仮想通貨投資家から取引所社員へ
「日本の仮想通貨業界を変えたい」
仮想通貨メディアCoinPostの取材に応じた、国内仮想通貨取引所bitFlyerの「ハル」とTAOTAOの「仮想NISHI」は、開口一番そう語った。2人は、仮想通貨業界のインフルエンサーとして活動するなかで、業界の可能性に惚れ込み、仮想通貨取引所への転職を決意したという。
新しい風を起こすべく、他業界から即戦力として加わったハル氏と仮想NISHI氏は、「今現在の仮想通貨・ブロックチェーン業界だからこそ面白い。少しでも良い方向に変えていければ。」と意気込みを語った。
本インタビューは、仮想通貨業界の”リアル”に本音で斬り込みつつ、コインポストを交えた対談形式の2部構成でお届けする。
- ハル
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bitFlyer社長室所属。bitFlyerグループ全体のPRとbitFlyer Blockchainにてブロックチェーン事業の新規開発を担当する。ソフトバンクグループ社長室から2019年3月にbitFlyerへ入社。
個人Twitter:(@kasou365)
取引所Twitter:(@bitFlyer)
- 仮想NISHI
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「新しいお金。新しい世界。」を掲げる仮想通貨取引所TAOTAOのクリプトアナリスト。仮想通貨トレーディングツール、DECOCHARTやTASKALの企画・監修者としても携わる。
個人Twitter:(@Nishi8maru)
取引所Twitter:(@taotao_ex)
大手企業から仮想通貨業界へ
CoinPost各務
今回は、仮想通貨業界でも異色の経歴を持つお二方にお集まりいただきました。貴重な機会をありがとうございます。まずは、簡単な挨拶をどうぞ。
ハル
業界のリーディングカンパニーのbitFlyerは、新規参入者には負けません。
大手資本を使い、TAOTAOはすぐさまキャッチアップします。
仮想NISHI
CoinPost各務
おっと、さっそく火花が飛び交ってますね!面白い舌戦が期待できそうです。
ところでお二人は、どうして一ユーザーから仮想通貨取引所社員という道を選ばれたのでしょうか?
私はある意味、ユーザーから国内取引所へと送り込まれた「刺客」だと思っています(笑)
2014年のMt.Gox事件も経験した私は、仮想通貨業界を長く見てきたトレーダーの一人でもありますが、正直なところ、国内取引所よりも海外の大手取引所であるBitMEXやBinanceなどを主戦場にしてました。
というのも、国内取引所は、海外主要取引所と比較して情報開示性が低く、(FXなどの)制度も複雑で、個人的にサービスが使いづらいと感じていたからです。実際に、日本の出来高は”仮想通貨バブル”と言われた17年以降、下落基調にあります。
このようなトレーダーの抱えるジレンマみたいな不満は、CoinPostなどの仮想通貨メディアを通じて度々主張してきましたが、仮想通貨取引所の動きは鈍い。このままでは、日本の仮想通貨取引所、ひいては将来のブロックチェーンの発展に禍根を残すことになる。
ならば、自ら仮想通貨取引所に転職し、改革すべく一石を投じようと。これが日本人投資家の要望を掲げて、業界内部から変えていく「刺客」という意味です。
仮想NISHI
ハル
私は、仮想通貨を含むブロックチェーン業界全体にとても大きな未来を感じています。
前職のソフトバンク孫社長は、情報革命が起こることを確信して、IT業界に身を置き大成功しました。私は近い将来、ブロックチェーン革命で世界が変わると信じており、成長ステージにある仮想通貨やブロックチェーン業界で、自分自身もチャレンジしてみたい、と考えるようになりました。
そんな時に、ふと参加したブロックチェーンイベントで、仮想通貨取引所をグローバルに展開し、さらに独自開発したブロックチェーン「miyabi」を武器にするbitFlyerと出会ったんです。
「仮想通貨とブロックチェーン事業の両方に全力でチャレンジ出来る会社はここだ!」と直感し、入社を決意しました。
入社してから1年が経ちますが、もっともっと多くの人に仮想通貨のことを知って、興味を持ってもらいたいですね。また、ブロックチェーン大国として日本が世界に打って出るべきだとも考えていて、bitFlyerから挑戦していきたいです。
CoinPost各務
仮想通貨大国としての日本市場復活を目指すNISHIさんと、ブロックチェーン大国としても日本の地位向上を目指すハルさん。共通の志を持ちつつ、違う角度からも見ていると。
