国際送金に関する情報収集ルールの修正案
米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)と連邦準備制度理事会(FRB)は、新たに、米国を起点または終点とする国際送金に関する情報収集要件の変更を提案した。
この修正案が承認されると、国外との送受金に関する情報の収集と保持義務の対象が、現行の3000ドルから250ドルに引き下げられることになる。さらに同規則が暗号資産(仮想通貨)にも適用されるよう、規則の明確化が盛り込まれている。
銀行秘密保護法およびトラベルルールの改正
10月23日に発表された提案は、銀行秘密保護法(BSA)の記録保持規則の下、金融機関に義務付けられている、「米国外で開始、または終了する資金の送金」に関する情報収集と保持の閾値を修正するもので、現行の3000ドルから250ドルへ引き下げられる。
また、FinCENが発令した、金融機関間で共有すべき、送金に関する情報要件を定めた「トラベルルール」の閾値(最低ライン)も同様に修正されることになる。ただし、閾値の修正は国際送金に限定され、国内送金に関しては現行の3000ドルに据え置かれることが明記された。
さらに、この修正案は、同規則で使用されている「お金」の定義を明確にすることで、仮想通貨やデジタル資産を利用した送金にも改正ルールが適用されることを確実にすることも目的の一つである。デジタル資産についての記述は以下の通り。
「兌換可能な仮想通貨(=Convertible virtual currency =CVC):通貨と同等の価値を有する、もしくは通貨の代用として機能する、暗号通貨のような交換媒体。ただし法定通貨としての地位は有していないもの。」
修正案の必要性
銀行秘密保護法の記録保持規則及びトラベルルールは、資金移動に関する情報を追跡可能にする仕組みを作ることで、マネーロンダリングなどの金融犯罪を摘発することを目的としている。
現在、3000ドルを超える資金移動に関する情報収集及び保持が義務付けられているいるが、当局が入手した情報によると、実際には、テロリストの資金調達や麻薬取引などの不正な資金の移動は、現在の閾値を大幅に下回る金額で多発しているという。
FinCENは2016年から2019年の間に送金業者から提出された、約2000件の「マネーロンダリング等の不審行為に関する報告書(Suspicious Activity Reports=SAR)」から得られたデータを分析。参照された129万件の送金のうち、その約99%が米国外との送受金だったという。
そして、これらの報告書の送金額の平均は509ドル、中央値は255ドルだった。
- 71%が500ドル以下 (合計金額1億7900万ドル)
- 57%が300ドル以下 (合計金額1億300万ドル)
文書では、テロ資金供与に関わる犯罪者の手口は「創造的」であり、上記の分析から判明したように、小額の送金を行うことで、金融システムの弱点を悪用しようと試みていると説明した。
FinCENはSARsプログラムだけでは、違法な資金の移動を把握するのは十分ではないと考えており、閾値の引き下げが不正なネットワークの調査には欠かせないと主張している。
さらに、米司法省の資金洗浄及び資産回収部門が閾値引き下げを助言していること、また、金融活動作業部会(FATF)が、特にテロ資金供与の調査において、小額取引の記録が法執行機関にとって重要だと指摘していることを、修正案の根拠としている。
仮想通貨業界にも適用されるトラベルルール
昨年11月、FinCENのKenneth Blanco局長は、CVCにもトラベルルールが適用されるため、その利用者もこのルールを遵守する必要があるとの見解を示した。つまり仮想通貨取引所やウォレットサービス提供などの暗号資産サービス業者(VASPs)にもトラベルルールが適用される。
トラベルルールでは、金融サービス提供者に、送金先や送金元に関連した顧客情報を規制当局と共有することが求められている。
仮想通貨業界でも、トラベルルール準拠のための通信規格の開発などが進められてきており、6月に行われたFATFの全体会議でも、技術ソリューション開発面で、準拠対応に向け進展が見られると評価された。
FinCENは、閾値引き下げ提案に対するパブリックコメントを募集しており、特に、次のような点に関してのコメントを歓迎するとしている。
- 情報の収集がFinCENの適切な役割遂行のために、実用性があり、必要であるか
- 情報収集関連で発生するコストの見積もり
- 収集される情報の質の向上方法
- 自動化された情報の収集技術など、IT技術の適用によるコスト削減方法
国際送金に関する個人のプライバシーという問題は、ここでは論議されていないが、規制準拠のための技術開発が活発化することも見込まれ、テクノロジー企業にとっては、新たなチャンスと言えるかもしれない。
参考:FinCEN 修正案