに十分な柔軟性を持っています。
将来的には、許可不要のエコシステムと規制された製品スイートという2つの並行したエコシステムが出現する可能性があります。しかし、ネットワーク効果が無視できないほど大きくなるため、長期的にはDeFiが勝利すると期待しています。将来的には、グローバルファイナンスの新しい理解に合わせて規制が変化するかもしれませんが、それまでは業界の現状に合わせて対応します。
アジアにおけるビットコインの未来
今後数年間でアジアにおいてビットコインが収益を生む資産として進化するために、最も重要な開発は何だと思いますか。
端的に言えば、UXとディストリビューション、そして規制(ディストリビューションに影響する範囲において)が重要です。BTCのコア技術は創設以来大きく変化していませんが、人々の認識は変化しています。他の資産や市場との差別化要因が理解され、ビジョンが共有され始めています。
ディストリビューション
暗号資産やサービスをユーザーに広く提供・普及させるプロセス。
しかし、多くの人々が暗号ウォレットを使用したり、秘密鍵を自己管理することは現実的ではありません。ビットコインへの需要が高まる中、重要なのは、銀行プラットフォーム、モバイルアプリ、ソーシャルメディアなど、人々が慣れ親しんだプラットフォームを通じてアクセスを提供することです。分散型インフラ上に構築することで、従来のプラットフォームのリスクを回避しながら、ビットコインとBTCfi(融資、利回り獲得、レバレッジ)へのアクセスを実現できます。
Thresholdは、ビットコインを使用するための最も安全なインフラストラクチャを実行することで、このイニシアチブをリードしています。私たちの目標は、最高の流動性とユーティリティで新興ビットコイン経済を支え、お金についての考え方のパラダイムシフトをリードする資産としてのビットコインのビジョンをサポートすることです。