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失われた秘密鍵:カナダ仮想通貨取引所「QuadrigaCX」事件再発をどう防ぐのか|LongHash考察

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

失われた秘密鍵|浮き上がる鍵管理の問題
QuadrigaCXのCEOであり、唯一の鍵管理人Gerald Cotten氏が急死した結果、1億ドルの価値に及ぶ仮想通貨を引き出すことが不可能となった。この問題は世間で大きな議論を巻き起こしている。再発防止に求められることとは?

失われた秘密鍵|浮き上がる鍵管理の問題

本記事は、LongHashの共同創設者であるJames Gong氏によってlonghash.com上で寄稿されたものです。公式からの依頼を受け、翻訳掲載を行なっています。

QuadrigaCXのCEOであるGerald Cotten氏が急死した結果、1億ドルの価値に及ぶ仮想通貨を引き出すことが不可能となった。この問題は大きな議論を巻き起こし、仮想通貨市場のみならず、金融業界にもこの話題は波及した。

Cotten氏は、カナダ有数の仮想通貨取引所「QuadrigaCX」の共同設立者であり、コールドウォレットの秘密鍵を持つ唯一の人物だった。

インド旅行の最中に、クローン病によって引き起こされた合併症が急死の原因とみられるが、結果として、ウォレットに保存されていたトークンにアクセス出来なくなった。

仮想通貨の世界では、詐欺が溢れかえっており、同氏の死にも疑いの目が向けられ、提出された死亡診断書の信ぴょう性など、Cotten氏の死に関わる出来事全てに、多くの人が猜疑の念を抱いた。

ただ、この話題は一旦保留にしよう。

このニュースは巨大メディアにも大々的に取り上げられ、仮想通貨仲介業者のセキュリティ・レベルについて、懸念も社会の間で広まっている。

事の顛末はどうであれ、仮想通貨市場全体に影を落としたことは事実だ。このことは間違いなく仮想通貨の評判にダメージを与え、過去にもハッキング事件や詐欺などにより、多くの仮想通貨投資家が被害に遭ったことなどからも、世間の人々も、仮想通貨というものは、人為的ミスや不手際によって資金が失われる潜在的リスクがあるものだと認知していることだろう。

ただ、今回のQuadrigaCXの出来事は、秘密鍵の管理法の見直しや、ブロックチェーン、仮想通貨について学ぶ絶好の機会といえるだろう。

鍵とは何か

‘鍵’という言葉は、すこし誤解を招くかもしれない。なぜなら、暗号学の分野では、’鍵’は、鍵と錠といったようなイメージだからだ。

代表される暗号システムでは、公開鍵と秘密鍵を組み合わせて利用する。

公開鍵はドアをロックするためのもので、すれ違った誰もが、その鍵を見ることができ、もし鍵が開けられれば、家に入ることができる。

ただ、鍵穴と合致した鍵でなければ扉を開けられないように、秘密鍵無しでは、開錠することはできない。

もう一つ例を上げると、電子メールアドレスとパスワードのようなものだと言えるだろう。

公開鍵は電子メールアドレスで、誰でも確認することができる。ただ秘密鍵のように、パスワード無しには中身を閲覧することはできない。

ただ正直なところ、暗号学のコンセプトを教えることで、ブロックチェーンが普及するかといえば、そうとは言えないだろう。

秘密鍵とは何かを理解したところで、結局どんな意味があるのだろうか?

