DASH投資財団が金現物へ投資
仮想通貨DASHのネットワーク収入を管理するDASH投資財団(DIF)が、ポートフォリオのリバランス戦略の一環として金の現物を購入したことがわかった。この戦略を支えるのは、「所有者もメンバーもいない投資ファンド」というDIF独特の仕組みだ。
DASH投資財団=DIFとは
DIF(Dash Investment Foundation)は、昨年3月に設立された投資ファンドだ。Dashネットワークのマスターノードが全ての管理と運営を担っている。投資はDASH建てで行われる。なお、Dashネットワークにおけるマスターノードの役割としては、フルノード運営に加えガバナンス機能も含まれ、マイナーと同等のブロック報酬も与えられる。
DIFを構成するのは、マスターノード運営者が選出した2人の理事と6人の監督者(スーパーバイザー)。その監督者の一人でYouTubeにて積極的な情報発信を行なっているAmanda Johnson氏は、DIFを次のように説明している。
「厳密に言えば、DIFはブロックチェーンネットワークによって制御され、資金提供を受ける世界初の伝統的な法人組織といえる。ファンドの引受人も存在しない。」
DIFの資金は、ブロック報酬の10%が割り当てられるDash DAO(分散型自律組織)の自主管理型トレジャリーシステムから提供されている。DIFはその資金を用いて、ブロックチェーンをはじめ、決済分野や消費者向け技術分野のスタートアップにビジネスローンの提供や、株式投資などを行う。
そして、今回DIFがポートフォリオへの組み入れに選んだのが金への投資だ。
DIFのリバランス戦略
DIFのリバランス戦略の考案者は、DIFの投資コンサルタントで昨年、金融部門で米Forbes誌が選ぶ「30歳未満の30人」の一人として選ばれた仮想通貨ファンドマネージャーのDemelza Hays。Haysはその仕組みを次のように説明している。
「この戦略の目標は相関性のない二つの資産間でリバランスすることにより、より多くのDashと金を蓄積すること。Dashがポートフォリオの50%を超えた時には、Dashを売って金を買い、Dashがポートフォリオの10%を下回ったときに金を売ってDashを買うというのが、主な考え方となっている。この方法により、資産を売るときは高く、買うときは安くという取引戦略をとることができる。」
このパッシブ・リバランス戦略に加え、DIFはブロックチェーン・ベンチャーキャピタルやスタートアップの株式へも積極的に投資を行なっていく方針だという。
仮想通貨を使った金投資プラットフォーム
DIFが金投資のプラットフォームとして選んだのは、ビットコインおよびDashで金現物の売買が可能なVaultoro。 2015年に創設されたVaultoroの金地金は、スイスにあるトップクラスの保管施設で厳重に保管され、保険がかけられているという。公式サイトによると、これまでに世界95カ国以上から1億3200万ドル(142億円相当)の金が取引されたとのことだ。
今回、DIFは120グラムの金を75Dashで購入したという。(執筆時現在の1グラムあたりの金価格は6618円) なおDIFの5月31日付けの月次報告によると、DIFは現在27万1520ドル(2900万円相当)の運用資産をDashで所有している。
法定通貨から離れる動き
仮想通貨と金の支持者に共通する傾向の一つとして、現在の通貨システムに対する懸念が挙げられるかもしれない。特に昨今のコロナ禍に対応するため、多くの中央銀行が「異次元的」金融緩和政策を行なっており、法定通貨価値の希釈が指摘されている。
前出のDemelza Haysは、昨年10月に行われたインタビューで次のように述べている。
「今後数十年の間に、人々はますます実物資産に目を向けるようになるだろう。その場合、人々は金とデジタル・ゴールドのどちらかを選択するだろう。」
金は長い歴史の中で、リスクヘッジのための資産として信頼を築いてきた。しかし、デジタル時代を迎えた現在、価値の交換媒体としては物理的な制限がある。一方、仮想通貨はボーダーレスで決済が可能であり、移動に物理的な制限はないが、歴史は浅く、価値保存機能の証明はこれからだ。
しかし、この二つの資産を組み合わせることで、法定通貨を介さない資産形成の一つの形としての可能性も感じさせられる。
決済手段としてのDash
MoneroやZcashと並ぶ匿名通貨として一時は注目を集めたDashだが、現在はプライバシー重視のデジタルキャッシュとして、決済に主眼をおいた開発が行われている。その開発努力を証明するかのように、Dashの2020年第一四半期の報告書によると、当期の南アメリカ地域におけるDashを利用した商業決済が104%の伸びを見せたということだ。
この増加は特にベネズエラとブラジルでの提携が加速していることが要因となっており、ベネズエラではファーストフードチェーンのバーガーキングで、Dashでの支払いが1月から可能になっている。
日本でも今年4月、Dash Japanチームが規制当局との連携を図り、取引所への再上場を目指すための予算を獲得したことが報告されている。