ブロックチェーン大国・・・素晴らしい。 私がTAOTAOに入社した理由は、変なしがらみや大人の事情がなく、より良い制度を作っていけると感じたからです。
TAOTAOが私を選んだわけではなく、私がTAOTAOを選びました(笑)ここが重要で、仮想通貨ユーザーの話を親身になってくれる荒川社長が率いるTAOTAOだからこそ、新たな形の日本の取引所を目指していけるのではないかと。
仮想NISHI
私たちは、挑戦し続けたい
ハル
bitFlyerは日本だけでなく、アメリカ・EUへも仮想通貨取引所を展開しており、先日グローバルでのお客様数が250万人を突破しました!本当にありがとうございます。
プレスリリースこれだけ多くのお客様から資産をお預かりする中で、我々は2018年1月に掲げた「bitFlyer セキュリティ・ファースト」主義を実践しています。bitFlyerはハッキング被害ゼロを継続しており、お客様に安心してお取引いただけるように取り組んでいます。
自社だけではなく、国内の仮想通貨交換業の会員企業の皆さまと業界全体が健全に発展していくための取組みを行うなど、業界全体の底上げも図っていきたいと考えています。(具体的な内容は別の機会にご報告します)
まずは国内で取り組み、世界へと拡大してゆく。日本でも、世界でも、安心して仮想通貨を扱っていただきたい。これが私たちbitFlyerの挑戦です。
私たちが掲げるのは「顧客満足度」の国内最高峰。これが、実現したい挑戦ですね。
ユーザーが作った仮想通貨トレーディングツール「DECOCHART」「TASKAL」に携わる際に感じた仮想通貨取引所への不満は、TAOTAOで改善に役立てることをお約束します。また、私が気付かなかったユーザーからの不満等も積極的に耳を傾けることをお約束します。
TAOTAOは後発で、まだまだ成長過程なので大言壮語かも知れませんが、批判されてこそ一流だと考えています。CoinPost読者はどんどん批判してください。TAOTAOに向かって不満をぶつけてください。
社長の荒川(@arakawa_taotao)も、自ら運用するSNSアカウントでユーザーの意見に耳を傾けることを重視していますが、それだけ参考になると考えているからです。
仮想NISHI
ハル
お客様の声から学ぶことって本当に多いですよね。私自身も入社前は、「外から意見を出していた側」なので、引き続き皆さんからご指摘・ご批判をいただければありがたいです。
お客様の声に耳を傾ける一方で、仮想通貨やブロックチェーンは分かりにくいと言われることも多いので、世の中に対して積極的に情報を発信していくこともとても重要と考えています。
当社グループも公式Twitterでの発信のほかに、加納(@YuzoKano)や金光(@KanemitsuMidori)がTwitterで業界の動向などを発信したり、社員によるブログも開始しました。こちらもぜひご覧頂きコメントなどいただけるとありがたいです。
ブログは一例ですが、より仮想通貨やブロックチェーンを”身近に感じてもらうこと”が大事なことだと考えていますので、継続的に情報配信を行なっていきたいです。
私が寄稿してもいいですか(笑)
ぜひ、一緒に露出を図って一緒にやっていきましょう。
仮想NISHI
ハル
やりましょう!(連携実現?)
取引所の内側からみた業界事情
CoinPost各務
入社してから意外に感じたことはありますか?
ハル
3点あります。
1点目は、bitFlyerは金融機関として、コンプライアンスやセキュリティ対策を非常に重視した会社だと感じました。「ここまでやってるんだ」、という印象を持ちましたね。
2点目は、エンジニアの技術力の高さです。bitFlyerのスマホアプリである「bitFlyerウォレット」には、「究極の体験をお手元に。」というエンジニアのこだわりが詰まっています。また、独自ブロックチェーン「miyabi」のコア開発を行い、数少ない日本発のブロックチェーンプラットフォームとして頑張っています。
3点目は、デザインへのこだわりです。プロダクトへのデザイン愛だけでなく、オフィスデザインやグッズに至るまでbitFlyerブランドを常に意識して演出している点です。先日、ふとグッズ自慢をしたら「欲しい!」と沢山声を頂いたのもうれしいですね。
国際色豊かな多様な人材と、年功序列のない組織の中で、日々ワクワクしながら仕事をできる環境はとてもありがたいです。
TAOTAOでは、社内文化もあると思いますが、社長からのトップダウンによる意思決定というより、ボトムアップで物事が進んでいることが多いですね。これは、仮想通貨の成り立ちにも一致するものがあります。
仮想NISHI
CoinPost各務
仮想通貨取引所では、ユーザーコミュニティはどのような立ち位置で認識されているのでしょうか?