すでに現金やクレジットカードの理解が浸透している中で、新しく一見複雑なシステムを使いたいとは思わないだろう。

そのため、開発者は、秘密鍵・公開鍵の存在感を薄めることに努めなければならないのでないだろうか。

そうすれば、利用者は公開鍵や秘密鍵の仕組みを学んだり、利用する必要が無くなる。

このように鍵の理解を必要とせず、紛失する恐れを取り除いた形のシステムが作り上げられることが理想だろう。

既存の解決策:コールドウォレット

トークンを安全に保管するために最も安全な場所は、コールドウォレットあるいは、インターネットから隔離されたウォレットだ。

また金融業界においても、これが標準となっている。

ただ、銀行利用者は口座を復号するために「鍵」を必要としない。代わりに、ユーザーネームやパスワードが利用され、さらにハードウェアキー、SMS認証なども用いられることがある。

仮想通貨企業も、トークン保有者のために、同様の方法での解決を試みている。

それら問題の解決に向け、もっとも開発されているものはハードウェアウォレットで、それを利用することで、トークンをより簡単で安全に保管できる。

ただ持ち運びの利便性に欠けることもあるため、例えば、スマートウォッチに内蔵しようとすれば、かなり高度な製造技術が要求される。

さらに言えば、すでにスマートウォッチを持っている人が、新たなブランドへと切り替えたり、二つ時計をつけることは考えにくいため、交換可能な時計ベルトの中に組み込むほうが良いかもしれない。

ほかにも問題がある。スマートウォッチに利用されているOS(大半がアンドロイド)には、攻撃を受けやすい点が一つある。

それは充電ポートで、そこでは一般的にデータの送信や受け渡しが行われる、高価なものでもある。

また、俯瞰的にみると、ハードウェアウォレットは根本的な問題解決とはならない。

仮想通貨の保管がより簡単で安全になるが、依然として、ユーザーはプライベートキーをメモしておく必要があり、もしそれらを忘れたり、紛失した場合、仮想通貨も失われてしまう。

それゆえ、現時点ではハードウェアウォレットは最善策ではあるが、完璧からは程遠くなっている。

技術的解決策:鍵を欠片に

どうすれば、鍵の仕組みを知らずに利用できるようになるのだろうか?

1つの提案は、鍵を複数のピースに分けるというものだ。

それは、 シャミアの秘密分散法というアルゴリズムを使えば実現できる。

これを行うことで、鍵を複数のピースに分け、それぞれを様々な人に送ることができる。

ただ元の鍵を復元する必要があるため、分解できるピースの数には制限がある。

これは、マルチ・シグネクチャアルゴリズムの1つで、保有者のソーシャルコネクションにシグネチャの断片を分散させるというものだ。この概念を採用しているプロジェクトは数多く存在している。

メインソーシャルネットワークが存在している限り、パスワードを復元することが可能となる。

これを利用したプロジェクトの一つは「Vault 12」で、暗号化され、信用のおける家族や友人などによって構成された分散型ストレージネットワークとなっている。そして、かれらが、ユーザーキーの断片を保存する。

その他の事例には「Tenzorum」も挙げられる。同プロジェクトでは、異なった非中央集権ネットワークにアカウントを持つユーザーを支援するための分散型鍵管理システムの開発が行われた。

「Tenzorum」では、シャミアの秘密分散法のアルゴリズムを通して鍵を分割し、Web of Trustのネットワークトポロジーに基づいて暗号化される。

もし必要であれば、ユーザーは分割化された鍵を収集・復元し、Web of Trustを用いることで、アセットへのアクセスが可能になる。

分割された鍵をソーシャルネットワークに保存するというアイデアは、一定の魅力があり、ソーシャルネットワークが損なわれない限り、アセットを復元することができる。

ただソーシャルネットワークは、必ずしも必要ではない。「PlanON」のようなプロジェクトでは、SMPC(Secure Multi-Party Computation)を利用することで、複数のパーティ同士が互いの信頼や理解を必要とせずに、鍵管理することができる。

マルチパーティー計算は、重要な暗号法の一つで、この目的は、信用のないパーティが、互いのプライバシーを保護しつつ、協力して計算処理を行うことだ。

オリジナルのデータを誰にも公開することなく、複数のパーティによって実施される。

こうすることで、「 QuadrigaCX 」のように、たとえオリジナルの鍵が失われても、鍵の持ち主のネットワークに分散化され保存されているピースを復元することが可能となる。

