ひろゆき×加納裕三×渡辺創太
CoinPost株式会社が企画・運営し、一般社団法人WebX実行委員会が主催する国際Web3カンファレンス「WebX」において、渡辺創太氏、ひろゆき氏、加納裕三氏による、特別ディベートが行われた。
今回のディベートはReHacQ SPとして開催され、『Web3で生活と産業の未来はどう変わるのか?』というテーマに基づき、さまざまな視点から議論が展開された。ひろゆき氏は一般人の立場を代弁し、Web3の実際の価値や産業への影響について疑念を呈し、鋭い質問を投げかけた。
一方、加納氏と渡辺氏は、Web3の理念とその技術的な可能性に基づいて対話を試みた。
登壇者概要
- ひろゆき:匿名掲示板「2ちゃんねる」開設者。フランス・パリ在住。英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人。
- 加納 裕三:bitFlyer代表取締役。2014年に株式会社bitFlyerを共同創業。暗号資産の国内法改正や自主規制ルールの策定に尽力。
- 渡辺 創太:Startale CEO。日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkのファウンダー。Sony Block Solutions Labs Director、日本ブロックチェーン協会理事。Forbes「アジアの30歳以下の30人」選出、Newsweek「世界が尊敬する日本人100」選出。
- 高橋 弘樹(モデレーター):株式会社tonari社長。テレビ東京を経て、2023年に独立し株式会社tonariを創業。ビジネス動画メディア『ReHacQ』を運営。
Web3に産業を変える能力はあるのか
ひろゆき氏は、Web3が産業に与えるインパクトについて疑念を呈し、「Web3は、産業が大きく発展するほどのポテンシャルがないのではないか」との見解を示した。「例えば、送金コストが安くなる。しかし、なぜ2024年でもWeb3関連技術が広く使われていないのか?どんな技術があれば、この問題が解決されるのかを知りたい」と問いかけた。
この質問に対して、加納・渡辺氏はともに「すでに技術スタックは相応に整いつつある中で、キラーアプリやUI/UXが今後の課題だ」と回答。しかし、ひろゆき氏は、「技術が整いながらも、キラーアプリが生まれていないのは、その技術が本当に必要とされていないからではないか」と追及した。
加納氏は、インターネットの黎明期においても、基本技術が整う中で、X(旧ツイッター)のようなキラーアプリが後発で生まれたことは誰にも予測されなかったことを例に、Web3のブレイクスルーも今後の発想と試行錯誤の中から生まれる可能性があると指摘した。
渡辺氏は、Web3ユーザーは現在、全人口の3%程度に過ぎず、インターネットの初期段階と類似すると切り出し、当時インターネット掲示板「2ちゃんねる」で多くのユーザーを集めたひろゆき氏に、インターネットが急成長した要因について問いかけた。
ひろゆき氏はこれに対し、「インターネットは、メール、メディアなどを低コストで実現できること、インターネットでしかできないことが多かったからこそ成長した」と述べ、Web3はインターネットと同等のポテンシャルを示せていないと指摘した。
Web3でしかできないこととは
次に議論されたのは、「Web3でしか実現できないこと」についてだった。
加納氏はまず、「Web2の世界ではデータの転載や複製が(コピー・ペーストで)容易に行えるが、Web3ではデータの改ざんが基本的にできない」と述べ、Web3の革新性を強調した。さらに、「インターネット上で改ざん不可能なデータを低コストで流通させられるようになった点が重要だ」と説明。
続けて、加納氏は国際送金の例を挙げ、「ステーブルコインなら約5秒で米国に送金できる。これはWeb3でしかできないことだ」と述べた。しかし、これにひろゆき氏はすかさず反論し、「ペイパルでも同じこと(安価な即時送金)ができる。Web3でしかできないというのは誤りだ」と指摘した。
「企業に依存しない」はメリットではない?
