- 「第一価格オークション」の下ではユーザーの入札戦略が複雑化する
- イーサリアムで各ユーザーがGas Priceをトランザクション手数料として設定する仕組みは、「第一価格オークション」と同等のメカニズム担っている。このメカニズムの下では、ユーザーが最適なトランザクション手数料で落札をする戦略を考える際、その戦略が大変複雑になる。
- 「均一価格オークション」の下ではマイナーに攻撃余地を与える
- トランザクション手数料の入札方式に「均一価格オークション」を用いると、ユーザーの最適な戦略はシンプルになる。一方、このオークション方式の下では、マイナーが自身の収益を最大化するために戦略的な行動を取る可能性がある。
- Buterin氏らは代替的なメカニズムを考案中
- 上記のオークション方式の問題を解決すべく、Buterin氏らは新たなメカニズムを考案している。これらのメカニズムは数学的には完璧でないものの、イーサリアムの実用性を向上させるのに役立つだろう。
6月下旬から、イーサリアムネットワークのトランザクション手数料であるGas代が大幅に高騰し、dAppsユーザーや高い取引手数料を支払えないユーザーが不便を強いられています。
Gas代の高騰はイーサリアムにとって重大な問題であり、イーサリアム開発者らはユーザーの利便性を向上させる方法を考案しています。
イーサリアムの創業者であるVitalik Buterin氏(以下、Buterin氏)は、今回のGas代高騰を受けて、Gas代を決定する新たなアルゴリズムについて記述しています。
One proposal for improving stability and user-friendliness of gas price markets: https://t.co/1AXsan7u9c
— Vitalik "Not giving away ETH" Buterin (@VitalikButerin) July 2, 2018
Not dependent on Casper, sharding or abstraction; if well reviewed and people agree it's a significant improvement, it could technically be implemented as a change to mainnet
現時点ではイーサリアムなどのブロックチェーンが「第一価格オークション」と同等の手数料決定メカニズムを採用していますが、Buterin氏は代替的なオークション方式についても言及しています。
以下では、それぞれの手数料決定メカニズムの利点や問題点を解説します。
イーサリアムなどが採用する「第一価格オークション」とは
ビットコインやイーサリアムのようなブロックチェーンでは、トランサクションに手数料を設定することで、マイナーにトランザクションを承認させるインセンティブを与えると同時に、トランザクションの優先順位を決定するメカニズムが用いられています。
ユーザーは自身のトランザクションが早急に承認される必要性に応じて手数料を設定し、マイナーは自身の収益を最大化するために、より高い手数料が設定されたトランザクションを優先的に承認しようとします。
現時点では、ほとんどのブロックチェーンは「第一価格オークション」と同等のメカニズムを採用しています。
このオークション方式は、全員が入札額を提出し、落札者は自身の入札額と等しい価格を支払います。
「第一価格オークション」の問題点
「第一価格オークション」の問題点は、各ユーザーが最適な入札額を提出しようとすると、その戦略がとても複雑になってしまうことです。
例えば、あなたが今すぐ承認されるトランザクションに対して、10ドルの価値があると考えているとします。
この時、あなたは10ドル以下でこのトランザクションを落札すれば、得をする計算になります。
しかし、もしあなた以外の人がそれぞれ1ドル、2ドル、3ドル、4ドルを入札した時、あなたは例えば5ドルを入札額とすることで、あなたの真の評価額である10ドルよりも、はるかに低い額で落札をすることができます。
このオークション方式のもとでは、各ユーザーの最適な入札額を導出するためには複雑な経済学のモデルやブロックチェーンの実際の利用法を考慮しないといけません。
代替的な入札メカニズム「均一価格オークション」とは
このメカニズムの代替案として、「均一価格オークション」と呼ばれるオークション方式があります。
これは、全ての落札額を「落札者の中で最低の入札額を表明した人の入札額に設定する」オークション方式になります。
このメカニズムのもとでは、ユーザーの評価額がいくらであっても、ユーザーの入札戦略はとてもシンプルなものになります。
例えば、あなたのトランザクション評価額が10ドルで、あなた以外のユーザーの入札額が1ドル、2ドル、3ドル、4ドルであるとします。
そして、マイナーは高い方から3つ分のトランザクションを選択するとします。
もしあなたが戦略的に5ドルを入札した時、このオークション方式のもとでは3ドル、4ドル、5ドル(あなたの入札額)を入札したユーザーのトランザクションが承認され、あなたを含めた各ユーザーは、一律で3ドルを支払うことになります。
一方、もしあなたが正直に10ドルを入札した時も、3ドル、4ドル、10ドル(あなたの入札額)を入札したユーザーのトランザクションが承認され、あなたはやはり3ドルを支払うことになります。
つまり、あなたは戦略的な行動をして、真の評価額(ここでは10ドル)と異なる入札額(ここでは5ドル)を入札したとしても、得をすることはありません。
「均一価格オークション」の問題点
一度にブロックに組み込まれるトランザクション数が十分に多い場合、このメカニズムの利点は実現します。
しかしながら、イーサリアムネットワークの文脈での「均一価格オークション」には2つの問題点があります。
第一に、ブロック承認者は自身のトランザクションを自由にブロックに組み込むことができます。
そして、落札価格を釣り上げることで、自身の収益を上げることができます。
第二に、ブロック承認者は何人かのトランザクション承認者と共謀する可能性があります。
共謀したユーザーは、自身の真の評価額よりも高い入札額を提出し、落札価格を引き上げる可能性があります。
このように、「均一価格オークション」の下では、一人のユーザーが真の評価額と異なる入札値を提出するインセンティブがないものの、複数人が共謀して戦略的な行動をするインセンティブは排除できません。
どちらの問題も「均一価格オークション」のもとでは起こりうるケースですが、「第一価格オークション」のもとでは起こりません。
Buterin氏は、よりよい手数料決定メカニズムを考察中
イーサリアム開発者の目標は、ユーザーのトランザクション手数料の入札戦略を単純化すると同時に、マイナーの戦略的行動を防止するメカニズムを考案することです。
Buterin氏が考案した代替的なメカニズムの一つは、数学的には完璧でないものの、実践上のほとんどのケースで、マイナーの戦略的行動を防止し、ユーザーフレンドリーなメカニズムになっています。
さらに同氏は、ユーザーが自身のトランザクションに関して「5ブロックが生成されるまでの間に承認してほしい」などといった具体的なオプションにも対応できるメカニズムを考案中です。
これらのメカニズムが実際にうまく機能するかは分かりませんが、Gas代高騰などの実用上の問題に対して、イーサリアム開発者らが日々様々な改善案を考案しているのは確かです。