
イーサリアムの体制を内部から批判
暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)の元ベテラン開発者、ペーター・シラージ氏は20日、2024年にイーサリアム財団幹部宛てに提出した書簡を公開した。財団の体制について「決してコントロール力を手放さない支配層」がいると批判している。
シラージ氏は、イーサリアムがローンチした直後の2015年から財団に勤務していた。特に、イーサリアムノードを実行するために使用されるソフトウェアクライアントの中でも、最も人気のある「Geth(Go Ethereum)」を率いていたことで知られる。
シラージ氏は、今年イーサリアム財団を離れている。2024年5月の書簡では、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏を最大限尊敬しているとしつつ、次のように述べていた。
ブテリン氏の注意力、研究の方向性、知力、寄付、投資は、どのプロジェクトが成功するかを非常に高い確率で決定づける。
彼の意見は、イーサリアムのエコシステム全体において何が許され、何が許されないかを完全に決定づける。したがって、グレーゾーンでの行動を成功させる鍵は、ヴィタリック氏に「まあまあ大丈夫」と納得させることだ。
また、エコシステム参加者もブテリン氏、あるいは彼の周囲にいる5~10人の人物に関与させることが成功の鍵と考えるようになり、イーサリアムの「支配層」が存在するようになったと意見した。
新規プロジェクトは、初期投資家やアドバイザー役として、常に同じ5~10人にアプローチしていると続ける。
最も成功したプロジェクトはすべて同じ5〜10人の人々、同じ1~3社のベンチャーキャピタル(VC)によって支援されており、平等性が薄れていると指摘する格好だ。
シラージ氏は、報酬についても不満を表明している。同氏がイーサリアムに勤務した最初の6年間で、イーサリアムの時価総額は0から4,500億ドルまで上昇した。しかし、報酬は税引き前で合計62万5,000ドル(約9,500万円)だったと明かしている。
こうした低報酬は、インセンティブの歪みや利益相反などに繋がると述べた。一方で、幹部はもっと高額の報酬を受け取っているとも訴えている。
さらに、シラージ氏の書簡公開を受けて、イーサリアムのレイヤー2であるポリゴン(POL)を進めるポリゴン財団のサンディープ・ネイルワルCEO兼創設者も、自身の不満を吐露した。
イーサリアムは民主主義であり、長期的に真に機能する唯一のシステムだとしつつ、イーサリアムコミュニティは自らを厳しく見つめ直す必要があると主張している。イーサリアムに大きく貢献した人物が自分のしていることに疑問を持つような状況を問題視した。
また、イーサリアム財団がポリゴンをL2として公式に認定せず、それに伴う公式のセキュリティ保証を与えていないことを批判している。
レイヤー2とは
「2層目」のブロックチェーンのこと。全ての取引履歴をメインチェーンに書き込むと負荷が大きくなり、処理速度の低下やネットワーク手数料の高騰につながる。そこで、取引履歴の一部をオフチェーンやサイドチェーンに記載するようにすることでメインチェーンへの負荷軽減や処理速度向上を期待することができる。
なお、ブテリン氏はネイルワルCEOの発言後、ポリゴンがイーサリアムのエコシステムにおいて貴重な役割を果たしていることに感謝しているとXに投稿した。
個人的には、近いうちにポリゴンが優れたZK(ゼロ知識)技術をPoSチェーンに適用し、イーサリアムL1から完全な保証を得られるようになることを願うと続けている。
イーサリアムのコミュニティでは以前より、新規開発者の数が競合チェーンのソラナ(SOL)より少ない傾向などについて、イーサリアム財団幹部を非難する声が上がっていた。
こうした状況も背景に、イーサリアム財団は改革を進めているところだ。ブテリン氏は1月、財団は技術的リーダーシップの強化、エコシステム参加者とのコミュニケーション向上、新たな人材登用による実行力の加速を目標として組織改革に取り組んでいると述べた。
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