コミュニティは重要視していますね。
仮想通貨は法定通貨と違い、技術を基に作られていて、その技術開発を行う人たちは、コミュニティ・通貨ファンの善意によって支えられている側面があります。その技術者を含めコミュニティを支えていく事が、TAOTAOとしてまだ十分に出来ていないと考えています。
伝統工芸の技術のようなもので、一度絶やしてしまうと、復活させるのは極めて困難です。ブロックチェーン技術によって支えられている仮想通貨交換業として、この部分を応援していくことは、金融機関としての事情、仮想通貨のカルチャーの両方を知っている私が中心となって取り組んでいかなければならない事だと思います。
仮想NISHI
ハル
コミュニティはとても大事ですね。学びも多いですし、何よりもパワーを感じます。
コアな方々はTwitterやDiscordで四六時中、情報発信をしているイメージです。「もしかしたら寝てないのかな…?」と思うほど(笑)コミュニティの中の人達と一緒に業界を盛り上げたいですし、中の人の声を直接聞けるような場も作っていきたいですね。
そういった意味では、東京に「仮想通貨BAR」のようなものを復活させたいと考えています(笑)トレーディングBARを構想している人に話を聞きに行ったりしていますね。
やはり、仮想通貨のコミュニティが集まれる場所を作りたいなと。 カフェとかで仮想通貨の話をしていると怪しいと見られる部分もありますが、公に語れる場所があると健全な発展に繋がりますよね。店員さんのリテラシーが高ければ、怪しい話を防げるという利点もあります。
仮想NISHI
日本の仮想通貨市場の復活のためには
CoinPost各務
相場が盛り上がるにしたがって怪しい儲け話は付きものですが、市場に関する情報は、取引所主体でクリーンな配信を行うことは難しいのでしょうか。(新しい規制を踏まえ)情報配信の在り方も含め、ご意見をお伺いしたいです。
ユーザーが劣勢に立たされないために、できる限りの情報開示をしたい。 投資家が適切な投資判断を行うにあたって、仮想通貨取引所がデータを持っているのも事実で、日本の投資家に向けて投資に必要な情報を開示していくことが、とても重要なことだと考えています。
まさに、資料(*1)にあるような「負の循環」を、情報開示で正していきたいという感じですね。
仮想NISHI
負の循環(*1)
正しい情報配信から、業界のリテラシーが向上することにより、仮想通貨の資産としての重要性に気づく。この「正の循環(*2)」をもとに、日本の業界を底上げする必要があると考えています。
仮想NISHI
正の循環(*2)
ハル
日本の業界のリテラシーを向上させたいというNISHIさんの考えに同意します。
個社が行う情報開示以外にも、業界団体であるJVCEA(一般社団法人日本仮想通貨交換業協会)やJCBA(一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会)、JBA(一般社団法人 日本ブロックチェーン協会)とも連携し、お客様が不利を被る可能性のある迷惑営業行為等を予防するような取り組みもしています。JBAでも先日アナウンスしたところです。
関連:https://jba-web.jp/archives/20200305
お客様に安心感や満足感をもってお取引いただけるような環境を提供していきたいですね。NISHIさんとは、そういう点でも連携したいと思います。
日本の仮想通貨市場の復活のためには、最近海外に流出しがちなお客様に改めて国内の取引所の良い点を知っていただく必要があると思っています。
bitFlyerとしては、高い流動性を保ちながら、日米欧の3地域で法令に沿ったコンプライアントな運営をしています。bitFlyerは日米欧の3地域において仮想通貨交換業者としての認可を受けた世界で唯一の仮想通貨取引所として、お客様に究極の体験をお届けしていきたいです。
日本人投資家に国内へ戻ってきてもらう。まさに、国内仮想通貨市場の「復活計画」ですね。
これについては、先日CoinPostで掲載されたデコチャートの記事(*3)でも話しましたが、ビットコインFXに限らず、アルトコイン取引でも、海外の多角的な情報を得ることができない日本国内の状況は、厳しい取引環境を強いられてきたと言わざるを得ない。この状況をどのように変化させるかがポイントの一つになります。
日本に精度の高い情報があるという状況は、逆に世界に対して日本人投資家が優位性を持つ。日本の仮想通貨市場が復活するきっかけになると私は思います。 このような、正しい循環。事業方針は違いますが、bitFlyerとTAOTAOで作っていきましょう!
仮想NISHI
ハル
ぜひ、やっていきましょう!
日本の仮想通貨市場への想いを語る両者。
TAOTAOは、世界最高レベルの良質なサービスを日本国内のユーザーに提供することを目指し、新たな事業運営を行う。「日本市場に世界の素晴らしいものを」の流れの中に、先日発表された世界最大級の仮想通貨取引所、Binanceとの戦略的提携に向けた交渉も含まれるという。
一方bitFlyerは、より堅実な事業運営と利用者の安心感を高める取り組みに注力しつつ、欧米圏など世界に打っていきたいという。日本市場特有の厳格な環境で培ったノウハウを活かして事業を拡大、グローバルで運営を行う中で、日本に還元していくことを考えていくとした。
近日公開予定のインタビュー後編では、このような取引所の取り組みから、仮想NISHI氏とハル氏が語る「仮想通貨市場」について掲載予定。