議論は、ペイパルのような「中央集権的な企業への依存」の是非に移った。加納氏は、「ペイパル(特定の営利企業や中央集権)が送金を止めたり、顧客の口座を凍結したりするリスクがあるが、Web3のシステムではそのような影響を受けない」と主張し、Web3が提供する”ユーザーの所有権”や“自由なコミュニケーション”の重要性を強調した。
これに対し、ひろゆき氏は「Web3の最大の強みが“企業に依存しないこと”だと言うが、それを望むのは一部の犯罪者くらいではないか?大半のインターネットユーザーにとっては重要なポイントではない」と反論した。
さらに、ひろゆき氏は「ほとんどのユーザーは、物が買える便利さやYouTubeが見られる便利さのためにインターネットを使っているのであって、仮に『国家や企業に依存しないからインターネットが便利』と言われても、多くの人はそれを支持しなかったのではないか?」と追及した。
これに対し、加納氏は「現在のユーザーが非中央集権性を求めているというわけではないが、インターネットを設計した人々の理念は、中央集権的なネットワークからの自由を求めるものだった」と説明した。この理念は、Web3の構築者たちにも共通しているという。
加納氏はさらに、インターネット(Web2までの世界)が「安価で自由なコミュニケーションを可能にする」ことでその利点を確立したように、Web3もまた「企業に依存しないシステムで自由に取引できる」という点に可能性があると主張した。
プライバシーと改ざん耐性
ディベートの後半では、プライバシー保護や、改ざん耐性に関する議論が展開された。このテーマはWeb3の核心的な領域であり、ひろゆき氏がやや劣勢に立たされる場面も見られた。
Web3の革新性は、複数の技術革新を組み合わせた点にある。従来のP2Pの暗号化通信技術に、コンセンサスアルゴリズムを組み合わせたことで、改ざん耐性が向上したブロックチェーン技術が実現した。この「改ざんできない」特性は、Web3の根幹をなす革新であると加納氏は強調している。
渡辺氏は「自から情報を公表しない限り、ウォレットアドレス間でのビットコイン(BTC)送金から個人情報を特定することはできない」と述べ、Web3のプライバシー保護の強みを強調した。加納氏も「ペイパルのような中央集権的な企業は、個人に紐づく送金データを保有しており、これがプライバシーのリスクとなる」と指摘した。
企業の判断に基づいて第三者に提供されたり、取引が制限されたりするリスクがある。ペイパルが特定のユーザーのアカウントを凍結したり、送金を停止する場合、ユーザーは企業のポリシーや規制に従わざるを得ない。こうした影響を受けないことが、Web3の非中央集権的なモデルが持つプライバシー保護の利点として強調された。
一方、ひろゆき氏はインターネットプロバイダーが関与するネットワークレイヤーに話を移し、「完全なプライバシー保護は実現不可能」との議論を展開しようとしたが、加納氏は冷静に議論をアプリケーションレイヤーに戻し、Web3の利点について説明を続けた。
また、ひろゆき氏は過去に一部の仮想通貨発生した51%攻撃を例に挙げ、「改ざんができない」という主張に異を唱えた。彼は、時価総額が小さい仮想通貨(例:モナコイン)では、ブロックチェーンネットワークの計算能力の過半数(51%)を占有することで、取引を不正に改ざんするコストが低く、リスクが高いと指摘した。
これに対し、加納氏は「外れ値のような事例を持ち出して、全体を否定するのは屁理屈だ」と反論した。
Web3のシステムでは、改ざんが試みられたとしても、その改ざんが成功するには非常に厳しい条件が設定されており、現実的に攻撃が成功するのは極めて難しい。渡辺氏は、「Web3は、改ざん耐性が極めて高い設計になっている」と言い直した。
さらに、ひろゆき氏は「Web3だけが検閲されないわけではない」と指摘し、ペイパルのような中央集権的な企業の例を挙げて議論を進めた。ペイパルに関する話題は「検閲」の問題を連想させ、議論の焦点がやや混同されたようにも見えたが、加納氏は「Web3の革新性は改ざんができない点にある」としっかり反論し、話を戻す形となった。
Web3のユースケース確立はこれから
このディベートを通じて、Web3の複雑な理念と現実的な利用価値の間に存在するギャップが浮き彫りになった。ひろゆき氏の率直な質問に対し、加納氏と渡辺氏はWeb3の可能性と理念を説明し、Web3が生活と産業にどのようなメリットをもたらすかを示そうと努めた。
議論の終盤で、渡辺氏は「ひろゆきさんは今回、過去の事例を引き合いに出して批判した。確かに叩けば誇りは出る状況。しかし、私たちはWeb3の実際のユースケースを創出に努め、多くの人に納得して頂けるよう努力していきます。」と締めくくった。
加納氏は登壇後のX(Twitter)で、「Web3はまだ発展途上であることを認める」としつつ、「ひろゆきさんは常に顧客視点であると感じた」とも評価。インターネット黎明期とのシンパシーにも言及した。
ひろゆきさん❗️
— 加納裕三@bitFlyer (@YuzoKano) August 28, 2024
Web3がまだ発展途上であることは認めます。またひろゆきさんは常に顧客視点であると感じました。
Web3に関わる人の多くは、非中央集権的システムが社会を良くするというビジョンを信じています。それはインターネット初期の時代に似た感覚だと思います。… pic.twitter.com/TPvr8jD7sc
なお、ひろゆき氏はグローバルな掲示板サービス「4chan」で有料会員の支払いを仮想通貨で受け入れており、ペイパルやクレジットカード会社に依存しない状況を整備したり、過去にはブロックチェーンゲームの「STEPN」を実際にプレイして肯定的な姿勢を示すなど、周囲のイメージよりもWeb3に対する理解は深いとの指摘もある。
自身のX(旧Twitter)では、今回あえて”冷や水役”を買って出たと述べ、加納祐三氏と渡辺創太氏にエールを送った。
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