このように、様々な策が施されているものの、まだ仮想通貨業界では、企業が提供する利用可能なソリューションは存在していない。おそらく、将来的に今日の取り組みがいずれ成功し、導入されることになるのだろう。

リスクのある解決策:物理的仮想通貨

物理的な仮想通貨という考えは、矛盾している様だが、論理的には、トークンを特別なチップに埋め込まれた秘密鍵で保存することは可能だ。

仮想通貨にアクセスするためには鍵が必要なため、チップを運ぶということは、物理的にビットコインを運ぶようなものとなる。

ビットコインがまだ、まったく理解されていなかったころ、ビットコインに馴染みのない多くの人は、eBayやタオバオで物理的ビットコインとなる記念コインを購入していた。

2015年には、BTCCが実際に本物の物理的なビットコインの生産販売を試みていた。

ただ、その時は技術があまりにも未熟だったため、結果として、とても脆弱なものとなった。

それは単純に、生産されたコインの片面に秘密鍵を印刷し、それをスティッカーで覆ったものだった。

その秘密鍵を見れば、保有者に知られることなく、誰でも送金を行い、ビットコインなどの実在する仮想通貨を盗難することができる。物理的ビットコインは、少し人気を見せたものの、最終的には徐々に消えていった。

ただ、どんどんとビットコインやその他の仮想通貨への投資熱が注がれるにつれて、クオリティの高い物理的なビットコインが市場参入しようとしている。

実は、TangemやeNotesのように、新たに進化した物理的仮想通貨はすでに凄まじいデビューを遂げている。

最もよく取られるアプローチは、秘密鍵を組み込み式の暗号化されたチップに保存する手法だ。

内蔵された仮想通貨は移動できるが、秘密鍵は永遠に移動をさせることはできない。

実在コインの残高を確認するためには、スマホのようなデバイスで読み取る必要がある。

その内蔵されている仮想通貨はブロックチェーン上に記録されているため、残高を偽造することは不可能だ。

物理的仮想通貨の賛否は、キャッシュでのそれと似ている。物理的仮想通貨を失えば、取り返しがつかない。ただ一方で、コンピュータや暗号の知識がなくても、簡単に安全を確保することができる。

仮想通貨の普及に関して言えば、購入方法やトレード方法、保存の仕方などが現金の扱いと似ているため、物理的ビットコインが一般人の仮想通貨利用への参入障壁を下げるために重要な役割を果たすものと思われる。

そうすることで、より多くの人が仮想通貨市場に参入するだろう。

ビットコインを簡単に理解でき、使えるようにすることは大変重要だ。

上述したようなアプローチを取ることで、実質的に、どのような仮想通貨やトークンも物理的にものにすることができる。

この手法はUSDTのような法定通貨とペッグされた仮想通貨にも応用が可能だ。

数百億ドルものステーブルコインが小さな物理的コインの中に保存され、簡単に送金ができるようになると想像するとどうだろうか。

一部の投資家には、大変魅力的に映ることだろう。あるいは、自国通貨の安定性が著しく欠けているような国々でも、大いに重宝されるだろう。

また、ナカモトサトシが提出したホワイトペーパー「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」に記述されていた、ビットコインの特徴である匿名性についても触れなければならないだろう。

ここ数年の経験からも、ビットコインの匿名性が当初の設計ほどないことは明らかとなっている。

物理的ビットコインが、物理的ビットコインを用いて行われたオフライン取引をオンチェーンデータ上でトラッキングを不可能とする、法定通貨よりも全てにおいて優れた特徴をもたらす、ビットコインの完璧な匿名性に向けた最後の望みとなる。

結論

ブロックチェーン技術や仮想通貨のマスアダプションを進めるためには、仮想通貨の理解や利用法が容易にならなければならない。

今のところ、仮想通貨のマーケティングやプロモーションを通じて、人々のリテラシーを高めようとしているが、それだけでは既存の金融市場の人々を仮想通貨市場へと移動させることはできない。

最善の策は、やはり、鍵の役割やエンドユーザーの利用を単純化させることだろう。

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