フィデリティがビットコイン批判に反論
その理念に傾倒する支持者が、世界至る所に数多く存在する一方で、ビットコインは各方面から罵詈雑言を含む様々な批判を浴びてきた。
米金融最大手フィデリティの暗号資産(仮想通貨)関連子会社「Fidelity Digital Assets(FDA)」は、そのような批判の中でも、特に執拗に繰り返される、以下の六つの批判に対して、最新の反論を展開した。
1.価値の保存手段としては価格変動が激しすぎる
2.支払い手段としては失敗している
3.エネルギーを浪費している
4.不正な活動に使われている
5.何の裏付けも無い
6.ライバルに取って代わられる
1.価格変動の激しさ
ビットコインの価格変動は、「完璧な供給の非融通性と介入と無縁の市場」とのトレードオフだとフィデリティは反論している。「市場が成熟し、様々な金融商品が開発され、市場参加者が増加するにつれ、日々の価格変動は相対的に低下していくと考えられる」と前置きした上で、上記二点について、次のように解説した。
供給の非融通性
ビットコインの供給量は限られており、その発行速度も調整されている。つまり供給の調節に融通が効かないのが、ビットコインの特性であり、ビットコインの希少価値を高めることに貢献している。
介入とは無縁の市場
ビットコインのボラティリティは「介入に抵抗力のある市場」であることの代償と考えられる。中央銀行・政府は、人為的にボラティリティを抑制するために、ビットコイン市場を支援したり下支えするなどの介入することはできない。
介入なしでは、崩壊する可能性があるような歪んだ市場=「人工的な安定性」よりも、ボラティリティを伴う「真の価格発見」ができる市場の方が望ましいかもしれない。
以上のような点から、ビットコイン投資家は、ボラティリティを「大規模な未開拓の市場を抱えた有望資産」にアクセスするためのコストもしくはプレミアムと捉えているとフィデリティは強調した。
2.支払い手段としては失敗
コーヒー一杯の支払いなどの小額決済で、Visa、MasterCard、PayPalなどの決済業者が提供するスループットには及ばないと言う点で、ビットコインは失敗だとの批判がある。
また、ビットコインを「資産」として分類している米国では、ビットコインを使った支払いには、税務上、損益計算も必要となり、支払い手段としての魅力が損なわれていると指摘した。
しかし、フィデリティは、ビットコインは日常的な支払いではなく、高い決済保証が必要とされる取引で、その真価を発揮すると主張する。
「ビットコインは、分散化や不変性といった中核的性質を提供するために、高価で限定的な容量など、意図的なトレードオフを作り出している」
分散化を実現し「抑制と均衡」を実装するためスループットが限定的であるという、ビットコインの特性を受け入れた上で、ビットコインが提供する「グローバルで不変性を持った取引」を必要とするのは何か、と発想の転換を図ることをフィデリティは提案している。そして、ビットコインに適した決済として、国際的な企業間、中央銀行や政府間などの、グローバル決済を例にあげた。
フィデリティはChainalysisのデータを引用し、2017年以降、四半期毎に5億ドル超のビットコインが、オンライン決済業者を通じて送金されていると指摘。最低で年間20億ドル(2090億円相当)のビットコインが決済手段として既に使用されている実績があると述べている。
3.エネルギーの浪費
ビットコインのマイニングが消費する電力量は、常に環境問題と絡めて批判されてきた。
しかし、フィデリティは、現在ビットコインのマイニングの大部分(推定73%)は、再生可能な自然エネルギー(水力発電、風力、太陽光など)を利用していると指摘した。
さらに、輸送のインフラが整備されていないガス田(ストランデッドガス)やその副産物(爆発の危険性を避けるために燃焼させるフレアガスや空気中に放出するベント)を利用した発電でマイニングを行う事業も設立されているという。実用性の乏しい資源を活用し、かつ炭素やメタンの排出量削減に繋がる、一石二鳥の利用法だ。
Crusoe Energy SystemsやEquinorといったエネルギー企業が、既にフレアを利用した発電で、ビットコインマイニングに参入すると発表しているそうだ。
ちなみに、アメリカの二大油田が、昨年、フレア・ベントさせた約5,000億立方フィートのガスは、大気中に直接放出された場合、石炭を燃料とした火力発電所7カ所分が気候変動に与える影響に匹敵するとのことだ。
環境団体から批判を受けるビットコインマイニングが、環境問題改善に結びつく動きが始まっているようだ。
4.不正な活動に使用される
この批判もよく耳にするものだが、実際は、ビットコインは「現金やインターネットと同様、中立的」であるとフィデリティは指摘した。ビットコインそのものが犯罪を作り出すわけではない。
ブロックチェーン分析会社Ellipticのデータによると、ダークマーケットやランサムウェア、詐欺的活動などの不正活動に、ビットコインを利用する事例は減少傾向にあり、近年、不正活動に関連した取引はビットコインの取引全体の1%未満となっているとのことだ。
さらに、ブロックチェーンの特性を利用し、ビットコインを介した犯罪行為の追跡を可能にする科学捜査技術も開発されているため、犯罪者がビットコインを利用する「障壁」ともなり得る。
5-6.価値の裏付けとネットワーク効果
「ビットコインには何の裏付けもない」との批判も多い。法定通貨の場合は、発行元である「政府への全幅の信頼と信用」、そして国の法令によって裏付けられている。そして、ビットコインは「コードと主要な利害関係者間のコンセンサス」がその支えとなっている。
ビットコインの主要な利害関係者は、ビットコインのユーザー、マイナー、ノード、ソフトウェア開発者が含まれ、「ビットコインの特性を実現するために、ネットワークを利用し、支持するという明確な意思表示」を行なっている。このようなビットコインのネットワーク効果が、ビットコインの信頼性を強固なものにしていると、フィデリティは主張している。
そして、ビットコインには、価値を生み出す特質があり、その特質を提供するために、意図的にスループットやボラティリティといった側面を代償にしている。一方、他の仮想通貨は、このようなビットコインの欠点を改善しようと努力したが、結果的にビットコインの中核的な特質を犠牲にすることになったとフィデリティは指摘。
既に他のPoWベースの暗号資産の時価総額の総計よりも、桁違いに大きい時価総額を誇るビットコインの強みは、そのコミュニティとネットワーク効果であり、他のネットワークが再現することは大変困難だろうと、フィデリティは結論づけた。